前泊におすすめのゲストハウス「太陽堂」
発売中のBE-PAL1月号『シェルパ斉藤の旅の自由型』では、南アルプス光岳の小屋閉めを手伝った紀行文を掲載している。このコラムでは光岳とその山小屋を、写真中心に紹介したい。
光岳は長野と静岡の県境にそびえる標高2591mの山だ。登山に興味がなければ「てかりだけ」とは読めないだろう。南アルプスの最南部であり、深田久弥の日本百名山に入っているものの、一般にはあまり知られていない。日本百名山をめざす登山者が、最後に残ってしまう山が光岳というケースが少なくない。その理由のひとつがアクセスの悪さだ。登山口まで公共交通機関はないし、クルマで行くにしても、登山口までがかなり遠い。関東や中部、関西などの都会に住んでいる方が自宅を出てその日のうちに光岳に登頂するのはほぼ不可能だ。
静岡県側からのルートもあるが、最短路は長野県の遠山郷からになる。遠山郷に前泊して翌日の早朝から登るのが得策であるが、前泊におすすめの宿はゲストハウスの太陽堂だ。村の商店として使われていた建物をリノベーションしており、遠山郷に移住してきた宿主や旅人たちと仲よくなれるフレンドリーなゲストハウスである。
登山口から光岳小屋までの標準コースタイムは9時間
登山口は「日本のチロル」と呼ばれる秘境「下栗の里」よりもさらに奥にある。かつては易老渡という登山口までクルマで行けたが、現在は手前の芝沢ゲートの駐車場にクルマをとめて、易老渡まで林道を歩いてから登ることになる。芝沢ゲートから易老渡までは約4km。時間短縮と疲労軽減と下山後の利便性を考慮して、易老渡まで自転車でアプローチする登山者もいる。
易老渡からはジグザグの登山道となる。途中に面平と呼ばれる平坦な広葉樹の森があるが、ひたすら登りが続く。易老渡から稜線上の易老岳までの標準コースタイムは約5時間。易老渡から先はなだらかな登山道が続き、岩場のコースを登り切れば木道が整備された平地に出て、光岳小屋に着く。
山小屋の管理人「花ちゃん」と再会
光岳小屋は今シーズンから花ちゃんこと、小宮山花さんが管理人を努めている。花ちゃんは南アルプスの鳳凰小屋にはじまり、北アルプスの剣山荘、奥秩父の金峰山荘など、何軒もの山小屋を渡り歩いてきたツワモノだ。これまでは雇われる立場だったが、光岳小屋は自分の山小屋として切り盛りできる。良き友人でもある彼女を応援しようと、僕はオープン初日の7月中旬に光岳小屋を訪れた。初日に来たんだから最終日も来て、ついでに小屋閉めを手伝おう。そう考えて11月3日の営業最終日に光岳小屋を再訪した(友人の新聞記者は「初日と最終日に泊まれば、すべての駒をひっくり返すオセロのようなもので、最初から最後まで光岳小屋に関わったことになりますよ」と口にした)。
ちなみに花ちゃんはBE-PALの連載『シェルパ斉藤の旅の自由型』に3回登場している。最初は群馬から自転車で東京ディズニーランドをめざす旅、2回目は東北八幡平の避難小屋にわが家の薪を届ける旅、そして3回目は白神山地の避難小屋に女性ガイドと泊まる旅。どの旅も明るくて元気な花ちゃんだからこそ、いつもの単独行とは違う旅を楽しめた。
光岳には北アルプスとは違う「優しさ」がある
光岳は「絶望の光」とも呼ばれている。登山口までが遠いし、標準コースタイム9時間にもなるロングコースを歩いて登頂したわりには眺望がそれほどでもないことからそのキャッチがついた。
7月のオープン初日に来たときは雨天で、ガスに覆われて山頂からの景色がまったく見えなかったため「絶望の光」感が強かったが、11月の最終日は秋の澄んだ青空が広がり、絶景を楽しめた。ただし、光岳の山頂は樹木に囲まれて眺望がきかない。すぐ先に展望台があり、光石を名づけられた岩場に立つと、北アルプスの急峻な山岳地帯とは異なる、優しさを感じる山並みが望める。ここが日本アルプスの南端の山であり、太平洋が近いことを感じさせる風景が広がる。
来シーズンの営業開始日は現時点では未定だが、光岳をめざしてもらいたい。「絶望の光」を「希望の光」に変えてくれる花ちゃんたちスタッフが、登山者を明るくもてなしてくれるはずだ。