東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第7座目は、東京都港区にある「雷神をまつった山」です。
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第7座目「雷神山」
港区の山をいろいろ巡ってきて、さすがにもうないだろうと思っていたのですが、探せばあるものです。ひときわ大きな国立科学博物館附属自然教育園から少し進んだ白金の閑静な住宅街に、ひっそりとその山はありました。その名も「雷神山」です。
平安時代、流行した疫病を鎮めるため、雷神を祀った雷(いかずち)神社が建てられました。以来、この土地は雷神山と呼ばれ、病気が完治して回復することを祈願して多くの人々が参拝するようになったと伝えられています。戦後は氷川神社に合祀(ごうし)され、現在は雷神山児童遊園として生まれ変わったそうです。今回は、そんな歴史ある山を目指します。
山に向かう途中の緑豊かな見どころ
今回はJR目黒駅近辺で用事があったので、そのついでに歩くことにしました。歩くなら、やはり住宅街より自然豊かな道がいいですよね。ということで、国立科学博物館附属自然教育園や白金台どんぐり児童遊園を抜けて、雷神山を目指すルートを選びました。早速、JR目黒駅西口登山口から、大通りを進んでいきます。
大通りを進んでいくと、東京都庭園美術館と国立科学博物館附属自然教育園が見えてきました。東京都庭園美術館の敷地と建物は、香淳皇后の叔父にあたる朝香宮鳩彦王がパリ遊学後2年をかけて建設し、1947年の皇籍離脱まで暮らした邸宅です。その後、プリンスホテルに売却され、国賓・公賓来日の際の迎賓館として使われました。現在は、都立美術館として庭園が一般公開されています。庭園入場料は高校生以下無料、一般200円とリーズナブルです。
一方、国立科学博物館附属の自然教育園は、「旧白金御料地」として園内全域が天然記念物および史跡に指定されています。園内は、自然を活かした植物園が整備され、四季折々の多様な草花や昆虫などの生きものを身近に観察できます。貴重な都会の森ですね。入園料は、高校生以下無料、一般入場料320円とこちらもリーズナブルです。
東京都庭園美術館と国立科学博物館附属自然教育園は、隣接していて行き来しやすいのですが、残念ながら今回は雷神山の山行の後に予定が入っていて見学できませんでした。
しばらく歩くと、白金台どんぐり児童遊園が見えてきたので、せっかくなので公園内を通っていきます。公園には子供が遊ぶ噴水や水辺があります。この日も暑かったのでお子さんたちが水に浸かって遊んでいました(うらやましい…)。園内にはトイレや水道(水場)もありますし、暑い日は東屋で休憩してもいいですね。と、「マンホールトイレがあります」という看板があり、驚きました。何かと思ったら、災害時に使用できるトイレだそうです。覚えておくといいかもしれません。
公園を抜けると、交通量の少ない静かな道を進んで行きます。途中には、日東坂、明治坂がありました。日東坂は別名を「日糖坂」といい、日本精糖の用地が近くにあったので名づけられたそうです。明治坂は、昔からあった坂ですが、大正時代に明治坂と名づけられたそうです。明治時代には何と呼ばれていたのでしょうか…。ともかく、港区は東京のど真ん中ですが、意外に山だけでなく坂も多く、気にして歩いてみると坂の標識をよく目にします。
住宅街に入り、車が通行するのには細いかなという道をどんどん進んでいくと、いよいよ雷神山児童公園の入り口が見えてきました。見た感じは普通の公園の入り口です。児童公園の入り口からは参道のような道になり、桜並木が続きます。桜の時期には多くの人で賑わうそうです。
桜並木道を抜けて園内に進むと、その中心部には石で出来たモニュメントがあり、その脇には雷神山の由来を示す石碑がありました。「登った」という実感はほぼありませんが、ここが山頂であることを悟りました。木陰の多い山頂には水道やゴミ箱もあり、一息つくには最適です。
それにしても、まさか閑静な住宅街の中に、こんなカッコいい名前の山があるとは。少し休憩をして、山頂の雰囲気を堪能しました。桜が満開の時季の山頂からの景色も見てみたいな。来年の春に、きっとまた来ます。
次回は「山と認めてもいいのではと思う塚」を予定しています。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。