シンガーソングライター東田トモヒロさんの不定期エッセイ。今回はスノーボードです。まだまだ冬は終わらない〜。
まだまだホワイトワールド真っ盛り
立春も過ぎ、自然も街も少しずつ彩りを取り戻しつつある今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょう。
僕はといえば、未だ雪上の旅の途中にあります。先日は群馬の片品村から富山は立山へ。それから長野は小谷村の栂池、乗鞍エリアと足を延ばし、旅をしました。ご機嫌なスノーボードで様々な斜面を滑りながら、そしてもちろんライブをしながらね。
片品村ではホワイトワールド尾瀬岩鞍スキー場という、初めて訪れたゲレンデを滑りました。正午に出走した圧雪車によって整えられた、午後一番のピステンバーンは爽快な滑りを楽しませてくれましたし、友人のプロスノーボーダーに案内してもらったバックカントリーのパウダースノーの滑走も素晴らしかった。
しかしながら片品で最も印象に残ったのは、友人の案内により誘われたゲレンデ内にある食堂だったのです。ゲレンデ食(そんなワードがあったようななかったような)といえば、設定価格が割高で、わりとどちらも似たり寄ったりのラインナップだという印象をお持ちの方も多いかも知れません。
ところがこのホワイトワールドには、これまで僕が抱いていたゲレ食(さらにネーミングを短縮してみる)のイメージを根底から覆すホットスポットが存在していたのです。
初めて訪れたゲレンデでのある邂逅
「お祭り広場」と呼ばれているその居酒屋?は、実に和気藹々とした賑やかな食事処でした。まず眼を見張ったのはクラフトビールやワイン、シャンパン、ラムチャイなど、酒類のラインナップの恐るべき充実度。さらに手作りのお漬物2種はビュッフェスタイルで、なんと無料で振舞われていてね、思わずそれがセットされたテーブルを二度見したほどです。
そして注目のメインディッシュはもちろん全てが手作りで、空腹時に決定を下すにはあまりにも選択肢が多すぎたし、ため息がでるほど魅力に溢れていました。とにかくどれもこれも美味しそうなのですよ、ほんと。
スノーボードのプレイ中はお酒を飲まないことにしているのですが(僕のレベルの場合それは飲酒運転にあたると思っている)、このお祭り広場においては僕のささやかな誓いも敢え無く瓦解してしまい、無化学調味料の全粒粉醤油ラーメンに加えて、気がつけばハートランドの中瓶を注文していました。
手作りコロッケ定食との二択で最後まで本気で悩みましたが。チケット売り場近くの緩斜面の途中、キッズゲレンデの真上に位置するレストラン、お祭り広場。天気のいい日は、子ども達が雪と戯れる姿を見守りながら、外のベンチでお酒でも飲みながら過ごすってのも最高なのではないでしょうか。
岩鞍は都心からのアクセスも良く、お子様連れの方にはある意味最もお勧めできるゲレンデの一つです。ほとんど滑らずにこの食堂に一日中入り浸っている客もいると言う話も、なんとなく頷けます。
極楽とはまさにその名の通り
それから富山の立山では、最高のスノーボーディングを体験しました。その朝の立山山麓スキー場の極楽坂エリア、ジャイアントコースの斜面の仕上がりは、目も眩むほど素晴らしかった。
夜間に圧雪されたバーンの上に、10センチほどの雪が積もったようです。数日間気温が適度に低いまま保たれていたので、圧雪された面もわりと柔らかい。つまり柔らかく整った斜面に、ふんわりとした雪がちょうどいい塩梅で積もっているスウィートな状態です。
これまで僕は、このような特別な斜面を滑った経験が皆無に等しかった。あったかも知れませんが、この日の立山の斜面はずば抜けていました。思い返せば今までは、固めかカリカリに凍ったような斜面か、多くの人が滑った後にガタガタになったバーン、それかもしくはバフバフのパウダーという極端な状況が多かったような気がします。
