なぜ自転車旅か?
最近はとてもありがたいことに「カヤック旅のジョアナ」のイメージが定着しつつあるようで、時々こんなコメントをいただきます。
「カヤック旅はやったことないなー。自転車旅ならあるけれど」
人力・野宿の旅といえば、自転車旅行。
高校生、大学生のころに挑戦したことがある人も少なくないのでは?
自転車旅行をきっかけに、山登りやその他の外遊びに引き寄せられる人もいれば、愚直に自転車に乗り続ける人もいます。
だけど私、実は自転車旅行って、やったことなくて。
小学校4年生くらいからは、自転車も持ってなかった。「危ないから乗っちゃいけない」って両親が。高校生・大学生くらいになると、自転車を借りて乗ることはあったけれど、それでも泊りがけで自転車を漕ぐなんて、未体験ゾーン。
比較的メジャーな遊び「自転車旅行」を一切経験せず「カヤック旅が大好き」と言い続けることは、説得力が欠ける気がして。私も自転車旅行デビューをすることにしました。
東南アジア自転車旅の計画
初めての自転車旅行は、タイ、カンボジア、ベトナムの3か国をめぐる東南アジア横断旅行。
なぜ自転車旅の経験もないのに海外なのか。この自転車旅行に出る前、私は半年間にわたるヨーロッパのドナウ川下りの旅を終えてトルコに滞在していました。
2022年9月。ヨーロッパと日本を結ぶ飛行機は価格が高騰。ロシア情勢による原油価格の上昇と航路の変更によるものでした。日本に帰る直行便はベラボーに高い。これを回避するには2つの方法がありました。
ひとつは、北欧で乗り換えて、北極回りで日本に帰ること。これは飛行時間がものすごく長いうえに、あまり安くない。
もうひとつは、東南アジア、タイ経由で日本に帰国すること。
しかもよく調べてみると、トルコからタイ、タイから日本と、別々のチケットを予約する方が安かった。
だったらついでに、タイも観光しちゃおうか。
いや、せっかくだから安いバスに乗ってベトナムまで行ってみよう。
いや、待てよ、バスは車酔いがひどい。
よし、道路が繋がっているなら、自転車も走れるだろう。
自転車旅行の計画はトントン拍子に決まりました。
自転車は現地調達で。バンコクの街を歩き旅の相棒を探す
もともと自転車を持っていないから、現地調達することに。狙いは中古自転車屋さんです。
この自転車屋さんがあるのは、バンコクの繁華街から少し外れたところ。高架下にビニールシートを張った、油臭い屋台料理が並ぶエリアの先。だけど屋台といっても賑わいはありません。バンコクの中でもお金がない層の人たちだけが食べるのか、誰も足を止める様子がありません。
でもバンコクって、私たちが思っているほど物価が安くないんです。
日系のラーメン屋さんは一杯800円くらい。
フードコートのガパオライスなら300円くらい。
もちろん1本30円の焼き鳥屋台もあるけれど、「東南アジア=激安」というイメージは、もはや必ずしも正しいとはいえないのかもしれません。
バンコクの自転車事情とは?
現に、あまり裕福でない地域にあるこの自転車屋さんも、こう見えて主にロードバイクなど「ちょっとイイ自転車」再生を専門にしているらしく、どれも4~55万円くらいするそう。予算オーバーです。
もともと中古自転車の売買が盛んなタイですが、コロナ禍をきっかけに廃業してしまったお店も多いそう。そんな中古自転車業界で、確たる人気を誇っているのが、ジャパニーズ・バイシクル。日本の放置自転車を輸入販売している業者があるのです。
せっかくだから日本人として、日本の自転車で旅行してみるのもおもしろそう。だけど悲しいかな、ジャパニーズ・バイシクルはブランド価値があるようで、あまり安くない。ママチャリで1万円はします。何人オーナーが変わったのかもわからない古いママチャリの底値が1万円。どうやらタイでは自転車の資産価値は下がりにくいようです。
あれも違う、これも違う。
探し回って私が最後に見つけた自転車屋さんは、繁華街から近い住宅街にひっそりと隠れていました。
場所は細長い路地の突きあたり。門の中にあって、外からは自転車が見えないので、知らなければ通り過ぎてしまうでしょう。アパートの中庭みたいな共有スペースで自転車を販売しています。インターホーンを鳴らすとお店の人が出てきて、あれこれ試乗させてくれます。口コミでも安いと評判のお店です。
安いクロスバイクで2万円くらい。
まったく自転車のことを知らない私に友人が伝授した、安全な自転車を選ぶ3つのポイントは
- タイヤの溝がしっかり残っていること
- ブレーキがしっかり効いていること
- チェーンと歯車がさび付いていないこと
この3つの条件を満たして、かつ、荷物を載せられる荷台がついているクロスバイクは3万円。不用品売買のネット掲示板とも見比べた結果、この自転車が一番お買い得と判断。購入決定!
