鹿児島を拠点に海の魅力を日々発信する、ダイビングショップのスタッフにしてフォトグラファーの射手園 芽(いてぞの めい)さん。今回も海の生き物たちの美しい写真をお届けします。
新緑が眩しく山並みが鮮やかになり、気温が上がる日も多くなりました。暑い日が続くと海や川へ遊びに行かれる方も多いのではないでしょうか。今回は鹿児島県南さつま市笠沙エリアで観察した海流に乗り大海原を旅をする生物をご紹介します。
海流に乗ってやってくる流れ藻
北寄りの風が吹く春の海から、少しずつ南寄りの風が吹く夏の海へ近づきます。
水面をよく見ていると茶色の海藻が浮いているのが見られます。成長した海藻は波や風で海底から切り離され水面へ浮きます。
(海藻の群落は、前回の記事をご覧下さい)
浮いている種々な藻類を「流れ藻」と言います。
その流れ藻は風や波の影響を受け海流に乗り、大海原へ旅をします。
浮遊している流れ藻に近づいて見てみると、たくさんの生物が隠れています。
流れ藻と共に海流に乗って大海原を一緒に旅をしてきたのでしょう。
まわりにたくさんのプランクトンや多種のクラゲが見られます。
流れ藻の黄金色のように体色が似るモジャコも見られました。
近くに白色の塊が見えました。
近寄るとニチリンクラゲが群れで密集していました。形は円盤状の傘に糸状の触手が伸び「太陽」のようであることから「日輪」となり「ニチリンクラゲ」と名前が付いているクラゲです。
水面近くに集中して溜まり、広範囲で密集するときがあります。
※ニチリンクラゲの触手は弱くストレスで切れてしまいます。クラゲの種類によっては毒性の強いクラゲもいますので見かけても触らないよう、気をつけて観察することをオススメします。
不思議な浮遊生物と、暮らし
水面近くを泳いでいると、すーっと目の前を横切る生物が目に入りました。
コノハゾウクラゲです。
名前の通り、葉のように平で「象」のような伸びた鼻に粒らな黒い目の不思議な姿です。名前に「クラゲ」とありますが、貝の仲間で浮遊しながら生活しています。
中部にあるヒレのようなものをパタパタさせ器用に泳いでいます。潮流の影響で黒潮や深層の潮が近海に入り込むとき、このような浮遊生物が多く見られます。
こちらはマサコカメガイ。「海の妖精」と言われる「クリオネ」のような泳ぎ方でパタパタして泳ぎます。
外洋性の貝の仲間で、生涯浮遊生活を送り海を旅しています。
付属糸と言われる長い紐のようなものが付いており、先端が丸まっています。
フリソデウオは有名な深海魚、リュウウグウノツカイに近い種で、見た目は「振り袖」のようなヒレが美しく特徴的です。
プランクトンや浮遊性の甲殻類を捕食し浮遊生活をしていると言われています。
クラゲを漢字で書くと「水母」と記載されるように、浮遊しているクラゲに小さな稚魚が周りに集まります。
小さな稚魚はクラゲに守られて一緒に浮遊します。毒性の強いクラゲが稚魚を触手で捕食しているのも見かけますが、稚魚もクラゲに付いている甲殻類などを食べて生活しているようです。
港の防波堤近くでは波や風に押され浮遊生物が溜まります。その水面下を泳ぐアオリイカの子供の群れも見られました。
流れ藻や浮遊生物に隠れる魚や、溜まるプランクトンを捕食しようとイワシの群れも回遊します。アオリイカの子供たちにとって、海流はご馳走を運んできてくれる最高の贈り物なのでしょう。
循環する海
数日後、流れ藻や浮遊生物が多く見られた潮は沿岸を離れました。潜ってみると、海底近くを浮遊するクラゲを見かけました。周りには魚が沢山集まっています。
よく見るとクラゲはボロボロになり、魚たちはクラゲを食べていました。海流に乗り大海原へ旅を続ける生物や、力尽きた生物たちは海の栄養へと変わります。
不思議な生物に出会える海、次はどんな生物に出会えるのでしょうか。海へ出掛けた際、水面に流れ藻やクラゲを見かけたらゆっくり観察してみると、不思議な生き物に出会えるかもしれません。
撮影協力: ダイビングショップSB
~陸編~
今回撮影した南さつま市では3月末から田植えが始まります。8月には新米が食べられる早期米の地域として知られています。
これからの季節、心地よい気候でお出掛けされる方も多いかと思います。道中の風景も楽しみながら自然遊びへ出掛けてはいかがでしょうか。