ソロ活は自由だ。自分の好きなシーンで楽しめる。達人いわく、低山ハイクは リセットする行為だという。そこでお気に入りの地を歩いてもらい、楽しみ方のコツを伝授してもらった。
低山トラベラー 大内 征さん
ピークハントだけにとらわれない"知的な山旅"を追求。歴史文化や神話を辿って、日本の低山を巡る。近々、ソロ低山の著書を刊行予定。
ホームマウンテンで整う低山ハイク、からの渓谷 チェアリング
おそらくいま日本で一番ひとりで低山に登っている男、大内征さん。2000を超える山頂を踏んできたなかでも、頻繁に訪れるホームマウンテンを紹介してくれるという。さぞや特別な場所だろうと思っていたら、意外なことに飯能の天覧山。え? どメジャーじゃん。なんだったら2回くらい行ってます。
大内さんはソロ低山ハイクをチューニングと呼ぶ。ひとり静かに勝手知ったる山を歩く。
「難しいことを考えず、無になれる、ある種瞑想的な時間です。よく知った山なら、特別な準備も必要ないですし、フラッと気が向いたときに出かけられます。定期的に好きな低山に何度も訪れることで、心身ともにリセットできる感覚がありますね」
知らなければ通り過ぎてしまうような社についても、事細かなウンチクを教えてくれる。知ることで深まる低山の魅力。これもソロ低山ハイクを楽しむ上で欠かせない要素だという。
「最初は何も知らずに感じれば良いと思います。ただ、2回目以降は気になった社の由来なんかを調べてから行くと、より深みが増すんです。僕は下山後に近くの図書館や公民館によく行きます。地元の民話とかが残っていたりしますから」
さすが、低山達人……と思っていたら、最後の締めは河原でビールだと!? 持参したヘリノックスを川の中にドン。そのまま足を川に浸し、アイシング×冷えたビール。こんなの最高に決まっている。
「河原のチェアリングが最高です。歩いて終わりじゃなくて、締めにゆったり椅子に座りながら自然をただ、感じる。まあ、単純に自分が気持ちいいことをしてるだけなんですけどね」
FUNの要素もしっかり入れてくるあたり、いい意味で肩の力が抜けた山歩き。あらゆるジャンルにおいて、達人ほどうまく脱力できているとはこのことか! 何か目的を達成するために山に行くわけではないのだ。誰も見ていないんだから、ただただのんびりとひとりの時間を楽しむ。それでいいのだ。
大内さんのソロ低山を体感することで、単純に野遊びを楽しんでいた幼少期を思い出す。子供のころに駆け巡った野山は、いま思い返せば間違いなくホームマウンテンだった。かと思えば、神社や歴史について語り、河原で旨そうにビールを飲む大内さん。こ、これは子供と大人のハイブリッドだ。ソロなんだから、絶景感とか気にせずに、自分が好きだと思う山は何回も歩けばいい。それによって、さまざまな小さなことに感動できた、かつての自分を取り戻せることを大内さんのソロ低山ハイクに学ぶ。
天覧山!? とか侮ってマジでごめんなさい。
飯能駅から吾妻峡まで低山ハイク(埼玉県)
難易度 ★★
飯能駅からスタートして、天覧山(195m)、多峯主山(270m)を経由して、吾妻峡へと下りる。行動時間は3時間弱。
Start!
8:00
電車で完結できる駅to駅のハイク開始
ホームマウンテンにするなら、自宅からのアクセスの良さも重要。大内さん宅の最寄り駅沿線の飯能駅スタートだから気が向いたときにフラっと来れる。
9:00
石仏や社の存在でいにしえの時代を感じる
天覧山の頂上手前には、十六羅漢像石仏がある。5代将軍綱吉の病気平癒に設置されたもの。ほかにもコース上には、巨岩に祀られた観音像など歴史的見せ場多数。
9:30
危険箇所はゼロ! 無になって歩ける瞑想道
自分の呼吸を意識しながら歩く、ある種瞑想的な登山が大内流低山ハイクの醍醐味。多峯主山の頂からは東京の街並みも見える。
10:00
“大先輩”にご挨拶。巨大なクスノキの元へ
ホームマウンテンでは、自分だけのお気に入りを見つけるべし。巨木や巨岩など、探せばいくらでもある。
Finish!
10:30
かつての人の痕跡に暮らしの気配を感じる
このトレイル上には、二か所の谷戸があり、かつては水田として使われていた気配が残っている。里山ならではの景色がいたるところにあるのも低山の魅力のひとつ。
吾妻峡でまったり過ごす渓谷チェアリング
難易度 ★
今回のチューニング旅の締めは、吾妻峡まで下りてきてからのチェアリング。昼前に下山できる低山だからこその贅沢!
11:00
多峯主山から下りてきて、10分ほど歩けば、吾妻峡へと到着。ドレミファ橋を渡っていざビールスポットへ!
11:30
人の少ない上流側を狙うのがポイント。ビールを冷やすために保冷バッグに入れていたカップ氷に、秋田杉の葉を使ったジンを注いでキンキンの水割りも楽しむ。
秋田杉ジンは山にピッタリ!
達人が選ぶオススメ低山
滝川渓谷(福島県)
難易度 ★★
初心者向けチューニングコース。四十八滝が連続する美しい渓谷沿いを歩いて存分に癒された後は、「滝川の里」の絶品天ざるで締め!
伊勢山上(三重県)
難易度 ★★★★
大峯奥駈道と同様の修行の場が模倣された修験の山。うっかりすると転落する激しめのクサリ場が連続。ここを管理する飯福田寺に宿泊も可。
熊野古道中辺路(和歌山県)
難易度 ★★★★
おすすめは滝尻王子から熊野本宮大社を経て湯峰王子までの約40㎞。獲得標高差は2500m以上。瞑想的低山ソロに相応しい熟練者向けの蘇りの道。
ソロ低山ハイク3箇条
1 何度も通いたくなるホームマウンテンを見つけるべし
2 その山の歴史や文化などについて学ぶと奥行き感UP
3 ただ登るだけじゃなくFUNの要素を盛り込む!
※構成/櫻井 卓 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2023年9月号より)