あの日朝一の極楽坂のピステンバーンは、パウダーよりもむしろサーフィンライクでした。柔らかいけれど、踏み込んだときにエッジから全身に伝わるフェイス(斜面)の手応えは、頭オーバーの波を駆け抜ける(とか言ってそんな大きな波にいつも乗れる僕ではない)感じと酷似していました。いまでもあのきらめくような瞬間は、胸に焼き付いています。極楽坂ってその名の所以がわかったような気さえしました。いやほんと、スノーボードも奥が深いですね。
スノーサーフの世界観に触れて
時にみなさんは、スノーサーフ(Snow Surf)という言葉をご存知でしょうか。僕の観察するところ、それはスノーボーダーの中でも、日頃からサーフィンに親しむ者の間で静かに囁かれているムーブメントという趣の言葉のようです。
あるいはゲレンデのみならず、バックカントリーや自然との関わりを重視するようなプレイヤーにおいて発信されているワードかも知れません。しかしその言葉の定義、捉え方はやはり人それぞれでしょうし、安易な解説は根っからのスノーボーダーの方々にはお叱りを受けるかもしれません。
ただ僕の場合のようにね、サーフィンから先に始めたものにとっては、スノーボーディングをサーフィンのように捉える「スノーサーフ」の考え方や、その言葉から感じ取れるフィーリングはとても馴染みやすいのも事実です。滑りにおける身体的アプローチのみならず、メンタル的にもね、なんとなく魅かれます。
例えば体の使い方、動かし方などを例にあげてみましょう。
ゲレンデの斜面や、林道などに現れる壁などを波に見立てて滑る。目線を先行させて上半身を滑らかにしならせつつ、波乗りのようなターンを試みる。ロングボードの上に立って波のパワーゾーンを走るように身体の軸をスノーボードの板からずらすことなく、サーフィンにおけるトリミングを意識しつつ、あくまでもリラックスしてボードとの一体感を味わいながら滑る、みたいな。
つまり、サーフィンとスノーボーディングをセパレートしないで、同じような感覚を使って滑る、と言ったところでしょうか。これはあくまで僕の主観に満ちた実践イメージですが。
大人にはスノーサーフが向いている?
一般にスノーボードのイメージといえば、派手なジャンプや空中でのアクションなど、オリンピックの中継などで広く知られた、ハーフパイプのような競技の動画を思い浮かべる方々も多いことでしょう。
しかしこれからスノーボードを始めようかという方にとっては、あれが到達点かと思うとかなりハードル高い感じしますよね。
体育館の床に放り出されて、いきなり具志堅や池谷の真似をしろって言われても無理っすもん。キングカズがゴールを決めた時に繰り出すカズダンスも、なんとなくイメージできるけど実際やってみると動き方がよくわかんなくてぎこちなくなる的なね。
しかしスノーサーフだよと言ってしまえば、逆に初心者の方、あるいはサーフィンはやるけどスノーボードはそれほどやらないって方にもお勧めできるゾーンが現れるような気がするのです。言うなれば、大人から始めるなら、スノーボードっていうよりスノーサーフはいかがですか?と問いかけてみたいのです、あえて。
というのもね、スノーサーファー的な雰囲気の持ち主は、ボードやウェア、そしてギアのチョイスからしてなんとなく落ち着いている感じがするんです、大人っぽいと言いましょうか、シンプルと言いますか。
スノーサーフ道具考
まずはボードに関して。北海道のニセコを拠点とするGENTEMや、湘南に本拠地を置くMOSSなどが、ドメスティックのブランドとしてはスノーサーフの代表格と言えると思います。どちらのブランドも、そのプロダクトはやはりサーフィンを意識した作りになっている。
サーフィンでいうシングルフィンのクラッシックなロングボードを彷彿とさせるような板や、ツインフィンのサーフボードさながらの板なんかもあり、サーファーとしてはそのフォルムや佇まいを見るだけで心踊ります。
うーん、あんな板を波乗りのように雪の上で乗りこなせたら、どれほど素晴らしいだろうかとね、思わず想像してしまうのです。
