まとまった休みが取れる夏こそ、無人島生活をしてみたくないだろうか。そこで、アウトドアの達人がもてるノウハウを使い、体験レポート!
ライター 藤原祥弘
元リバーガイドの万年新米シーカヤッカー。野生食材の採集と活用をライフワークにしている。この号が出るころには無人地帯を仲間と踏破している予定。
シーカヤックでいざ無人島へ
国土地理院によると、日本には14125もの島があるという(令和4年1月時点)。今回目指した場所もそのひとつ。島と呼ぶには大げさだが、岩と呼ぶには大きい岩塊だ。
ここに初めて上陸したのはもう20年以上も前のこと。水中マスクと足ひれをつけて、泳いで渡ったのだった。そう、この無人島は岸から100mほどしか離れていない。しかし、この100mに意味がある。簡単に人が上陸できないので、島は生命の気配が濃いのだ。島の周囲は魚にあふれ、ルアーを投げればスズキや回遊魚が食らいつく。
「いつか、この島で夜釣りしながら一夜を明かそう」
高校生のころ抱いたそんな宿題を片付けるべく、シーカヤックと野営道具をクルマに積んで快晴の夏の磯に降り立った。
この日のテーマは「無人島サバイバルごはん」。海から集めた食材で夕食をつくると決めてきた。夏の大潮の磯ほど、食材が簡単に手に入る場所はない。磯際には食べられる野草が生え、潮の引いた磯では石を返すだけで小魚やカニが採れる。
集めるべき食材を手に入れたら、シーカヤックでいざ無人島へ。場荒れしていない磯では、いい魚が待っているはずだ……。
ところが、である。
島の目の前まで漕ぎ進んでみると、唯一の上陸地点が台風のうねりでザブザブと洗われており、どうにも進入できない。水路の手前の岩場で波を受けたら転がされるのは必至だ。うねりには息がある。ふっと途切れるタイミングがあるだろうと浮かんで待ったが、この日はついに波が途切れることはなかった。
島への上陸をあきらめ、対岸にシーカヤックを引き上げてタープを張った。火をおこして夕食をつくり、コーヒーを煎って島を眺める。これはこれで悪くない。「無人島に泊まる」宿題の解消は、また今度!
※所有者・管理者がいる島では許可が必要です。また、魚貝類を採集する際は、事前に地域の漁業調整規則を確認してください。
10時
海辺は食べられる野草の宝庫!
(しかし場所は選ぼう!)
海岸林と海の間に広がる草地にはアシタバやボタンボウフウなどの食べられる草が隠れている。しかしこんな場所は釣り人の恰好のマーキングスポット。人がこない場所で摘もう。
11時
海の底で採集! 大潮の干潮を歩く
干潮時の岩陰には潮が満ちるのを待つ小魚やカニが潜んでおり、岩を返すだけで採集できる。ただし、岩を返したままにすると表面の海藻が枯れて磯が荒れてしまう。起こした岩は必ず戻しておくこと。
起こした岩の下から走り出たショウジンガニをキャッチ! 汁物にすると旨みの強いだしが出る。
小一時間でショウジンガニ、タイワンガザミ、ダイナンギンポ、マツバガイなどが集まった。
12時
島をスカウティング
シーカヤックに野営道具と集めた獲物を詰め込み、上陸できるかスカウティング。風は弱く波もないが、波長の長いうねりが沖から押し寄せ、島を洗っている。すごすごと岸に戻る。
14時
穴のタコはこちょぐって追い出す
岩にタコの巣穴を発見! 穴のなかのタコは、細い棒でくすぐると嫌がって飛び出してくる。ここでは漁業権の対象だったので惜しみつつリリース。
16時
回遊してくるワラサを狙う
うねりが収まるのを待つ間、岸からルアーを投げる。近くの磯でワラサが大漁しているとの事前情報をつかんでいたが、海は沈黙を守った。
17時
台風のうねりに敗退! 無人島上陸ならず
シーカヤックで目指した無人島。左の写真の島の右下には小さな砂浜があり、この砂浜は幅2mほどの水路で海とつながっている。白く波立っているあたりがその水路への進入路だ。波が収まるタイミングを待ってみたが上陸できなかった。
18時
小物でも大満足! 磯の恵みで夕ごはん
いろんな具を同じ調理法で処理でき、油はねが気にならない野外でこそ、天ぷら! 残った油は冷まして持ち帰るか焚き火で燃やす。
コーヒー豆を焚き火で焙煎。焚き火で煎ると少しスモーキーな味わいに。
野草と魚とイソスジエビの天ぷら、カニ汁、焼き貝。香気が強すぎる野草や魚は、油で揚げるとにおいが飛んで食べやすくなる。
「海キャン」満喫ポイント
1 サバイバルデビューするなら海!
2 身近な海もカヤックなら冒険的に
3 地続きじゃないだけで秘境感UP!
※構成/藤原祥弘 撮影/山田真人
(BE-PAL 2023年8月号より)