ラブラドール・レトリーバーのセンポを連れて、瀬戸内海の家島諸島を旅した
兵庫県の姫路市に属する家島諸島は、大小44もの島々から構成される。人が暮らしている島は家島本島、坊勢島、男鹿島、西島の4島だ。西島は島全体が野外活動施設の「いえしま自然体験センター」になっていて、事前に申し込み手続きを済ませる必要があるので省くとして、家島本島、坊勢島、男鹿島の3島を巡ることにした。
犬連れで島旅をする場合、島へ渡る船に犬を乗せられなければ話にならない。姫路港から家島本島に渡る「高速いえしま」の窓口で犬の乗船を問い合わせたら「ケージに入れれば乗船できます」とのこと。ケージはクルマに積んであるけど、体重が24kgあるセンポが入ったケージを持って乗船するのは不可能に近い。それに島に到着後はケージが不要の荷物となって厄介になる。
男鹿島経由で坊勢島へ行く高速船は別会社なので、そちらで問い合わせたら「手荷物料金を払えば乗れますよ」といわれた。その会社は坊勢島と家島本島を結ぶ便も就航しており、そちらの航路もケージなしで犬の乗船が可能だという。ならば先に男鹿島と坊勢島へ行って、そのあと坊勢島から家島本島へ渡る計画を立てた。
船の揺れにも動じないセンポ
坊勢島へ行く高速船は1日13便あるが、男鹿島を経由する高速船は1日3便しかない。次の男鹿島経由の高速船が出航するまでターミナルの外のベンチで休み、出航時刻直前に桟橋へ行き、センポとともに高速船に乗った。船室には入れないが、屋根のあるデッキのベンチにセンポといられる。高速船のエンジン音が轟いても、船体が大きく揺れてもセンポは動じず、ベンチの横に寝そべった。旅の経験を多く積んだため、センポは様々な状況でも平然といられる犬に成長している。
約30分の航海で到着した男鹿島で降りた乗客は、僕ら以外に1名だけだった。船を迎える人はいないし、港周辺には店も宿もない。島民の姿は見られず、道端に猫が数匹いるだけだ。
男鹿島は島のあちこちに採石場があり、削られた断崖絶壁があちこちで見られる。それはそれで見所ではあるんだけど、瀬戸内海の島まで来て見たい風景とはいいがたい。民家が少なく、島民の姿も見られず、島の風情や旅の面白みに少々欠ける。
坊勢島行きの高速船は夕方までないが、姫路港行きの復路の高速船は昼過ぎに来るので、船賃はかかるけど、次の便で姫路に帰り、姫路から坊勢島行きの直行便に乗船した。
坊勢島の魅力を足で感じる
坊勢島は男鹿島と違って、島民が多く、活気を感じる島だった。港の駐車場には軽自動車やスクーターがぎっしりととめられており、船から降りた島民たちはスクーターに乗って走り去った。その多くがノーヘルだ。スクーターの前と後ろに子供を乗せたおばちゃんもいて、ベトナムやタイなどの東南アジアみたいな開放的空気を感じた。
僕とセンポは島を反時計回りに坊勢島を歩いた。漁師が多い島だ。海に面した集落の港には所狭しと漁船が停泊している。漁網などを手入れしている人も多く、センポは「賢い犬だな。盲導犬になる犬だろ」などとあちこちで声をかけられた。
犬を連れた島外者に対して好意的な応対がうれしい。交通量が少ないから犬と歩いても安心だし、クルマが通れない狭い通路が続く集落もあって、島の魅力を足で感じる島歩きを僕らは楽しんだ。
ゆっくり流れる島の時間をテントで堪能
犬連れバックパッカーの宿はテントだ。海水浴場にテントを張れるのでは、と考えていたとおり、トイレやシャワー設備もある海沿いの公園があって、テント泊に最適な場所になっていた。ベンチやテーブルもあって、そこには「施設を利用される方、公園内でバーベキューをされる方も下記へ届け出をしてください。1回¥1000」と表記された案内板が立っていた。
そこに書かれた番号に電話して「テントを張りたいんですが、どこでどう払えばいいんでしょう?」と尋ねたら、電話口の女性は「テントを張るだけならお金は結構です。気をつけてくださいね」と答え、この島に対する印象がさらに良くなった。
そこは犬連れテント泊にぴったりの場所だった。海が望めるし、犬が走り回れるビーチもある。センポは高速船に1日で3回乗って、島も歩いて、心身ともに疲れたのだろう。テントの前室にマットを敷いたらすぐに横になって眠ってしまった。そのセンボの頭や首筋を撫でて、穏やかな瀬戸内の海を眺めた。タブレットもラジオも持っているけど、どちらも出す気が起きない。何をするわけでもなく、ゆったりと流れる島の時間を堪能した。
ケージいらずの高速船に感謝
2日目は家島本島に渡った。家島本島はのどかな漁村のイメージがなく、明るくて洗練されていた。島を紹介するホームページには「急斜面にぎっしりと建つ家々を見ていると、まるでここは地中海(笑)」と書いてあったが、そう思えなくもない。
家島諸島の中心的な島だから、島民が多くて宿も店もたくさんある。僕はセンポを連れて今回の旅の目的でもあった人物を訪ねたが、それに関してはBE-PAL6月号の『シェルパ斉藤の旅の自由型』を読んでもらいたい。その出会いのおかげで、僕は家島諸島がさらに好きになった。
姫路港と家島本島を結ぶ「高速いえしま」はケージに入れないと犬は乗船できないから、再び坊勢島に戻って、坊勢島から姫路港行きの高速船に乗るつもりでいた。しかしそうする必要はなかった。姫路港と家島本島を結ぶ高速船は「高速いえしま」以外に「高福ライナー」があり、そちらの窓口で訊いたら「ケージがなくても乗れますよ」とのこと。おまけに手荷物料金もいらないという。
客室に入るわけにはいかないので、僕とセンポは船の後方デッキに行き、潮風を浴びて帰路についた。
数えられないほどの旅を経験して、年齢も重ねたセンポだけど、家島諸島の旅で一段と成長した気がした(親バカだけどね)。