日本で唯一のプロハイカーとして、世界各国の数百kmから数千kmにおよぶロングトレイルを次々と踏破している斉藤正史さん。2022年12月から2023年1月には、1カ月以上かけて台湾を巡りました。そんな斉藤さんによる「台湾トレイル体験記」をお届けします。vol.2は、台湾行のキッカケとなった「第4回アジアトレイル会議」と下見を兼ねた台南市トレイルツアーについてです。
いざ、第4回アジアトレイル会議へ
2022年12月1日。コロナ禍の影響で久々の海外でしたが、特に何もごともなく入国。今回、アジアトレイル会議が開催される会場は劍潭アクティビティセンターで、台北市内でも1番賑わう士林夜市がある剣潭駅が最寄り駅でした。
会場近くにとっていただいていたホテルにチェックインを済ませ、受付時間までの間、少し歩くことに。実は、この駅は以前にも3度ほど来ているのですが、夜市だけでなく古道もたくさんあるエリアなのです。
まずは、ゆっくり剣潭山をハイキング。T シャツでも大量の汗をかくほどの暖かさでした。そのまま会場で受付をしようと思い並んでいると、「MASAさんですね、髪型ですぐ分かりました」と台湾の方から日本語で声をかけられました。もしや、僕の天然パーマは台湾でも珍しいのかと思いつつ、日本語が通じる安堵感が。
初日は土産をもらって受付終了。夕方から、圓山大飯店で懇親会が開催されます。今回、一緒に参加した信越トレイルの代表理事である木村さん、スタッフの佐藤さんと合流し、日本語通訳の楊さんとともにバスに乗り込んで移動。バスが山道を登っていくと、赤くて立派なホテルが!懇親会の会場である圓山大飯店は台湾最高クラスのホテルだそうで、何もかもが煌びやかでした。
宴会場へ案内されると、入り口では台湾警察の方々がゲストの持ち物検査をしており、何とも物々しい雰囲気。楊さんに聞いてみると、この懇親会に頼清徳台湾副総統も参加されるため、厳重な検査をしているそうです。
会場に入る、僕だけ同行メンバーと離れたステージ正面の席に案内されました。懇親会でのメインテーブルのようでした。隣は韓国のオルレ(済州島発祥のトレッキング)の会長とアパラチアントレイルのローラさん。そして、何と僕の真向いが頼清徳副総統の席だったのです。えっ!?
そんなサプライズもありつつ大歓迎を受け、第4回アジアトレイル会議は幕を開けたのでした。
スピーチを終え、会議も無事に閉幕
2日目は、朝から会場にトレイル関係者が集い、同時通訳の受信機を装着して会議がスタート。冒頭は、カナダのブルーストレイルと、山海圳台湾国家緑道の姉妹トレイルとしての調印式でした。
ほどなく僕のスピーチの番がやってきました。話したテーマは、「ハイカーとして歩き、ハイカーとして道を作る」です。今回の参加者で、どこかの団体に所属しないのは僕だけです。何者なのだろう?という視線を浴びながら、話が始まりました。それでも時計を見ながら話したおかげで、予定通りの時間に収まり無事終了。記念撮影をしてステージを降りたのでした。
テーブルに戻ると、実に多くの方々から声をかけていただきました。昨日、同じテーブルだった韓国オルレの会長も、英語で「良かったよ、感動した」と握手を求めてくれるほどでした。2日目の懇親会では、伝統芸能や、台湾の楽団のパフォーマンスなど、旅行では見ることの少ない、台湾を満喫することが出来ました。
3日目は、信越トレイル木村代表理事のトレイルの維持管理に関わるお話しから始まり、日本の宮城オルレ・九州オルレ・鳥取チームのお話しや、モンゴル・ブータンなど各地のオルレの紹介もありました。そして、この3日目のお昼に全ての会議が終了。
台南市トレイルツアーへ
4日目、5日目は、台北近郊のトレイルを歩くツアーになり、それぞれ好きなコースに別れての参加になります。日本のトレイルメンバーは、楊さんが通訳で、淡蘭古道のデイハイクツアーに参加。僕は、台湾のトレイル協会の方の勧めもあり、欧米チームと共に、台南市トレイルツアーへ参加することになっていました。
唯一、日本語の通訳が付かないツアー。トレイル協会の方には、英語の通訳が付くから大丈夫と言われたのですが、僕は英語もそれほど自信がありません…。と思いつつ、台南へ行くメンバーはすぐにバスに乗せられ、一路、台南市へ。実は、この欧米チームのツアーに、唯一日本の九州オルレの方が2名参加しており、道中、心強い味方となってくれたのでした。
途中、集落の食堂で食事をとり、暗闇の続く山道を走り、ようやくホテルに着いたのは午後10時過ぎ。翌朝、阿里山の朝日が有名なので見に行こうと提案があったのですが、欧米のグループは全員不参加。我々日本人と、モンゴル、台湾のトレイル協会が参加することになりました。朝4時はさすがに早いとはいえ、アジアと欧米の差を少し感じた瞬間です。
早朝の阿里山鉄道へ並ぶ列は、ものすごい賑わい。聞くと、僕たちの泊まったホテルの周辺には、多くの宿泊施設があり、この朝日を見に行くツアーが人気だそうです。満員電車に揺られ、すこし辺りが明るくなりそうなころ、対高岳火車站駅に到着。先導されるがまま歩いていくと、朝日の見えるポイントは多くの人々で埋め尽くされていたので、その先のポイントの小笠原山観景台まで足を伸ばすことに。アスファルトの道を進むと、途中には屋台がいくつか出ていて、すでに営業中。こんな早朝に!と驚きました。
結局、小笠原山観観景台も多くの人で埋め尽くされていました。すっかり辺りは明るくなっており、朝日は山から顔を出だす寸前。一瞬、閃光が走ったように思った瞬間、辺りから一斉にシャッターを押す音が鳴り響きました。
その後、ホテルまで戻ると、欧米組が朝食会場にいました。朝日組は急いで朝食を食べ、ツアーがスタート。
阿里山のホテルを出ると、山海圳国家緑道のルートにある特冨野(トフヤ)集落の古道を目指しました。位置関係も分からず、バスに揺られてたどり着いた古道の入り口は、まさに僕がツアー終了後から歩く山海圳国家緑道のルートだったのです。山深い峠の道の路肩に相当な数の車が路駐されていて、会場と思わしき場所には台南市政府の副市長や農業委員長、特冨野の族長などの要人の姿も多くありました。
布の掛けられた看板の前に集められ、いったい何が始まるのだろうと見ていると、民族衣装を着たツォウ族の子供たちの歌と踊りが始まりました。踊りが終わると、布を掛けられた看板の脇にカナダブルーストレイルのジャッキーと台南市副市長が看板を挟むように立ちました。トレイル会議では調印式がおこなわれ、今回のツアーで友好姉妹トレイルを示す看板の除幕式が現地で行われたのでした。