ブロッケン現象にも遭遇!刻々と表情を変える北アルプス登山レポート
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    2023.09.30

    ブロッケン現象にも遭遇!刻々と表情を変える北アルプス登山レポート

    早朝の唐松岳。

    北アルプスで随一とされる絶景を楽しみに、山小屋泊で唐松岳に登った親子3人。「北アルプス随一の絶景を求めて親子3人で唐松岳へ!

    今回はその後編をお届け。

    朝日と雲海とビーナスベルトの3種盛り

    昨日は夕方以降も本降りにはならず、このままなんとか天気がもって、あわよくば満天の星が見えたら……と淡い期待を抱いたものの、そんなにうまくいくわけもなく、空には分厚い雲がかかっていた。

    雷雨の予報が出ていたものの、日が暮れる頃まで雨は降らず。

    翌朝は4時過ぎに起床。山荘の裏手にあるヘリポートに登って、日の出を待つ。ダウンジャケットに短パン一丁という出で立ちの息子は、「……寒い」と言いながら登山用の靴下をぎりぎりまで伸ばしていた。真夏でも山の上は寒い。身をもって知るのもよい経験か。

    ふと後ろを振り返ると、うっすらとビーナスベルトが現れている。あと少しで日の出の時間。空がだいぶ明るくなってきた。気がつけば、朝日を鑑賞するためにだいぶ結構人が集まっている。

    ビーナスベルトの下側に見られる紺色のラインはなんと地球の影。

    5時11分、刻一刻と姿を変える雲海の向こうから太陽が顔を覗かせると、雲海の上に幾筋かの光が走る。静かに興奮している気配が、あちこちから感じられる。毎日当たり前にやってくる朝が、今日ばかりはとても特別なひとときに思えた。

    日の出の瞬間。辺りに響くのはカメラやスマホのシャッター音ぐらい。

    いよいよ今回の旅のメイン、唐松岳山頂へ

    チェックインの際に指定された時間に食堂に向かい、朝食をしっかりいただく。ご飯はありがたくおかわりまで頂戴した。窓の外にはクリアーな山並みが広がっていて、これなら山頂からの眺めもバッチリだろうなあと期待が膨らむ。

    身支度を済ませ、6時半に山頂を目指して出発! しかし、さっきまでの視界良好だった世界はいずこへ……。

    バックパックを山荘に預けて身軽に出発!

    縦走で早出した人や朝日の瞬間に合わせて登った人が多いみたいで、かつ日帰りの人はさすがにまだ着かない合間の時間だったのか、山頂への道は空いていた。おかげで、のんびり自分たちのペースで歩くことができた。

    昨日の道中を思えば、それほど大変な箇所があるわけでもなく、楽しく登れる。まもなく山頂というところまで来ると、ガスが抜けてきた!

    頂上付近でようやく周囲の山々が見えてきた。

    山荘を出てから20分ほど。山頂に着く。360度見渡せる超絶ナイスビュースポット!!

    山頂標識といっしょに登頂を祝して記念撮影。

    完全に雲がなくなったわけではないものの、五竜岳のほか剣岳、立山、鹿島槍ヶ岳、南のほうには富士山までも見ることができた。

    今朝、ご来光を眺めた山荘の裏山からの風景も見ごたえがあって最高だと思ったけれど、そこから100mほど標高が上がるとこんなにも迫力が増すなんて、あのときは思いもしなかった。

    朝日を浴びて陰影がくっきりする五竜岳の壮大さに見惚れる。

    いつかは北アルプスのほかの山に登る機会がやってくるのだろうか、なんてぼんやり考えつつ、見るともなく前方を見ていたら、正面の雲の中に丸い虹が現れた。ん、これはもしや、ブロッケン現象?