サーファーがよりスノーボードを楽しむようになり、逆にスノーボーダーがサーフィンに興味を持ち、のめり込むようになる。昨今のそうした「横乗り」のボーダレス化に、「スノーサーフ」と言う概念や、先出のメーカーなどの存在は一役も二役もかっているでしょうね。
これを音楽的に言うと、HIPHOPを好んで聴いていた人が、そのサンプリング音源のネタ元がJAZZだと言うことを発見して、マイルスデイヴィスのファンになるみたいなね、そんな感覚でしょうか。求める心地良さ、魅了される格好良さは一緒というかね。
MOSS製のフィッシュボーンという板と、 GEMTEM製のロケットフィッシュの二本が、僕の今現在のお気に入りです。
普段愛用しているメインのサーフボードもやはりフィッシュのツインフィン。スノーボードにはフィンこそ付いていませんが、どうも僕はこの形が好きみたいです。
スノーサーファーはウェアもシンプルさを好みます。単色、あるいは2色くらいでまとめられた、落ち着いた雰囲気のものが好まれているようですね。今年僕は、全身黒ずくめで滑っています。色使いやシルエットがシンプルである方が、スノーサーフ的な板とのマッチングが良いようです。
雪の旅のしめくくりは……
白馬のさらに奥、毎年恒例になりつつある栂池のカウベルというレストランでのライブと、小谷村にある乗鞍スノーリゾートでのライディングは、今回の旅のクライマックスでした。
たくさんのローカルスキーヤー、そしてスノーボーダーに囲まれて、とても温かい雰囲気でライブを楽しむことができました。最前列で盛り上がってくれた子どもたちは、僕のイラストなんかも描いてくれたりしてね。
そしてライブ途中から降り始めた雪が、随分積もったのでしょう、翌日の乗鞍スノーリゾートの10線と呼ばれている非圧雪面は、天からのギフトとしか思えないほどの、極上のパウダースノーでした。
スノーボードにおける良質な体験は、九州で生まれ育った僕にとっては未だにスペシャル中のスペシャル。
毎年のように雪山を旅していますが、どこへ行っても当然のことながらビジターという立場には変わりありません。しかしながら、自分のレベルやスキルを心得てさえいれば十分に楽しめます。
とか偉そうに言ってますが、かく言う僕も乗鞍の最終日、自分が出しているスピードについて行くことができず、力量以上の急斜面で悲劇的なズッコケを成功させました。
とほほな有り様で旅を締めくくってしまい、しばし天を仰ぎ見ましたもの。あー危なかった。
先人や達人のアドバイスと大自然が語りかける言葉、そして危険や安全を察知する直感を信じて、これからもスノーボーディングを楽しみたいと思っています。
まだまだ各地、素晴らしい雪が残っていますのでね、みなさんにも雪上でのサーフィン、お勧めします。
今回のアウトドアミュージック
Hand habits 「Under the Water」
その歌声と雰囲気、そしてサウンド全体から受ける印象は、まるでパウダースノーです。
東田トモヒロNEWS
東田トモヒロ2023”雪旅”
Live&SnowbordTour
3月の北海道をギターとスノーボードを持って旅をします。
冬の北海道で是非お会いしましょう!
チケットの予約は各会場へお問い合わせください。
3.11(土)
clc(興部)
チケット予約
Instagram: @city_lights_coop_okp
3.13(月)
ココペリ(当麻)
北海道上川郡当麻町中央6区
チケット予約
tel 0166-84-5938
Instagram:@hidamoriaki_
サブスクリプションコミュニティTSC(Tomo Surf Club)
シンガーソングライター東田トモヒロとつくる、持続可能な音楽のコミュニティです。
月額制のサブスクリプションで、独自の配信ライブや、インターネットラジオ配信等いくつかのオリジナルコンテンツを用意して、みなさんとコミュニケーションを図っています。ぜひご参加ください。
https://community.camp-fire.jp/projects/view/338326