秋の夜空は明るい星が少なく、一年の中でもっとも地味な季節です。そのため惑星がとてもよく目立つのですが、今年は土星が南の空でポツンと、がんばってくれています。
9月前半は夜中に木星が昇ってきます。昨年までは木星と土星がつかず離れずで同じ視界に収まっている時期が長かったのですが、この秋はかなり離れています。
加熱する木星と土星の「衛星の数競争」
しかし、今年はまた別の、木星と土星のトピックがあります。衛星の数です。
今年の5月、土星の衛星が100個を超えて、木星の衛星の数を抜きました。実はこれまでも木星と土星は衛星の数でデッドヒートを繰り広げてきたのです。
先に衛星が見つかったのは木星で、1610年にガリレオが4個の「ガリレオ衛星」を発見しました。土星の最初の衛星発見は1656年と遅かったものの、1684年に計4個となって木星と数で並び、1789年に6個と逆転しています。
20世紀に入ると木星がじわじわと数を伸ばして土星を上回り、1979年には木星16対土星11と差をつけていました。ところが、翌1980年には惑星探査機ボイジャー1号などの活躍で、6個上積みした土星が一気にひっくり返しました。
21世紀になってからは観測技術の発達もあって発見のペースが加速し、何度も再逆転が起こっています。
今年初めの時点では、木星が80個、土星が83個(実在が不確実なものを除く)と土星が僅差で勝っていました。しかし2月に、木星の衛星が新たに15個認定されて95個になり、およそ3年ぶりに逆転、首位の座に返り咲きます。
ところが、それからわずか3ヶ月後の5月、今度は土星の衛星が新たに63個も認定されて合計で146個になり、再び逆転。現時点で51個もの差をつけています。
衛星の調査は小惑星衝突リスクの研究に役立つ
惑星の大きさは木星が半径約7万1000キロ、土星は半径約6万キロと、木星のほうがかなり大きいわけです。それでも衛星は土星のほうが多いのはなぜか。
まず、どれだけ観測チームが衛星を探すか、その頻度や精度や期間などが関係します。たとえば、ある天文台や大学の観測グループが「土星の衛星を観測しよう」と決めれば、発見される数が増えますし、「木星の衛星を観測しよう」となれば木星の衛星の発見数が増えるわけです。
とはいえ、一定以上の大きさの衛星はもう発見しつくされていると考えられていて、それを踏まえると本当に土星の方が多くの衛星を抱えているのではないかと言われています。ただ、その理由については決め手がありません。
ちなみに土星の周辺と言えば「環」が有名ですが、環を構成する微小な粒は衛星の数にはカウントされていません。発見された衛星の大半は環よりはるか遠くを回っていて、土星の近くを通りかかった小惑星が取り込まれて形成されたという説があります。
私たちは衛星というと、どうしても月を思い浮かべてしまいますが、木星や土星の衛星はそのイメージとは違います。月よりずっと小さく、直径2,3kmの天体、球体でもない天体がたくさんあります。たとえば、はやぶさ2号が探査した小惑星リュウグウは900メートルほどの、いびつな球体でした。これくらいの天体も、発見されれば衛星としてカウントされます。
小惑星をはじめ、小さな天体の動きの観測の重要性は高まっています。
たとえば、小惑星が地球に衝突するリスクの計算。また、これら小天体がどこからやって来て、どんな物質でできているのかを研究することは、太陽系の成り立ちの解明につながります。
はやぶさとはやぶさ2が長い年月と労力をかけてイトカワやリュウグウまで行って帰ってきたのには、それだけの意味があります。
木星の衛星はゼウスの愛人、土星の衛星は巨人族の名に
ところで、衛星の固有名詞の付け方は惑星ごとに決まっています。
一気に増えた新しい衛星には記号しかついていないものもありますが、古くから知られている衛星にはほとんど固有名詞がついています。
木星の衛星は、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの4つが有名です。ガリレオが望遠鏡で観察したことから、4つまとめて「ガリレオ衛星」と呼ばれます。小さな望遠鏡で観察できます。
さて、このガリレオ衛星の名前はすべてギリシア神話に出てくるゼウスの愛人の名前です。ガニメデはみずがめ座の水瓶を持つ美少年ですね。ただ、さすがのゼウスも愛人を無数にもつことはできず、30個目あたりからは主にゼウスの子孫の名前が付くようになっています。
土星の衛星はタイタン、エンケラドス、ミマス、テティス、ディオネなどが知られます。
これらの名前は、ギリシア神話に登場する巨人族の名にちなみます。ただこちらも数が増えすぎて、ギリシア神話の巨人族を使い切ったあとは世界各地の神話に登場する巨人族の名にちなんでいます。
現在は、その衛星の軌道が持つ特徴にあわせて、北欧、ケルト、そしてイヌイットの神話から名前が選ばれます。
神話の時代には地球上に多くの巨人族が住んでいたのですね。土星の衛星は小さな望遠鏡では観察がむずかしいのですが、土星の近くを回る巨人族を想像してみるのも楽しいかもしれません。
構成/佐藤恵菜