日本で唯一のプロハイカーとして、世界各国の数百kmから数千kmにおよぶロングトレイルを次々と踏破している斉藤正史さん。2022年12月から2023年1月には、1カ月以上かけて台湾を巡りました。そんな斉藤さんによる「台湾トレイル体験記」をお届けします。vol.1は、台湾行のキッカケとなった「アジアトレイル会議」とトレイルの準備についてです。
そもそも「トレイル」って?
僕は、山形県在住の「プロハイカー」です。プロハイカーって何だろうと思う方もいるかもしれません。海外では、トレイルを歩く人を「ハイカー」と呼びます。それにプロをくっつけて、プロハイカー。主に海外のトレイルを歩く傍ら、こうしてレポートを書いたり、トレイルの普及のために講演をしたり、ワークショップなどの先生を務めたり、といった活動をしています。
で、そもそもトレイルって何?と思う方もいるかもしれません。
上の写真はアメリカのトレイルです。山の裾野に一本の道が付けられているのが分かりますよね?
トレイルとはどんな道のりなのか…一言でいうと山歩きです。頂上をめざし、山を登るのが山登り。それに対し、山野に付けられた道を歩く山歩きがトレイルです。登山と違い、トレイルの場合は水平移動するので、ルートによっては数千kmの道のりになる場合もあります。
アジアトレイル会議って?
きっかけは、確か2020年の冬に届いた1通のメールでした。たどたどしく怪しい翻訳調の日本語と英語が一緒になった文章だったと記憶しています。どうにか読み解くと、第4回アジアトレイル会議を台湾で行うので、オープニングの講話をお願いしたい——という内容でした。
僕は海外のさまざまなトレイルを歩いており、世界各国にハイカーの友人知人がいます。でも、メールをもらうまで、アジアトレイル会議の存在を知りませんでした。しかも、今回で4回目の開催とは!
調べてみると、ワールドトレイルネットワークという団体があり、ワールドトレイル会議というものを開催しているらしい。そのアジア地区の集まりが、アジアトレイルネットワークであり、アジアトレイル会議を行っているようです。
アジアトレイル会議は、2014年の第1回が韓国の チェジュ、2016年の第2回が日本の鳥取県、2019年の第3回が韓国の釜山で開催されています。そして今回、2022年に第4回が台湾の台北で開催する運びとなったのです。
せっかく台湾に行くのなら…
第4回アジアトレイル会議を主催するのは、台湾のトレイル団体である千里歩道協会です。2021年はコロナウィルスの影響で開催中止に。2022年も中止かと思ってましたが、10月、台湾で外国人観光客の入国制限が解除され、ついにアジアトレイル会議の開催確定の連絡が来たのでした。
実は、個人的に台湾が好きで、コロナ前は何回か台北に行っていました。台北市内のハイキングコースを調べて歩いたり、夜市(屋台のお店が集まる場所)でいろいろ食べたり、と毎回満喫していました。今回、せっかく行くなら、普段は歩けないトレイルを歩きたいし、台湾のトレイル事情も知りたい。そう思って千里歩道協会へ連絡し、事前にいろいろ教えてもらったのでした。
1.どんなトレイルがあるのか?
まずは、どんなトレイルか知らないと、何も準備できません。欲張りな僕は、千里歩道協会に紹介してもらった台湾の国家トレイルを全て歩く前提で調べました。国家トレイルとは、①山海圳国家緑道、②楠木細道、③淡蘭古道のことです。
そして、今回の歩く予定のルートを3つの国家トレイルと、台北市内を一周する台北グランドトレイルの合計4つに決めました。場所は、①山海圳国家緑道が台南市辺り。②楠木細道は台中の北部から桃園市辺り。③淡蘭古道は、台湾北東部辺り。台北グランドトレイルは、まさに台北周辺です。
〇山海圳国家緑道
全長177km。台湾で一番高い玉山から、海岸線までの0m〜3952mの道のりです。地図はオンラインでダウンロードできます。その地図を確認すると、登山道と道路歩きが中心で、道路が多いのかなといった印象です。紹介された動画を見てみると、なんと自転車ルートもあるようでした。
〇樟之細道
全長220km。地図などは特になく、インターアクティブマップがオンライン上にあるのを発見しました。ルートを見ていくと、いくつもの古道を繋げて1つの道になっている様子。古道や舗装路がメインになる道のりのようです。
〇淡蘭古道
全長約200km。驚いたのは北路、中路、南路と3つのルートがあること。この淡蘭古道は3つの国家トレイルの中で1番最初に出来たトレイルで、地図もウォーキングガイドもあります。セクションごとに距離も出ていて、事前に調べた範囲でも非常に分かりやすトレイルでした。こちらも古道と舗装路が中心の道です。
〇台北グランドハイク
全長130km。ただし、歩くルートはセクション1~セクション6までの92km。国立公園から里山・町エリアまで幅広い道のりです。こちらは台北市で開設しているトレイルで、地図やパンフレットもネット上で簡単に手に入りました。こちらも古道と舗装路がかなり多めかなといった印象でした。
2.台湾ってどんな気候?
アジアトレイル会議が開催されるのが12月。会議が終わってから歩くので年明け1月の気候も考慮していかないといけません。調べてみると、台湾島北部が亜熱帯、南部は熱帯地域に分かれています。亜熱帯の地域は、日本の沖縄あたりでしょうか。一方の熱帯気候は、1年中18度を下回らず、雨季と乾季があるようです。
12月〜1月の台北の気温は、15〜18度前後。雨が多く、肌寒い日もあるようです。しかも、施設や交通機関などは冷房しかないようなので、ダウンが必要になりそう。亜熱帯に入る台南市は、朝晩が冷えるが、日中はTシャツ・ハーフパンツで良く、ちょうど乾季に入る時期のようです。そして、出発・到着する日本は冬で、特に僕の暮らす山形は真冬真っただ中。これは、ウエアリングが非常に難しくなりそうな予感がします。