移動中や旅先のちょっとした時間を読書に。スマホの利用が当たり前になった今、本を読むこと自体がちょっとした贅沢ともいえる。夏に向けて携えたい良書を4冊ご紹介。
BOOK 01
知られざる生物移入の歴史。沈黙の春をアップデートする
『招かれた天敵 生物多様性が生んだ夢と罠』
千葉 聡著
¥3,520
みすず書房
表紙に描かれているのは、ベダリアテントウ。1880年代に米国で行なわれた生物的防除(天敵を使った害虫防除)で大活躍したテントウムシだ。柑橘類に壊滅的な被害を与えていたイセリアカイガラムシの「天敵」として放飼され成功した例として知られている。
本書は天敵導入をめぐって害虫防除に携わった研究者たちの失敗と成功、世界各地で起きた(行なわれた)生物の移入の歴史をたどり新たな考察を試みたものだ。
本来の生息地でない場所へ生物を移入させることは、素人目にも危険を孕んでいることが想像できる。だが、過去には裏付けや根拠も乏しいまま、または悪気なく実行された例は枚挙に暇がない。害虫防除には薬品を用いる化学的防除もある。薬品は危険で、天敵導入は安全な方法といった対立する話ではないと著者はいう。生物的防除の存在を広く世に知らしめたレイチェル・カーソン著の『沈黙の春』の功績を称えつつも、その真意を改めて読み解き、初版から60年の時の流れを汲んだ考究を加えていく。
数々の事例を挙げ、成功から学ぶものはなく失敗から学ばなくてはならないのだと著者は強く反芻する。なぜそこまで著者は真剣なのか──。最終章でようやくその意味するところが明らかになっていく。
BOOK 02
楽しんでこそ身に付く柔らかめの防災ブック
『キャンプ気分ではじめる おうち防災 チャレンジBOOK』
鈴木みき著
エクスナレッジ
¥1,650
自らの登山経験をイラストやエッセイなどにして活躍している著者の防災ブック。’18年、地震による3日間の停電と断水で在宅避難を余儀なくされた著者は、防災士の資格を取得する。本書では長年親しんできた登山や自然遊びの経験を元に、災害時を乗り切る方法を段階的にワークブック形式で紹介。防災への備えをキャンプするみたいに楽しく「おうち防災」をやってみようよ、と呼びかける。ユーモアたっぷりのイラストと著者の柔らかい導きが、堅いイメージの防災のハードルをぐんと下げてくれる。食材延命レシピや節水洗い物テクなど、普段の生活でも実践したい知恵が満載。
BOOK 03
料理で明るい未来を人気シェフの料理道
『日本再生のレシピ 地方再生のレシピ2』
奥田政行著
ミヤザキケンスケ イラスト
共同通信社
¥2,200
25歳で地元の山形県鶴岡市にUターンし、ホテルの料理長などを経験したのちにイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」を開いた著者。地場食材を活かした料理は評判を呼び全国的に人気のレストランとなる。本書は料理の実用書の側面を持ちつつ、各地の生産者との物語など食による地方活性化というテーマが流れる。そして著者の料理道を深く著わしたものだ。意外にも著者には海外修業の経験がない。しかし地方で根を張り、培ってきた知恵を随所に感じる。
BOOK 04
南無大師遍照金剛 お坊さんのお遍路
『マイ遍路 札所住職が歩いた四国八十八ヶ所』
白川密成著
新潮社
¥968
弘法大師・空海ゆかりの八十八か所の霊場を巡礼する四国遍路。歩き、車、自転車、テント泊、いまやさまざまな巡礼スタイルがあるが、本書は第五十七番札所の住職でもある著者の歩き遍路の実録だ。お遍路さんの多くは40〜50日ほどで結願するそうだが、著者は月に数日ずつ、本職もこなしながらゆっくりと時間をかけて巡る。お接待を含めて色濃い一期一会が著者の遍路を彩っていく。心は空海とともに、「わからないことを深める」旅路だと問い続ける人間味溢れる道中記。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2023年6月号より)