日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の金子浩久が、新型の三菱「デリカミニ」をキャンプ場と公道でチェックしてきました。三菱といえば、ラリーで鍛えた4輪駆動制御技術を誇るメーカーです。一方で、軽四駆から軽EVまで独自の軽自動車を開発してきた軽自動車メーカーでもあります。荷物がたっぷり詰めそうなスーパーハイトワゴン×4WDの新型車は、はたしてどんな仕上がりになっているのでしょうか?
デリカD:5の遺伝子を受け継ぐスーパーハイトワゴン
三菱自動車が新発売した軽自動車「デリカミニ」に、メディア向け試乗会で乗ってきました。千葉県のキャンプ場を会場として、その周辺と一般道を約1時間走る試乗コースです。
デリカミニは、軽自動車の中でもスーパーハイトワゴンと呼ばれる種類に属しています。車高のとても高い箱形のクルマです。
三菱自動車には、「デリカD:5」というミニバンがあります。このデリカD:5が本格的な4輪駆動システムを備えていて、実際に走らせても悪路走破力は格別に高く、唯一無二の存在なので三菱らしい個性派モデルとして歴代モデルが高い人気を集めています。
デリカミニは、その名前とイメージにあやかろうというわけです。
軽4WDの価格はもはやコンパクトSUV並み
デリカミニには4輪駆動だけでなく、前輪駆動版もあります。トランスミッションはCVT1種類ですが、660ccのエンジンはNA(自然吸気)とターボの2種類。装備の違いによるグレードも4つあるので、合計8モデル。車両本体価格は、180万4000円から223万8500円。
試乗した4WD版の「T Premium」の税込み車両価格は223万8500円ですが、サンシャインオレンジメタリックというボディカラーやアダプティブLEDヘッドライトなどがメーカーオプションとして装着されていて、それらの合計額が15万9500円。
さらに、ナビとETCとドライブレコーダー、サイドデカール、フロアマット、その他などのディーラーオプション43万2520円分も加えられて、合計金額が283万520円にも上ります。
最近の食品や各種エネルギー代金だけでなく、クルマの価格も上がっているのです。
車高の高さからすると意外なほどの走行安定性
会場から一般道に出て、すぐに好印象を得ました。車高の高い大きな“箱”なので、落ち着きのない動きをするのではないかと想像していたのですが、意外や意外、違っていました。
舗装のつなぎ目や小さな段差などを乗り越えたり、交差点でハンドルを切ってもピョコピョコ動くようにも感じられず、ボディは落ち着きながらタイヤだけが上下動している感じです。
165/60R15という大径サイズのタイヤと専用ショックアブソーバーの効能を確認することができました。
「デリカミニはオフロードをガンガン走るクルマではありませんが、安心感を感じられるものにしました」と、三菱の開発担当者が語っていたとおりの乗り心地といえます。
試乗してみてちょっと気になった点
しかし、スーパーハイトワゴンと称する軽自動車すべてが抱える課題をデリカミニも抱えていました。
1 左右の死角
前方の視界は良いのです。でも、運転席と助手席両ドアの下半分から地面までが完全に死角に入ってしまっている。まったく認識できない。特に細い道での方向転換や、駐車時に神経を使う。これでは、小さなサイズのクルマに乗っているメリットを感じません。
2 運転席が高すぎる
課題その2として、高さのあるボディの高めの位置に座って運転していることの不安定感がやはり無視できませんでした。舗装路を流れに添いながら走る分には問題ありませんが、未舗装で少し凹凸が連続する農道を走ってみたら、つねに前後左右にボディが揺さぶられ、不安定感が一気に出てきました。
横転こそしないでしょうが、気持ち良いものではありません。強健さが売りの「デリカ」を名乗るのに、これでは心許ないですね。
3 ヘッドライトのデザイン
テレビCMでも訴求している上部が切られたリング状のヘッドライトのデザインアイデアは、どう見ても先に出たイギリスの某オフローダーとそっくりです。
「デリカ」という名前をセルフサンプリングしているのだから、ヘッドライトも含めたフロント部分のデザインもデリカD:5もしくはこれまでのデリカシリーズをイメージできるものでないとチグハグですね。企画と意匠がバラバラ。
4 全車標準装備のグリップコントロールとヒルディセントコントロール
グリップコントロールやヒルディセントコントロールなどのオフロード用の電子制御機能の真価は試せませんでしたが、積雪地域を除けば、そもそもオーナーとなる人は、それらを必要とするような過酷な道にこのクルマを乗り入れるのでしょうか?
5 マジメすぎるにもほどがある内装
インテリアやシートなどは、最近の三菱の軽自動車と変わらない黒・グレー一色のオーソドックスなもの。普通過ぎ、マジメ過ぎ。
シートは撥水シート生地ではあるものの、シートを外せるとか丸洗いできるとか、アウトドアアクティビティを楽しんでいるユーザーの実際に役立つように仕上げられていたら、他の軽自動車との大きな違いを出せたのに、と思います。ちょうど、デリカ:D5が他のミニバンとは違った孤高の存在として輝いているようにです。
新生パジェロミニもあるのか…?
デリカミニは、オフロードドライビングの雰囲気を楽しむ軽自動車です。雰囲気だけではない現代版「パジェロミニ」の登場も待ちたいですね。