【新米ライターは見た!】ペルーアマゾンの旅 3
朝6時半、ユリマグアスに到着した日にハンモック屋に連れて行ってくれたモトタクシスタが約束通り迎えに来た。イキトスへの船旅で必要なものを買い出しに行く。タッパーにスプーン、それにフルーツや菓子を少し。そしてタクシスタの朝食。
一通り買い物を済ませ港に向かう。港では「俺の船に乗れ」といくつかの船会社の男たちが私を奪い合い、あやうくバックパックを持っていかれそうになった。エルドラド社の船がその日の昼に出ると言うのでそちらに乗ることに。事前に調べていた船会社であったことも手伝った。
船へ上がり支払いを済ませる。ハンモック泊で1日3食付きで100ソル(約3500円)。船乗りが黙ってハンモックを吊ってくれた。2ソル。こうしたことには慣れていくか、あらゆる親切を断っていくしかない。
ハンモックに揺られていると、奥の調理場から二人組の男性コックに呼ばれた。
「はい、イチゴジュースどうぞ」
感じのよさそうなコックたちだった。
ちょうど喉が渇いていたので、ご厚意に甘えようとマグカップを握った瞬間。なんと、そのコックは自分の人差指に唾をつけ、マグを握った私の手の甲にそれを擦り付けたのだった!
う、うぉ〜!! 突然の出来事に脳内回路が停止した。
私はそのままイチゴジュースを飲みほしてしまい、おずおずとマグを返した。
「ありがとう」
「どういたしまして♪」
満足そうなコックは次に、「君を食べたいわ」といって、うつむき加減にどこかを見ていた。遅れて脳が一気にはじけ、状況を把握した。「ノ、ノ~!!!」をやっと絞り出した私の喉。そそくさとハンモックへ戻った。
パラナプラ川。ユリマグアスで、アマゾン川の支流ワガジャ川へ注ぐ。
着々と進む貨物の積み込み。そこらを見回すと乗客ほとんど増えていない、こりゃ当分出ないな、そう思った。基本的にこの手の公共交通機関?は定員に満たないと出発しない。支払いは済ませたので腹をくくって本でも読みながら気長に待つことにした。
ところがなかなか集中できない。さきほどの二人のコックが、ときおり仲良く手をつなぎながら私の前を通り、その時にハンモックを揺らしていくのだ。ちょうど集中し始めたころになると、手招きするような揺れが私を誘う。向かいの船は着々と乗客で埋まり始めていた。
一晩たって朝八時。船は乗客で満たされつつあった。海外からのバックパッカーも十数人いる。コックは私への興味がなくなったのかハンモックは揺れなくなった。少し寂しい、、、とは微塵も思わなかった。
下を押し潰さんばかりの卵がうずたかく積まれている。近くの乗客に聞くと、イキトスには養鶏場が少ないらしい。この卵のおかげで、2ソルで吊ってもらったハンモックは移動を強いられ、結局自分で吊り直すことになった。
船がエンジンをつけたり切ったりして、はじめのうちは「お、出発か?」と期待したが、それにも慣れた。船に乗り込んでから二度目の夕焼け。隣に停泊していた船はとっくにいない。
昨日朝6時半に出発した意味もわからない。乗客は皆とっくに退屈していて、やれやれといった笑みを近くのおばちゃんに送ると、似たような微笑が返ってきた。
同じ思いを共有した人がいるとわかると、のんべんだらりとした停滞時間は不思議と苦でなくなった。
あたりが暗くなった夜7時ごろ、期待値ゼロのエンジン音が鳴り、船が動き始めた。さっき微妙に違うおばちゃんの笑み。みんなニコニコしていた。
教訓、船に乗るときはまず船内を確認しよう!
【プロフィール】
志田岳弥(しだたけや、1991年10月2日生まれ)
東京都八王子市出身。大学進学を機に沖縄へ、カヤックを始める。
卒業後、2014年10月からの2年間を青年海外協力隊としてペルーで過ごす。
同国では環境教育に従事。現地の子供達と川で遊んだ日々は一番の思い出。
帰国後、現在はのんびりしながら生き方を模索中。
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