2021年12月、瀬戸内海を望む広島県江田島市にオープンしたキャンプ場「Hawk Nest Family Village」。オーナーのコージさんは、個人で、会社勤務を続けながら、数々の難題を乗り越えてキャンプ場の開設にこぎ着けました。どんなプロセスを経てキャンプ場の個人オーナーとなったのか、コージさんの奮闘記をお届けします。第5回は、キャンプ場作りの「開業」編です。
第1回目【構想編】はこちら。
第2回目【準備・申請編】はこちら。
第3回目【着手編】はこちら。
第4回目【事業計画&資金調達編】はこちら。
10社の業者を束ねる棟梁に
2021年11月26日、ようやく融資が正式に決定し、キャンプ場のオープン予定日まで残り1ヶ月となりました。この時期に頭を悩ましたのは、シリアル(直列)か、パラレル(並列)か、という問題です。
ひとつひとつの項目を完結させ、それに続くプロセスに着手するのがシリアル。いろんなプロセスを同時並行で進めるのがパラレル。前者はリスクを極小化し、一歩一歩進めるので着実だが、時間がかかる。後者は時間を圧縮できるがリスクがいろいろ併存し、常にプロセス間の変動との全体調整が必要になる——。
結局、コージは後者を選択し、さらに「先行リスク発注」も加え、大幅に工期を短縮しました。というと格好良さげですが、実態は調整、調整の連続で気の抜けない日々となりました。
先行リスク発注とは、当時、世界的に木材が高騰して供給不足に陥る状況にあり、自己資金の範囲でロッジのキットの先行発注をかけたことです。最悪、この事業化が頓挫した場合でも、借金が残るということにならぬよう、自己資金の範囲までということは強く意識しました(頓挫させるつもりなどこれっぽっちもありませんでしたが)。
それと、大きかったのが上記のパラレルの工程表の全体像を、すべての業者さんと共有化したこと。結果、各業者さんがブービーメーカーにならぬよう、それぞれ頑張ってくださった訳です。このようなキャンプ事業立ち上げを統率してくれる業者などなく、コージ自身でやらねばならなかったのです。すなわち、いろんな業者さんを束ねるのは自身だったのです(棟梁オレ!)。このプロジェクト管理には、当方の会社人生での経験が活きました。
ちなみに業者さんは、配管業者、電工業者、基礎業者、建築業者、建築確認申請のための設計業者、ロッジ木材キット供給業者、重機提供業者、水道工事業者、浄化槽埋設設置業者、オール電化設置業者と、10社ありました。
<各業者さんの工事対応>
- 基礎工事
- ロッジ木材搬入
- ロッジ建設
- 水道工事
- 浄化槽埋設工事
- 電気引き込み工事
- ロッジ住設機器設置工事(バスユニット、トイレ、エアコン、流し、換気扇など)
- 電気接続工事
- 共用部トイレブース、シャワーブース、流し機器搬入・設置
- 太陽光、エコキュート、蓄電池設置工事
融資が実質確定した2021年10月15日に、すでに前もって準備していた発注書を各業者さんに一斉に発信。もちろん並行し電話で伝えた上で、です。
ここから怒涛の寄りで年末の開業まで突っ走ります。各業者さんそれぞれ大変な局面があり、それでもみなさん頑張ってくださいました。もちろん上述のようなプロジェクト管理もありましたが、やはり「なんとか実現したい」という想いが何より原動力、推進力となりました。
業者さんが大変なのは実際の作業もさることながら、各種申請にかなりの工数を取られること。業者さんに何から何まで丸投げではコストは膨らむ一方です。その点を意識し、申請など自分でできる範囲で以下の対応を行いました。
- 農地転用手続き(市の農業委員会での承認取得)
- 市への浄化槽設置届(14枚×4セット)提出 ※市役所を4往復
- 浄化槽メンテ業者との契約
- 水道課との打合せを導入部分でアレンジし、以降、業者さんが動きやすく。
- 警察署への道路工事許可申請と、近隣および関連60軒への一時通行止め連絡文書配布
- 消防署への火災報知器設置届(通常の住居ではないので届が個別に必要になった)
- 場内伐採の仕上げ
- 周囲の柵に加え、ゲートの設置(伐採木材と金網をヒモで組立て)
- 場内の迷路作成(同じく、伐採木材を使ってヒモで)
- ウッドチップ作り(伐採木材の細断)
- テントサイト内の、焚き火エリアへの砂入れ
- アプローチ道(市所有の里道)周囲の枝伐採(工事用大型トレーラー侵入対応)
- 法務局への地目変更手続き
- 予約システムの設定(最初はけっこう苦戦)
- キャッシュレス支払いシステムの契約、機器受け取り・試行
- 光フリーWi-Fi設置契約
- ロッジへの防腐剤塗布
- 実家売却処理と荷物整理・引っ越し
- 貸しテント用コールマン2ルーム購入、試し張りとホームページ用写真撮影、掲載
- ゴミステーション購入組立て設置
- ホームページ上とグーグルマップ上で開場日のお知らせ発信、予約システムのオープン
実は、参考とさせていただいた方がいました。その方は、以前受講した江田島市の創業塾に参加していた受講生の同期の方。パン屋さんを立ち上げたのですが、なんと窯作りまで自身でやってらっしゃったのをSNSで拝見。非常に関心し、自分も出来ることは極力自分の力でやらなければ!と自身を鼓舞したのです。ちなみにこのパン屋さん(しまのパンSouda!)は女性の方で、開業後、人気を博しています。
思えば、構想・準備期間は長くゆったりした時間が流れていましたが、最後は一気呵成、怒涛の日々でした。そして、2021年12月28日、大安吉日快晴の日についにオープンを迎えるに至ったのです!
直前にコージが東京の自宅から連れてきた奥さんも気に入ってくれました。東京圏に孫が居るので時々面倒を見に戻っていますが、いまでは大半の時間をこちらで過ごしています。小さいですが、ログハウスでの生活も快適です。ログ(丸太)の厚みも100mmあって断熱性が高く、木製の窓サッシは結露しません。外回りはウッドデッキ部も含めて浸透性の高い油性の防腐剤、内部は匂いの少ない水性の防腐剤を自分で塗布、いずれも無色の防腐剤を選び、無垢の木の良さを大事にしています。
さてキャンプ場の開業のあと、この事業をどう持続させていくか、新たな序章が始まっていきます。