火を通じて、心を整える。時間をかけて、じっくりと。
「火を知り」「火を操る」ためのノウハウを、七輪の達人に取材。後半には七輪を使ったおいしいメニューも紹介しているので、じっくりご覧あれ!
環境破壊の現実を知り、自転車で旅をしたのが出発点
「七輪ほど優秀な調理器具はなかなかないんじゃないですかね」と土居一洋さんはいう。
「とにかく熱効率がいいんです。BBQコンロと比べてはるかに少量の炭で済むし、火力も強い。それに火おこしも簡単です」
土居さんは三重県の山あいで団子屋を営み、七輪で団子を焼いている。そこに至った経緯がおもしろい。
17年前、土居さんは『百年の愚行』という写真集に出会って、環境破壊の現実に衝撃を受け、一人でも多くの人にこの本を見てもらいたいと考えた。で、全国の図書館をすべて自転車で回って本を置いてもらうよう直訴する旅に出発。同時に自身も“図書館”になり、子供にもわかる環境系の本を貸し出していった。返却の代わりに次の人に回すという仕組みだ(つまり実質、配布)。各地でアルバイトをしながら8年近くこんな旅を続け、食費を切り詰めて痩せ細る一方、本には100万円以上つぎ込んで約1600冊配り、2640の図書館を回った。
土居一洋さん(右)、土居利枝さん(左)
●ひとえや●
日本の伝統の良さをたくさんの人に伝えるために
その全国行脚で痛感したのが、日本の産業の衰退だった。安い外国産に圧され、国産品がどんどん消えている。何とか守りたい。商売をやって儲けを出せば、高価な国産品も使えるし、日本の伝統の良さをたくさんの人に伝えられるんじゃないか。それなら多くの人に親しまれる団子がいいな――そんな考えから今の店をはじめたのだ。無農薬の国産米を杵でつき、国産の竹串に刺して、薪窯で蒸し、杉樽仕込みの醤油を塗って、地球に優しい日本古来の七輪で焼く。
見ていると火力の強さは想像以上だった。団子をのせたそばから煙が立ち、焼き色が付く。ひっきりなしに串を持って返していく。意外だったのが、うちわであおがないことだ。
「七輪は自動的に空気を循環するので、あおぐ必要ないんです。店にはうちわも置いてません」
焼き上がった団子を食べてみると、炭焼きの香ばしさと米の濃い甘みが広がった。
七輪はここがスゴイ
熱効率が極めて高い
周りが熱くならず卓上で使える
資源を有効活用! 炭の復活術
七輪は手軽だ!
「七輪の魅力はまだまだありますよ」と土居さんは近くの自宅に招いてくれた。立派な古民家だ。空き家を買ったらしい。
土居さんは庭にテーブルを置き、七輪をのせ、炭をおこした。
「七輪は周りが熱くならないから鍋みたいに囲んで座れます。4人までの焼き肉ならBBQコンロより断然七輪がいいです」
妻の利枝さんも入って焼き肉を囲んだ。確かに着火剤だけで簡単に火がつくし、同じ卓に食材も置けるのでカセットコンロみたいに使える。手軽だなあ。
「火力が安定して長持ちするから、続けていろんな料理ができます」と土居さんはアルミホイルでホタテ、イカ、野菜を包み、七輪にのせた。バターと海鮮の香りが漂ってくる。ホイルを開くと、具材から滲み出たスープがあふれだした。それを吸ったじゃがいものうまいこと(最初に食べた松阪牛以上かも)。肉のあとの海鮮は、幸福感を広げてくれるなあとしみじみ思う。
七輪で手軽に炭をおこす方法
七輪の底に敷かれた火皿の上に着火剤を並べる。土居さんが愛用しているのはホームセンターでもおなじみ、安価で火力も強い富士屋の「文化たきつけ」。
1.オガ炭
火付けは炭の置き方が大事。七輪下部の風口から入った空気が上に抜けるように置く。オガ炭は中央の穴が空気の通り道になるため、立てて並べる。
「ウチはやらないんでよくわからないですけど、急ぐ場合はまあ、あおぐのもありなのかな」と土居さん。うちわがないから扇子であおいでみました。
2.黒炭
天然木を炭化させた黒炭は井桁に組んで置く。丸型の七輪の場合は壁に沿って円筒状に組むか、立てるなどして、とにかく空気の通り道をつくる。
火がつくと気流が発生し、空気の通り道から炎が上がる。七輪はこの「煙突効果」を活用した構造になっているため、あおがなくても炭に火が付く。
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火が付いたら、焼き肉などをする場合は、立てていたオガ炭を横にする。立てたままだと中央の穴から炎が噴き出て火力が強くなりすぎるため、すぐに焦げてしまう。
元祖“家庭用コンロ”七輪で炭焼きのおいしさを堪能
「締めは炊き込みご飯です。テレビで観たレシピですけどね」
土居さんは土鍋の中で水につけておいた米に、何と焼き肉のタレを入れた。味つけはそれだけ。そこにシメジや鮭の切り身を入れ、蓋をして七輪へ。ぐつぐつ沸いて10分で完成。蒸らして蓋を開けると、みんなの顔が輝いた。食べてみると、なんだこりゃ? 完璧な炊き込みご飯じゃん。“焼き肉のタレ感”は皆無だ。こりゃ焼き肉のあとは毎回この炊き込みご飯でいいよ。簡単なのにうますぎる!
なるほど、もともと家庭用のコンロだったんだもんな。普通に調理しやすいわけだ。
炭焼きのおいしさを堪能できるうえに、準備も調理も手軽、洗わなくていいから(逆に水洗い厳禁)、片付けも楽ちん。友人がふらりと遊びにきたら、「それじゃ、ま」と庭でBBQ、そんな気楽さが粋だよなあ。見た目も渋いし、これからの季節は暖も取れてソロキャンプにもいいかも! ただ、テント内では使わないでね。意外とすぐに立てなくなりますよ(一酸化炭素中毒経験ありの筆者談。あは)。
土居さんいち推し!
七輪おすすめフルコース
仲間との距離が近づく少人数焼き肉
焼き肉の締めに!
超簡単炊き込みご飯
ジャンクさ皆無! まるで料亭の味
七輪料理の新たな決定版!
幸せ感がいや増す「海鮮ホイル焼き」
達人的、炭を使いこなす3要素
七輪の底部と炭の量に注意
炭の爆跳は湿気対策で防ぐ
炭と七輪はこれがおすすめ!
切り出し七輪
練りもの七輪
黒炭
オガ炭
「ひとえや」御用達の炭
※構成/石田ゆうすけ 撮影/安田健示
(BE-PAL 2022年12月号より)