日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、ポルシェが運営する話題の施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」で走行体験してきた模様をリポートします。有料プログラムに参加すれば、乗ってみたかったあのポルシェを最高のシチュエーションで試乗可能。世界最高峰クラスのSUV「カイエン」「マカン」でオフロード走行体験もできちゃうんですよ!
進化する「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」
千葉の木更津にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京のプログラムが充実してきました。
例えば、2021年のオープン当初は、センターに用意されたポルシェのニューモデルでしか各種コースを走ることができなかったのが、参加者が自分のポルシェを持ち込んで走れるようになったりしているのです。
また、“コミュニティイベント”として「Morning Mission」も行なわれています。月に一度、テーマを決めて、日曜日の午前中にポルシェに乗ってオーナー同士が駐車場に集まって、コーヒーを飲みながら語らい合います。場所と機会が用意された“オフ会”ですね。事前の申し込みは必要ですが、うれしいことにこちらは無料です。
8月20日の日曜日に出掛けてみると、開場の9時前にもかかわらず、すでに多くの「ボクスター」や「911カブリオレ」などが集まってきていました。今回のMorning Missionは、「Open Air」がテーマなのです。
同じ「718ボクスター」でも、スタンダード版や「S」があるだけでなく、「GTS」や「718スパイダー」などもあります。さまざまなモデルやボディカラー、インテリア、オプションパーツの有無などで同じに見えるクルマが1台もありません。
「911カブリオレ」は年式の違いの幅も広く、もっといろいろなクルマが参加していました。
そんな中で異彩を放っていたのが、「968」です。淡いペパーミントグリーンのボディのコンディションも良好な1台で、オーナーさんに話を伺いたかったのですが、あいにくと厳しい直射日光が容赦なく照り付け始めてきたところで、オーナーさんも傍らにはおらず、こちらもその中に立ち続けて待つこともできず、残念ながら会うことはできませんでした。
自分のクルマでポルシェ・エクスペリエンスセンター東京を走ってみました
そして、午後からは待望の「オーナーエクスペリエンス」です。前述の通り、施設のオープン当初は自分のクルマで走ることはできなかったのですが、可能となりました。
事前に送られてきた簡単な安全点検項目をチェックし、交換時期はちょっと早目ですがタイヤ4本も新品に交換済みです。
インストラクターが運転するセンターのブルーの「718ボクスター」に付いて、ブレーキとスラローム走行。無線機を通じて、アドバイスを授けてくれます。次に場所を移して、ハンドリング路。タイヤからスキール音を出さないように周回するのが難しい。どのくらいのスピードでどこのくらいの角度までハンドルを切ると音が出てしまうのかコントロールしながら走るのが簡単ではありません。でも、自分のクルマが微細な操作の違いに反応しながら走るのを確かめることができたのは大きな収穫でした。
難しかったのが、キックプレート。水が流されている平面の手前に埋め込まれた鉄板をリアタイヤが40km/h以上で通過する時に素早く左右どちらかにスライドするのです。何もしなければスピンですが、ハンドル操作で防ごうとしても防ぎ切れませんでした。
同じように水を流した平面を円を描きながら回るのも簡単ではありませんでした。もう一度来て、練習したいですね。
最後は、周回路です。1周2.1kmのコースは丘を駆け上がって下がりながらコーナリングを繰り返すようレイアウトされています。クルマ好きには有名なニュルブルクリンク(ドイツ)のカルーセルというコーナーやラグナセカ(アメリカ)のコークスクリューというコーナーを模したコーナーも日本の左側通行に合わせて逆向きに造られているという凝りっぷりです。
2年前のオープン時に、センターの「911カレラ」で走った時のことを思い出しながら走り始めました。その時はインストラクターが助手席に同乗して、説明付きで走りました。「レースのようにラップタイムを縮めることが目的なのではなく、いかに滑らかに走るかを体験していただくことが目的です。それが公道走行での安全にもつながりますので」
アタマでは理解しているつもりでも、その通りに運転するのは簡単ではありません。速度制限も信号機もありませんから、ついつい調子に乗ってアクセルペダルを踏み過ぎてしまいます。オッと気付いた時には強目にブレーキを踏んでしまっています。すると、次には再び強く加速してしまい、無駄な加減速を繰り返してしまうことになるのです。
