日本を代表する建築家のひとり・藤森照信さん。来年の夏、“泊まれる藤森旅館(名称仮)”が長野県富士見町にオープンします。今年10月からクラウドファンディングサイト「MOTION GALLERY」で資金集めをスタートすると、わずか10日で目標金額510万円を達成、まもなく1000万円に手が届きそうな注目度が高いプロジェクトです。来年の夏は、藤森旅館(仮)でジブリの世界を体験してみてはいかがでしょうか?
藤森旅館(仮)ってどんな宿?
さて、これから造られる藤森旅館とはどんな宿泊施設なのかをご紹介します。
長野県と山梨県との県境にある小さな集落の中に建設中の藤森旅館(仮)は、一組限定(最大5名)のミニキッチン付きB&B宿泊施設。甲斐駒ヶ岳、八ケ岳、富士山の山並み、水田がある4000平米の敷地に造られます。最大の特徴は、藤森建築を観て、触れて、感じ、癒される唯一無二の空間だということ。
チェックインの案内後にはスタッフはいなくなるため、思いっきりプライベートに建物と環境を楽しむことができます。まさに自然と調和した藤森建築を堪能できる時間が過ごせそうです。現在は土地の造成までが終わっており、来年1月中旬ころには屋根の銅板貼り工事がスタート、 7月初旬にプレオープン、8月頃に グランドオープン予定となっています。
藤森照信建築が満喫できる高部エリア
藤森照信さんの建築テーマでもある“自然との調和”。代表作として有名なのは、長野県茅野市の高部地区に造られた茶室「高過庵(たかすぎあん)」と「低過庵(ひくすぎあん)」です。この高部地区にはほかにも、「空飛ぶ泥舟」「五庵」などがあり、あわせて6つの藤森照信設計による建築群を歩いて楽しむことができます。自然が多く残され、小高い丘に建てられた茶室はまるでジブリの世界感を体験できる場所。休日には、県内外から、藤森ファンが訪れます。
アメリカのTime紙で世界で最も危険な茶室トップ10にも入る茶室「高過庵」
まさにジブリ!?な「空飛ぶ泥舟」(写真右)と「高過庵」(写真左奥)
半分土に埋まった「低過庵」
壮大なプロジェクトの仕掛け人は熱意あふれるただのファン!?
建築業界や建築好きから注目される壮大な藤森旅館(仮)のプロジェクト。この仕掛け人は、藤森さんの追っかけと自らを表現する山越典子さん。20代の時に、テレビで「高過庵」をみて衝撃を受けたことがきっかけで大ファンになったといいます。藤森さんのワークショップには何度も足を運び、茅野市に移住後は玄米菜食の食堂を切り盛りしながら、得意料理を差し入れ、必ずラブレターを書き添える、という気合の入った熱烈なファン活動を続けました。
2010年に宿泊施設の設計をお願いしてから12年…。見た目はおだやかで、ほんわかした女性という印象ですが、世界的建築家を口説き落とした山越さんは、ついに起業家として動き出しました。
「藤森旅館」づくりにあなたも参加できる!
夢を実現させるためには、多くの費用が必要、ということで、今年10月からクラウドファンディングサイトに挑戦。藤森旅館の屋根に手曲げの銅板を敷き詰めるための資金集めをはじめました。挑戦からわずか10日、目標金額510万円を達成、さらにストレッチゴール(目標金額を増額すること)の800万円も達成!注目の高さを伺える結果となっています。
クラウドファンディングに参加できるのは、12月21日23時59分まで!
https://motion-gallery.net/projects/fujimori_ryokan
一枚一枚、自然素材&手作業でつくりあげていく
藤森建築の特徴は、自然素材で外観を仕上げること。 その中でも欠かせない素材として〝銅板〟があります。クラウドファンディングのリターン(返礼)として、銅板曲げワークショップや、焼杉ワークショップが行なわれました。取材したこの日の銅板曲げワークショップには、日本全国の園児から70代までのプロジェクト応援者が参加しました。
この日の参加者は約50人!高部地区の一角を借りて銅板曲げワークショップが行われました。トントンカンカンと心地よい作業音が鳴り響きます。
ワークショップは、銅板を専用の道具で蛇腹に曲げ角材でたたき、でこぼこ紋様をつくりあげる内容です。記念にお名前や絵を描く事も。発起人・山越さんは「一枚一枚手作業なので大変ですが、工業製品とは違う仕上がりになり、その事で藤森建築の魅力が増します。ずっと残るものとして、たくさんの人に関わっていただけるのは喜び」と話します。
三日間の銅板曲げワークショップには、延べ135人が参加、約1700枚が制作されました。曲げきれなかった分は、地元の方や小学生に向けたワークショップを開催予定、3000枚を目指します。
屋根に葺かれた3000枚もの銅板は歳月と共に、銅が酸化、墨を流したような漆黒色の風合いに変化していきます。藤森建築の特徴的な手法に関われるとあって参加者からは「後世に残る宿になることはたしかです。実際に藤森さんにもお会いできてうれしかった。モチベーションが上がります」と意気込みを話してくれました。藤森旅館に葺かれた銅板はどんな風合いになっていくのでしょうか。
ワークショップにはサプライズで藤森さんご本人も登場。到着すると、参加者に静かなどよめきが。
藤森さんは、「あとにもさきにもないプロジェクトでしょうね。発起人・山越さんの熱意に根負けしたことが始まりです。彼女の12年ごしの思い、多くの方に協力いただきたい」と話してくれました。
最後に。山越さんが書くコラム「藤森旅館へつづく道」の中に印象的な一節を見つけました。
『私が棺桶に入る時、人生を振り返って何かを後悔するとしたら、それは藤森旅館をやろうとしなかった事』
(2018年7月11日「藤森旅館へつづく道」より、原文ママ)
人生をかけてやりたいことをやる、そしてそれを実現させることの難しさ。藤森照信さんが山越さんを表現した“熱心な人”“熱意のある人”という言葉以上の“強さ”を発起人の山越さんから感じました。
「追っかけからはじまったこのプロジェクト12年の歳月をかけてついに実現できます。藤森さんはには感謝の気持ちでいっぱいです。関わってくださる方やお客様に喜んで頂けるよう、藤森旅館を大切に育てていきたい」と山越さんは話します。
長い歳月を経て動き出した壮大なプロジェクト。ぜひあなたも、このプロジェクトを見届け、多くの人が関わって造られた藤森旅館をぜひ体感してください。
まだまだあります!近郊のオススメ藤森建築
神長官守矢史料館・高過庵・低過庵・空飛ぶ泥舟(藤森照信氏設計の建築群)
私が書きました!
澤井理恵/北海道北斗市出身のビデオグラファー&ライター&編集者。立命館大学卒業後、東京キー局ポスプロ(テレビ局)→新聞社→地方ケーブルテレビなど、マスコミ業界を練り歩く。2015年から富士見町のシェアオフィス「富士見 森のオフィス」を拠点に活動中。