えっ!自転車の〇〇って壊れるの?
何年振りかもわからない自転車を、ソロソロと走らせた購入初日。自転車のライトや空気入れを買いに行こうとしたときのことです。
不意に後ろで、カランッ!と金属が地面に落ちる音が。
振り返ると、あれ、なんだか見おぼえるがあるパーツ…。足元を確認すると、ありません。ペダルが脱落しているのです。
急いで拾って、ペダルと自転車本体をつなぐクランクに差し込んでみるも、うまくハマらない。ペダルを手に持ち自転車を押して歩く私に気が付いて、バイクのおじさんたちがあれこれ試してみるけど、やっぱりハマらない。
どうやらおかしいのは脱落したペダルではなく、クランクみたい。「これはクランクのネジ穴がバカになってるから、交換するしかないね」。
自転車旅行に出発する前に落っこちて、良かったです。もしこれが、何もない田舎の道路の途中だったら。さすがに自転車修理キットにクランク入れる人は、そうそういないでしょう…。
荷物を積むって、難しい!現地で教えてもらった最強のパッキング術
ようやく自転車旅のスタートラインに立ったものの、初めての自転車旅行で、荷物の積み方がわかりません。もともと自転車旅行するつもりじゃなかったから、荷物は70リットルのザックにパンパンに入っています。
重い物は、低く積んだ方が自転車が安定するのでしょう。だけど、自転車に吊り下げるタイプの専用カバンは持っていません。
後輪の上にある細い荷台にザックを載せて、ゴムひもでグルグル巻きにして固定しますが、やっぱり段差でガタガタ振動するうちに少しずつズレてきているような…。
再び自転車屋さんに行って相談すると、渡されたのは分厚い段ボール。
貧乏くさいけど、段ボールをザックの下に敷くと板のような役割を発揮してくれて、確かにしっかり固定できるようになりました。
「そりゃあもちろんね、自転車旅専用のカバンで荷物を吊り下げた方が良いよ。だけど、今までそのザックであちこち旅してきたんだろう?しっかり固定して、気を付けて走れば大丈夫さ!」
段ボールだけもらって去っていくお金にならないお客さんなのに、お店のご主人は力強く送りだしてくれました。
車道を走るって、恐~い!
自転車旅行なのに、なかなか走り出さないこの記事。
スタートラインまでが長かったけれど、漕ぎ始めてもやっぱり思うように進みません。
荷物を積んだ重い自転車に乗るのが初めてなのと。
何年振りかに乗る自転車だから、スピード感に慣れないのと。みんな本当に普段こんな乗り物乗ってるの…?
私の普段のカヤック旅について「危なそう」と言う友人もいるのですが、いいえ、みんなが日常的に乗っている自転車こそ、簡単に死ねる危ない乗り物です。生身の人間がもし鉄の塊である車に接触したら、なすすべもないでしょう。
バンコクの交通量は、なかなかのものです。歩道ももちろん人で埋め尽くされているから、車道の端を走ります。
個人的にヒヤヒヤしたのは、市街地の交差点の信号待ちによる渋滞を緩和するために設置された、交差点直進用の橋。曲がる車は一番左車線、直進はその内側の車線。橋を渡らずに直進するには、遠回りをするか、階段を上って歩道橋を歩くか。だからやっぱり、橋を渡る方が良い。だけど自転車経験ゼロの私は、路肩から離れて車道を車線変更するたびにヒヤヒヤ、ドキドキ…。生身の体で、鉄の塊に混じって走るのは、やっぱり怖い。
普段から自転車に乗っている人は、きっとそうは思わないでしょう。
果たして本当にタイからベトナムまで行けるのか?
ジョアナのチャリ旅宿泊事情~タイ編
自転車に慣れていないから、1日でどれくらいの距離を進むのかも、まったく見当がつきません。
その日、どこまで行けるかもわからないから、宿だって予約できません。いや、もちろん、宿を取らないのは金銭的な理由も大きいけれど。
だから、買いました。
東南アジアの野宿に必須のあのアイテム。
蚊帳です。
東南アジアの夏の夜に、寒すぎて眠れないということはきっとないから。蚊帳さえあれば、どこでも寝れるはず。
そんな私の自転車旅初日の宿はこちら。
お寺の脇の遊歩道の近く。適当な東屋のテーブルに、蚊に刺されないように蚊帳を張って、そのテーブルの下で眠ります。タイル張りの地面が固いけど、ヒンヤリ気持ち良い。
朝になると、通りがかった托鉢のお坊さんが、鉢の中からお菓子と飲み物を取り出してくれました。
何も持たずに出家しているお坊さんからの施しです。
持たざる者でも、人に何かを分け与えることはできるんだ。自転車旅を通して、尊い生き方に出会いました。
次回、私は事故無く走り続けることができるのか?お楽しみに!