【新米ライターは見た!】ペルーアマゾンの旅 4
セティコの森が目の前を流れていく。セティコはこの辺りではいちばん目立つ樹で、幹が白く葉は掌型に広がっている。ナマケモノはこのセティコの葉を食べる。葉には毒があるのだが、ナマケモノは見かけによらず、その毒を分解できるらしい。すごいじゃないか、ナマケモノ!
ハンモックでくつろぎながら、この変わりばえのしない景色を延々と眺める。一生続くのではないかと思われるのっぺりとした時間は、給食の時間を知らせるベルで断ち切られる。ベルが鳴ると、のほほんとしていた乗客はハンモックから飛び起きて、持参したタッパー片手に調理場に並ぶ。私も心を躍らせながら並んだ。チケットとタッパーを渡すと、サインと食事で満たされた幸せなタッパーが返ってくる。
食事には茹でたバナナと煮豆が必ず付いてきた。タンパク質はだいたい鶏肉で、米かパスタかということが唯一のバリエーション。それでも私はこの船内食が大好きで、毎回完食した。食事の後はまたセティコの景色を眺めながらの夢うつつタイムに戻る。
船は途中、いくつもの村に寄港しては荷物を降ろしていき、その間は売り子さんたちが村の特産や軽食を船内で売って歩いた。ヤナヤクという村に寄った際、いつものように売り子さんたちを見るともなく見ていると、手にしていたのは「ワニの素焼き」だった。知り合いになったおっちゃんが「食ってみろ!」というので一つもらった。近くの乗客は皆、ワニにかぶりつく日本人を見て笑っていた。
2日目の夜から、ある存在が私の船内生活の秩序を乱しはじめた。フランク少年である。ナウタという村出身の人懐っこい小学生で、家族と村へ帰る途中だという。聞かれるがまま、この子に日本語を教えてしまったのがマズかった。スペイン語の発音は日本語のそれとよく似て、子供に教えるときにはまず「バカ」と「アホ」を教えるようにしている。スペイン語でVacaは雌牛のことであり、AjoはアクセントがAに来るが、ニンニクを表す。あくまで「日本語って余裕じゃん」と思ってもらうために子供にはこの二つを教える。
その他にもフランクくんが気になる単語を幾つか教えた。それからというものの、昼夜を問わず、「タケヤ、バカっ、コドモっ!」「コドモ! アホ!」と言った罵声が飛んでくるようになった。いささかフランク過ぎるフランクくんは、船で知り合った友達を率いてやってくる。彼らの猛攻が続く。
「バカ! バカ! コドモ!」
「バカって言った奴がバカなんだ、知らないのかバカタレ! お子様だなー君は。」
「バカはそっちだ! バカ! コドモ!」
私のスペイン語も小学生レベルだっただろうから、僕らの会話はさぞ滑稽だったろうと思う。そうして友情を育んだフランクくんもナウタで降りていった。
この船から眺める夕焼けが好きだった。エンジンの規則的な振動に視界が、その色彩がゆっくりと変化していく。船旅も終わりに近づいていた。
【プロフィール】
志田岳弥(しだたけや、1991年10月2日生まれ)
東京都八王子市出身。大学進学を機に沖縄へ、カヤックを始める。
卒業後、2014年10月からの2年間を青年海外協力隊としてペルーで過ごす。
同国では環境教育に従事。現地の子供達と川で遊んだ日々は一番の思い出。
帰国後、現在はのんびりしながら生き方を模索中。
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