アフリカといえばジープで野生動物を観察する「サファリ観光」が有名。一方、ボートに揺られながら動物を間近で観察できる「ボートサファリ」については、あまり知られていない。今回は、このなかなか体験できない本物のジャングルクルーズをご紹介したい。
アフリカでも珍しいボートでのサファリ
筆者が住むタンザニアは、22もの国立公園を有し、自然保護区の維持に力をいれているサファリの聖地である。そんなタンザニアに来たら、「ジープでのサファリ観光」をするチャンスはあちらこちらにある。その一方で「ボートでのサファリ観光」となると、それができるエリアはアフリカでもかなり限定されている。この希少性から、ボートサファリは観光客にもとても人気が高いアトラクションのひとつとなっている。
今回はタンザニアのボートサファリとしては人気No.1とも言われているニエレレ国立公園(旧セル―ス動物保護区)内のルフィジ川での「ボートサファリ」をご紹介。ニエレレ国立公園は、タンザニアの東南部に位置するアフリカ最大規模のもので、ユネスコ世界自然遺産にも指定されている。
「ジャングルクルーズ」と聞いて多くの人が想像するのは、森の中の狭い川を小舟で下っていくというものだろう。しかし、このルフィジ川でのボートサファリでは、そのイメージとはまったく異なる、広大な景色が目の前に広がる。
タンザニアで最大の川であるルフィジ川は、川幅が1キロ近くあるため遠くまで川全体が見渡せる。そのため観光客は野生の動物がいつ水面から顔をのぞかせてもおかしくないというワクワクした気持ちと、ある種の緊張感を持って、ボートは進んでいく。
ワニのすぐ横には子供たちが!
ツアーは川辺の動物の動きが活発になる午後4時から2時間半ほどだ。料金は大人一人70,000タンザニアシリング(約4,000円。米ドルでも支払い可)。小さなボートに我々6人の観光客と、運転手とガイドの8名が乗り込みいざ出発。
その直後に、筆者の前には驚くべき光景が現れた。早速すぐに体長4メートルほどの巨大なワニを発見するのだが、驚きはこれではない。そのすぐ近くでは地元の子供たちが水遊びをしているのだ。このワニはアフリカに生息する「ナイルワニ」で、普段は魚やカエルを食べるが、シマウマやオグロヌーなど大型の哺乳類を捕食することもある。
自身も小さい子供を持つ筆者としては、子供の安全面が気になって仕方がない。ここ数年は住民がワニに襲われたという事件は起きていないため、彼らはほとんど気にせずにワニから近い距離で遊んでいるのだとガイドさんは苦笑いする。ボートから眺めている私たち観光客たちのほうが、ハラハラしてしまう光景だ。
このワニの質問から始まって、どんな疑問にもわかりやすく答えてくれたのは、「ずっと夢だった仕事をしている」と目を輝かせて語る25歳のガイドのオマーさん。失業率が高いタンザニアで、今後の成長が期待される観光業のツアーガイドは、若者があこがれる仕事のひとつ。
大学で観光学を専攻した後に晴れてガイドの仕事についたというオマーさんは、アフリカの野生動物について詳しく、とても楽しそうに話をする。聞いている方も、童心に帰って彼の話に聞き入り、動物探しに夢中になってしまう。
カバの秘密とは!?
オマーさんが遠くの川面になにかを見つけて「あそこの群れは何でしょう?」と聞く。夕方の強い日差しが川面に反射してとてもまぶしい中、今度はどんな動物に遭遇できるのか期待が高まる。「ワニ?」「違います」「まさか、ゾウ?」「違います」「ものすごい数だけど、もしかしてカバ?」「正解!」少しずつ近づいていくと30頭もいるだろうか、カバの大群が目の前に姿を現した。
ここでオマーさんがカバの秘密を教えてくれる。カバは泳げると思っている人が多いが それは誤り。水中を泳いでいるように見えるカバたち、実は川底に足をつけて歩いているのだ。暑い昼間は川の中で過ごし、5~6分程度なら水中に潜ることもできる。夜には陸にあがり草を食べる。
そんなカバの説明に聞き入っていたところ、すぐ近くにいるカバたちが大きな鳴き声を響かせた。擬音で表現すると「グワ~、ガハハハハ」。ブタの鳴き声を体重分だけ野太くした感じだ。カバってこんな鳴き声を出すんだという驚きと同時に、筆者は昨晩のロッジで聞いた動物の鳴き声を思い出した。
野生動物が現れるロッジ
筆者が宿泊したロッジは、ニエレレ国立公園から車で5分ほどの距離だが、このロッジの敷地内にも動物があらわれるのだ。屋外レストランで夕食を食べながら、すぐそこにイノシシやサルを目撃。また夜の敷地内移動には、万が一に備えてライオンを追い払うこともできるようにナイフを常に所持しているマサイ族がエスコートしてくれる。逆に言うと、いつライオンが敷地内に現れてもおかしくはないということだ。
そして夜部屋で寝ている間にも「ブホブホ」とか「ブーブー」といった様々な野生動物の鳴き声が聞こえる。姿は見えない。だが視覚からの情報がさえぎられている分、いろいろと想像力をかきたてられてゾクゾクとする体験だ。
朝起きて部屋の外を見まわしたところ、ゾウのものではないかと思われるほどの巨大サイズの糞が落ちていた。
日本人のお客さんはかなり珍しい
さてボートサファリに話しを戻そう。今回は見ることができなかったが、ルフィジ川でゾウやバッファロー(アフリカスイギュウ)の川下りを目撃することも珍しくない。
ちなみに、日本でも一般的に知られている「サファリ」という言葉は、スワヒリ語では「旅をする」という意味である。アフリカでは「サファリ」でも通じるが、いわゆる車で動物を観察するサファリのことは英語では「ゲームドライブ」と呼ぶ。
タンザニアにサファリ観光客にくるのは欧米人がダントツに多い。筆者が日本人だと伝えるとガイドの人達には「アジアから来る人はほとんど見たことがない」とかなり珍しがられた。
ここニエレレ国立公園は、タンザニアの数ある有名国立公園の中でも、まだあまり知られていない穴場的な場所である。ぜひ日本人もまだほとんど足を踏み入れたことのないここ秘境でジープのサファリとあわせて、ボートサファリはいかが? 野生の王国に迷い込んだようなサファリ体験の後の動物園は、きっともの足りなく感じてしまうことだろう。
タンザニア在住ライター 堀江知子
日系テレビ局にて、15年間アメリカの政治や社会問題の取材を経験。2022年からタンザニア在住。現在は番組制作のコーディネーターや取材、ライターとして活動。ブログやSNSでアフリカの情報を発信中。
世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員