外に出て体を動かすのが何よりも楽しいという人も、時にはじっくりと読書を。自然に根差した生き方を支えるさまざまな情報、新しい考え方に出会えるはずだ。家のリビングだけでなく、旅先でも気軽に楽しめるのが、本のいいところだ。BE-PALおすすめの2冊をご紹介!
BOOK 01
美しい孤島を蝕む病
若き動物学者の奮闘
『清浄島』
河﨑秋子著 双葉社 ¥1,980
1936年、北海道小樽市の女性がエキノコックス症と初めて診断された。エキノコックスは、キツネと野ネズミを宿主とする寄生虫だが、稀にヒトに寄生し重篤な肝臓障害を引き起こす。感染源は、かつて礼文島に移入されたキツネ。件の女性も礼文島出身だった。
本書はそうした事実をもとにした物語だ。エキノコックス症を解明すべく単身礼文島に乗り込んだ研究者土橋義明が孤軍奮闘する。腹が妊婦のように膨れる風土病、はたまた呪いかと恐れられていた病。特効薬がないゆえ、手洗いなどの感染予防を島民に啓蒙しながら宿主の野犬や野ネズミを解剖検査し蔓延状況を探る日々。そして、感染を島内に留めるべくある辛い決断を迫られることになる──。
キツネを連れてきた人に悪意はなかった。宿主の動物たちもエキノコックスも自然の摂理に従い生きているに過ぎない。やり場のない感情に苛まれる土橋に、当時実際に調査に当たった研究者の姿に思いを馳せる。
エキノコックスは今も存在し、毎年十数名の患者が出るという。北海道では沢水はそのまま飲まないのが野外遊びでの鉄則。病原体なんぞに負けてなるものか。現在進行形で闘う我々にそんな活力を与えてくれる。
BOOK 02
出汁、醬油、蕎麦、魚……
大地が育む旨さの秘密
『「美食地質学」入門―和食と日本列島の素敵な関係』
巽 好幸著 光文社 ¥946
外国旅行から戻ると、味噌汁が恋しくなったりする。出汁の利いた煮物や喉ごし良い蕎麦も日本ならではの味。そこには日本列島の成り立ちが関係していると“無類の食いしん坊”マグマ学者が壮大なスケールで探る。急峻な山があっての昆布出汁、火山に根ざす蕎麦、瀬戸内の高速潮流が育む海産物。そして地震大国であることも美食につながる要因という。和食がオンリーワンたる所以に膝を打つ。
※構成/須藤ナオミ(BOOK)
(BE-PAL 2023年2月号より)