七夕は、織姫星と彦星が年に一度のデートを許される日です。いつこのような恋物語が生まれたのかはっきりはわかりませんが、一説によると奈良時代の頃に中国から日本に伝わっていたようです。
織姫星は「織女星(しょくじょせい)」とも呼ばれますが、こと座の1等星ベガ。全天で5番目に明るい1等星で、天高く、ほとんど天頂近くまでダイナミックに昇っていきます。
彦星は「牽牛星(けんぎゅうせい)」とも呼ばれ、わし座の1等星アルタイル。ベガよりも一回り暗いですが、色は白でほぼ同じです。
七夕の夜に輝く「夏の大三角」を新暦と旧暦で見比べてみよう
日本では七夕というと7月7日ですが、これは“新暦”の七夕です。
本来、七夕の行事は月の満ち欠けに準じた暦(旧暦)の7月の「新月の日から7日目の夕べ」に行われるものでした。ですから、月の満ち欠けと関係ない現在の暦で、毎年7月7日にしてしまうと、本来の日付から大きくズレてしまいかねないわけです。
新月から7日目となれば上弦の月の頃。ですが、7月7日の月は毎年月齢が異なり、今年月齢は19、もう満月を過ぎています。
旧暦の七夕は「伝統的七夕」と呼ばれ、今年は8月22日。夏の終わりにやってきます。
夏本番の前に迎える新暦の七夕と、夏の終わりに迎える伝統的七夕、それぞれに夏の大三角を見上げてみてください。だいぶ趣が違ってみえることでしょう。
織姫星と彦星の間を貫くキューピッドの矢?
夏の大三角は街中でも見つけることができます。旅先やキャンプ先、少し暗い場所に行ったら、この大きな三角の中に注目してください。織姫星と彦星の間に目立たない星座が3つもあります。いるか座、や(矢)座、こぎつね座です。
いずれもいちばん明るい星が3等星以下で、特別なエピソードも持たない地味な星座です。しかし暗い所に行くと、1本線のや座、菱形をしたいるか座は、探そうと思えば探せます。
いるか座も、や座もとても小さくて地味に見えますが、実は古くからある星座です。2世紀に天文学者プトレマイオスが記録した「トレミーの48星座」に入っているのです。
星座ファンに愛されるいるか座
特にいるか座は、こぢんまりとして案外見つけやすく、好きな星座にあげる星座ファンは少なくありません。
ギリシアの伝説では、ある音楽家を救った「イルカ」として登場しています。
物語はこう。音楽コンテストに出場した音楽家は見事優勝し賞金をもらいます。その帰途、海で船に乗りました。するとその船乗りたちが欲にくらんで音楽家から金を奪い、殺そうとします。音楽家は「殺す前にせめて一曲歌わせてくれ」と懇願し、竪琴を弾き歌ったところ、海からイルカが現れ、音楽家はその背に飛び乗って逃げおおせたという話です。古くからイルカは賢い動物として知られていたのでしょう。
や座は誰の矢?
一方、や座。全天で有数の細くて小さな星座です。だれの矢なのか、由来はいまひとつ、はっきりしません。ギリシア神話の中では、たくさんの神様、勇者たちが弓矢を扱っているので、たとえばヘルクレスが使っていた矢であるとか、アポロンが使った矢であるとか、いろいろな説があります。
星座絵を見ると東の方に向いているので、いて座の矢でもなさそうです。なぜ1本の矢だけの星座が作られたのか、謎です。
まったくの後付けですが、織姫星と彦星の間にあることから「キューピッドの矢」ではないかという微笑ましい説もあります。キューピッドはローマ神話に出てくる愛の神です。
17世紀に作られたこぎつね座
最後に、アヒルをくわえたこぎつね座ですが、こちらは17世紀に作られた新しい星座です。天の川に近いことから、川を泳いでいたアヒルを仕留めた子ぎつねというストーリーが描けるかもしれませんね。
暗い場所に行ったときは、雄大な夏の大三角の中の小さな星座たちも探してみてください。双眼鏡を向ければ、天の川とともにキューピッドの矢も見えるかもしれません。
構成/佐藤恵菜