株式会社ゴールドウインが株式会社Spiberと2015年から共同開発に取り組んでいる構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン繊維」。これを使用した2023年秋冬コレクションが発表されました。
この素材を使用した量産体制は、今回のコレクションが初となっています。
環境に配慮した「ブリュード・プロテイン繊維」とは?
2022年秋冬の際は、1型数十着レベルの生産体制であった「ブリュード・プロテイン繊維」使用のアイテム。
それが今回、「ゴールドウイン」「ザ・ノース・フェイス」「ザ・ノース・フェイス パープルレーベル」「ナナミカ」「ウールリッチ」の5ブランドで数千着販売へと量産体制が整ってのコレクション発表となりました。
新素材として、注目される「ブリュード・プロテイン繊維」とは、植物由来のバイオマスを原材料に使用した、微生物の発酵プロセスによって生産される繊維です。
上質なカシミヤやウールのような紡績糸に加工することも可能。この繊維の生産規模が拡大すると、サスティナブルな社会の実現に貢献するといい、さまざまな環境リスクが指摘されているカシミヤ繊維と比較した場合、温室効果ガスの排出量の大幅な縮小と、土地や水の使用量の削減ができるのだそう。
さらに、ブリュード・プロテイン素材自体は、生分解性を有するため、石油由来製品によるマイクロプラスチック排出の課題解決へも貢献が見込めます。従来の動物由来、植物由来、合成素材に代わる次世代素材として期待が寄せられています。
人類の未来のために「循環」が前提となる素材を模索
発表会では、何度も「循環」という言葉が出てきました。地球環境では、すべての生物が死んだ後に、ほかの生物の資源になることで循環しています。ただ、人間だけは、自然環境に還らないものを生み出していることになります。
「無駄がない。ごみがない。ほかの生物が資源として食べられる生分解性のマテリアルとして開発したブリュード・プロテインは、最初ボビンにようやく巻けるくらい(の生産量)からスタートしました」とSpiberの関山和秀さん。
世界最大規模の構造タンパク質工場が稼働し、昨年夏から商業ベースに乗せられる生産体制が整ったそうです。
ちなみに、東京ドーム22個分という広大な敷地内のラインで働くスタッフは、なんとたったの4人。2人はオペレーティングルームだそう。広大な土地で、微生物たちが構造プロテインを製造するのをチェックし、オペレーションするという世界最先端の技術で作り出されています。
自然界で行われていることを、目的にあった繊維になるように研究開発するため、少なくとも35万種の蜘蛛の糸を教材にして研究したと聞いたときには、ブリュード・プロテインへの可能性にかける並々ならぬ情熱に驚かされました。
「2014年に初めて見たとき、驚きました。すぐにものになるとは思いませんでしたが、20種類のアミノ酸の組み合わせで、要求する素材を作ることができると言われたため、作ってみたいと思いました」と、ゴールドウインの渡辺貴生さん。
失敗を重ねながら、量産体制を整えた待望のコレクションが、いよいよ秋冬にデビューです。
アウトドア業界で重要なテクノロジーを採用したコレクション
合成繊維はアウトドアウェアには使いやすくて便利ですが、最終的にどうなるのかまで考える必要があります。
「フリースのマイクロプラスチックを知ったのは、約10年前です。環境に配慮し、循環させることが重要です。また、回収して新たなモノづくりを行う。そんな意識を持つマインドセットも重要です。他社とともに取り組み、スピードアップさせることが大切。これは、進化のための種と考えています」と渡辺さん。
ブリュード・プロテインは、アウトドア業界で最も重要なテクノロジーだととらえているそうです。
発表されたアイテムは、各ブランドのシンボリックなアイテム。従来のものを横に並べると、もしかしたら違いがわかるのかもしれませんが、ほとんど同じように見えました。
量産体制が整ったことで、2023年9月には、ブリュード・プロテイン繊維を使用した全製品を販売するPOP-UP STOREも丸の内ビルディングにオープン予定です。
また、2030年までの新規開発商品のうち、10%をブリュード・プロテイン仕様製品にシフトするという活動目標も設定し、自然と人間の関係性について改めて見つめなおすとのこと。
アウトドアアイテムは、機能も大切ですが、自然を楽しむには環境への配慮も大切です。そんなバランスの取れた研究開発を行っているアイテムをまとってアウトドアに出かけると、自然によりやさしくなれそうですね。
公式サイト
https://spiber.goldwin.co.jp/