視力を失ったフリークライマーと、その相棒による大冒険を追ったドキュメンタリー映画が公開中。おふたりの対談を通して、映画が生まれた経緯やフリークライミングの魅力をひもとく。
視覚障がい者がユタ州の奇岩のてっぺんをめざす『ライフ・イズ・クライミング!』
小林:旅の始まりはこの人が僕を、フィッシャー・タワーズのてっぺんに立たせたい! と思ったこと。どうせなら映像で記録しようといい、いずれも“面白そうだから”というのがブレてない。ドキュメンタリー番組で知り合った中原監督に相談し、映画にしません? といわれたときはビックリした。
鈴木:まだ信じられない。
小林:公開の日にドッキリでした! とわかるとか?
鈴木:僕は15歳でフリークライミングと出会って。登れたときの達成感はもちろんですが、自然のなかでいろんな景色が見られてとりこになりました。今回、あの絶景にコバちゃんが何を感じるかな? と。
小林:登っているときに全然怖さはないんです、安全は確保されてますから。でも頂上に立ったとき、風が強くて。座布団1枚分くらいの広さしかなく、風を真正面から受けてバランスを崩したらアウトじゃん! と。風が抜けていく感覚はほかの岩場では味わったことのないものでした。
鈴木:コバちゃんが途中で靴を落としたけど、柔らかい砂岩だからまだよくて。
小林:いや痛いんですよ! なのに、大爆笑してるし。
鈴木:僕の靴を履けばいいかと。今回の旅はメンバーが素晴らしくて最高だった。
小林:楽しかったね~。16歳で始めたときから、自分にもできることがある! という発見と、クライミングをする大人たちとの交流で、こんな生き方があるんだと刺激しかなくて。
鈴木:僕もコバちゃんといるだけで刺激になる。
小林:目が見えなくなっても、クライミングの楽しさは本質的に変わりません。工夫の幅が広がり、むしろ面白くなった。視覚障害者って自分が思うより大きな可能性がある生きものだと。
鈴木:コバちゃんは見えているときからクライミングしてるので、頭に動きが入っていてとてもスムーズ。
小林:壁があってもその先を見ようとせず、いまできることをまずやる。プチチャレンジを大事にしてます。
ユタ州フィッシャー・タワーズの尖塔に立つ!
フォルクスワーゲンの白いキャンパーバンで、車中泊しながらクライミング。今にも崩れそうな奇岩のてっぺんを目指す。
クライマーとサイトガイドの連携
「12時、右手」と鈴木さんがホールド(突起物)の位置を時計の針になぞらえて指示、それを記憶して登る小林さん。体が柔らかい。
『ライフ・イズ・クライミング!』(配給:シンカ)
●監督/中原想吉
●5/12~全国公開中
©Life Is Climbing 製作委員会
※構成/浅見祥子 撮影/小倉雄一郎 撮影協力/クライミングジム「Fish and Bird」
(BE-PAL 2023年6月号より)