夏本番を迎え、山に海にと自然を満喫する人が増えています。外出の機会も徐々にコロナ禍以前のペースに戻っていますが、アウトドアの経験値がぽこっと3年分抜け落ちている人も多いでしょう。
夏の外遊びで気になるのが、子どものケガ。みなさんは、正しい応急処置の仕方をきちんと把握していますか?
そこで今回、絆創膏を製造販売するニチバン株式会社のセミナー「専門医が教える“令和”の正しいケガの応急処置」に参加。子どもとの外遊びが多くなる季節に押さえておきたい“正しい傷ケア”について、塙小児科医院院長の塙佳生先生にお話を聞きました。
持ち歩く救急アイテムのダントツ1位は「救急絆創膏」
ニチバンが2023年5月に全国の3歳から小学6年生までの子どもがいる男女400名に行った「子どもの外遊びとケガに関する調査」では、アウトドアやレジャーのときに持ち歩く救急アイテムの1位はダントツで「救急絆創膏」(95.3%)、そこから大きく差がついて、2位が「消毒液」(35.6%)、3位「鎮痛剤」(22.5%)と続いています。
この結果に対し、塙先生は「応急処置アイテムとして消毒液が2位になるのは、少し気がかり」と言います。実は、外傷に対して簡易な治療をするならば、消毒液を使わないほうがいいというのが現代のセオリー。「なんでも消毒液で除菌しておけば、傷のためにいい」という考え方は理にかなっていないといいます。
「消毒液を使うと、傷を治すための菌も殺してしまい、むしろ悪化させてしまう可能性もあります。また、傷の表面のばい菌は殺せているかもしれないけれど、傷のなかのばい菌を殺せているわけではない。逆に治りかけている傷の細胞を殺してしまうことにつながってしまう。まずは水で流し、傷のなかにある汚れなどを取り去るべきですね」
1942年の大火事から広がった「モイストヒーリング」治療
塙先生によると、傷の治療について、いまは「モイストヒーリング」という、乾かさずに治療する方式を推奨しているそうです。
この治療法は、1942年にアメリカの「ココナッツ・グローブ」というナイトクラブで起こった大火事から広がったもの。当時、ハーバード大学のコープ博士が被害者500名以上の患者に対し、傷を乾かさない治療法を実践。非常に良い結果を得たことから、その考え方が広まり、20年後にイギリスのウィンター博士が動物実験でコープ博士の考えを実証。「傷は乾かすよりも、滲出液を逃がさないようにぴったりと覆った方が治りは早い」という研究結果とともに、「モイストヒーリング」が提唱されました。
次に、塙先生は実際にモイストヒーリングでの治療例を写真で提示しながら解説。
「この患者は雨が降っているときに傘を差し、アウトドアシューズで街を歩いていました。アウトドアシューズの靴裏が逆に街中の点字ブロックの上ですべってしまい、傘を持っている方と逆の右腕を擦ってしまいました」と話し、ケガ当日から1週間後の様子を紹介しました。
その後、患者さんは薬局で乾かさないタイプの絆創膏を購入し、すぐに使ったところ、まずは痛みが治まったそうです。そこから1週間後には傷は塞がり、現在、傷跡はわからないまでになりました。実はこの患者というのは塙先生本人で、身を持ってその効果を体感したのだそう。
モイストヒーリングには「傷が早く治る」「傷跡が残りにくい」「痛みが少ない」以外にも、絆創膏などの交換回数が少ないため、傷口の閉鎖環境を確保しやすく、細菌の侵入を抑えることができるというメリットもあるといいます。
令和版にアップデートした応急処置方法とは?
では、いざケガをしたときにどう対処すればいいのでしょうか?
「消毒液で除菌する」「唾をつけておく」など過去の言説に基づくものではなく、令和版にアップデートする必要があります。
「まずは、ケガをしたら、傷になった部分を水でじゃんじゃん洗うこと。消毒液は使わない方がいいですね。絆創膏を持っていなければ、コンビニなどに駆け込んで買ってください」
夏本番を迎え、これからは子どもと一緒にアウトドアへ出かける機会なども増えてきます。楽しい外遊びシーズン、ケガに注意しつつも、起きてしまったときは適切な対処を心がけたいですね。
ケアリーヴ 治す力
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取材・文/北本祐子