コーナーリングについても同様です。一つや二つのコーナーを最短距離で抜けることにムキになってしまうと、三つ目や四つ目、さらにその先のコーナーがキツくなってしまいます。1周する中で、加速と減速、コーナリングなどすべてを調和させ、だんだんとスピードを上げていく。蛮勇ではなく理性が求められます。
ツインクラッチ式ATトランスミッションの真の力を実感
“対話”というと大袈裟ですが、周回路を運転操作に集中して走っていると、自分のクルマの反応が良く感じ取れます。特に、著しく感じ取れたのはトランスミッションの優秀性です。自分のクルマのトランスミッションは「PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)」という名前の付いた、ツインクラッチ式の2ペダルATですが、フットブレーキの踏み込み具合に応じて、シフトダウンします。
その原理や作動具合は自分のクルマでも、他のポルシェでも国内外で体験してきましたが、改めて専用コースで走るとその特徴を顕著に感じることができました。
基本的な動きとしては、コーナーが迫ってきてフットブレーキを踏むとギアが1段落ちてエンジンブレーキも併用します。これが、強く踏むと2段ないし3段落ちてより強く減速します。でも、その時にハンドルを切っていたり、下り勾配の途中だったり、走行スピードが高くなかったりすると1段しか落ちなかったりします。その判断をクルマが行なってくれているのですが、塩梅が絶妙で、まるでエキスパートドライバーが運転しているようなのです。走行モードをノーマルからスポーツに切り換えても変わってきます。
クルマに設置された各種のセンサーとコンピューターによってギアがシフトされているのです。日産「GT-R」のように、ポルシェ以外のメーカーでも同じ原理を用いたトランスミッションを採用しているクルマもありますが、その働きの賢さと素早さではPDKが一歩先んじていると思います。周回路を走っている間中、自分のクルマに惚れ直してしまいました。
いつか乗ってみたいクルマを楽しめる世界屈指の体験施設
現代のクルマは多機能ですから、日常的な使い途の中では全部を使い切れていないかもしれません。それらを試してみるのに、こうした専有コースでの走行は良い機会となるでしょう。
また、購入検討者による試乗も今まではディーラー単位で、それも高速道路や一般道で行なわれていましたが、ここならば多角的かつ安全に行なえて、有意義なものとなるでしょう。
ボディカラーや装備などの比較検討もカタログやモニター画面ではなく、実車でリアルに行なうことができます。
ドライビング体験の料金は90分単位で、「718ケイマン」の4万7000円から「911 GT3」の10万9500円まで車種に応じています。ラグジュアリースポーツの「911ターボ」と超硬派な「911GT3」の2台を比較するプログラム(14万円)や、「911ターボ」と「タイカンターボ」とでエンジン車とEVを比較するプログラム(11万5000円)もあります。「カイエン」や「マカン」などのSUVでは、オフロード走行のプログラムもあります。サイトから予約すれば、オーナーでなくても誰でも利用できます。
さらには、ラップタイムなどのデータを分析し、マンツーマンの指導を受ける240分間の上級者向け「アクセラレートプログラム」(21万円から)もあります。
プログラムを受講しなくても、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京のカフェやレストランなどを利用することも可能です。
富士や鈴鹿などの既存のサーキットはレースを行なうことが大前提となっています。コースをコンマ1秒でも速く走るために切磋琢磨しようという人々が集まっている場所です。
それに対して、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京では参加者の運転スキルを上げ、より深くクルマを知って楽しむために造られ、運営されています。レースを行なわない代わりに、より間口の広い楽しみ方が用意されています。
モータースポーツとは一線を画し、ドライビングのリアル体験を存分に味わえるこのような施設は今までありそうでありませんでした。自動化やシェアリングなどが進み、運転のリアル体験から遠ざからざるを得なくなる現代だからこそ、存在意義がこれからより高まっていくことでしょう。
創業以来、モータースポーツ活動に精力的に取り組み続けているポルシェが運営しているところが意外でもありながら、同時に変革しつつある時代を見事に捉えている点もまたポルシェらしいなと大いに納得させられました。ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京が世界で9番目にオープンし、近々10番目のトロントがオープン予定だと聞くと、広く支持を集めていることがわかります。
(走行中の画像は特別な許可を受けて撮影されたものです)
●ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京 https://porsche-experiencecenter-tokyo.jp