    ぼんやり出現した虹色の輪が濃くなったり薄くなったりを繰り返し、完全に消滅したかな、と思うとまた復活する。そのタイミングに合わせて雲に向かってポーズを取り、なんとかカメラに収めようとするも、今度はピントが合わない! 自然現象は撮るのが難しい……。

    ブロッケン現象に気づいて、雲に向かって大きく手を振る。

    まだまだここでのんびり過ごしたいところだが、そろそろ下山しなくては。後ろ髪を引かれながらゆっくり下り始めると、さっきまでの青空が信じられないぐらい、昨日何度も味わった真っ白な世界がふたたび。岩場にいるからだろうか、周囲から色が消えてしまった空間に放り込まれたみたいな気がする。

    そんな中、強烈な存在感を放っていたのが白い光を放つ太陽だった。白さがやたらと際立つ太陽はちょっぴり不気味で、でも目印にもなっていて、ゲームか何かの異世界に迷い込んだ気持ちにさせられた。

    見た感じはホワイトアウトに近いが、気温もちょうどよく風も穏やかで過ごしやすい点が異なる。

    前日見られなかった八方池に向かってまっしぐら

    登山は下りの方が事故が多いため慎重に進むぞ、と肝に銘じつつ、登りよりもすいすい歩けるのでうれしい。

    このままぐんぐん下っていきたいところだが、週末のためか、登ってくる人の列が途切れない。登山道を譲っていると、ときには5分近く待機する箇所もあった。ああ、昨晩山荘に泊まっていた人たちが早く出発したのはこういう事情もあったのかも、とようやく気づく。

    でも、挨拶を交わしたり、「山頂の水の状況ってどんなですか?」と聞かれて知っていることを話したりするのは、山ならではの交流という感じで楽しかった。

    朝8時の時点で山頂付近までたどり着く人が多いことにびっくりする。

    休憩らしい休憩はほぼ取らずに八方池まで下りてきた。途中、ガスっているところもあったけれど、昨日よりは空の色が明るい。これは期待大! しばらく池のほとりで待つことに。

    八方池で待機をする。晴れそうで晴れない……。

    私たちの願いも虚しく、八方池のリフレクションと北アルプスの山々との絶景コラボには出会えなかった。だいぶ粘ったんだけどな……。これはまたいつかの楽しみに。

    池の周りを歩く人たちのリフレクションが楽しめたのでよしとする。

    雲ひとつない晴天の中、山に登れば、もっとたくさんの美しい風景に出会えたのかもしれない。それでも、雲だらけだったからこそ涼しかったし(それでもだいぶ汗はかいたけれど)、刻々と変化するユニークな山の表情に触れることができた。充実した山行だったなあ。

    13歳の息子には唐松岳はどう映ったのか

    途中で弱音を吐くこともなく頑張って登っていた息子の姿を目にして、親としては「頼もしくなったなあ」としみじみ感じた。後日、彼に唐松岳に登った感想を聞いてみたところ、「日常では見られない景色が目の前に広がっているのは面白かった」とのこと。そうだよね、わかるわかる。あと山頂に着いたときには達成感もあったよねー、と話を振ってみたところ……。

    「山頂に着いたときはうれしかったけれど、それよりも稜線を歩くときが心配だった。高所恐怖症だからもし落ちたらって思うとちょっとね。登山道の脇にハイマツがあったおかげで、気持ち的にはだいぶ助かった」

    丸山ケルン後のハイマツ。「ハイマツがなかったら降りていたかも」と話すほど怖かったらしい。

    それ以外に、「旅のハプニングは思い出になるけれど、山のハプニングは事故になる」といった、目の付け所がユニークな話もあった。結構面白がってくれているようでなにより。では、「登山のためにトレーニングしたら、もっとすごいところに行けると思うけど、どう?」と尋ねたところ、「つらい思いをして登っても、見られるのは似たような風景ばかりじゃない?」と……。

    登るのが難しすぎず、素晴らしい眺望が楽しめる山ならまんざらでもないという印象だったので、しばらくは家族で登山を楽しむことができそうだ。さて、次はどこに登ろうか。

    私が書きました!
    旅行作家、カメラマン、ライター
    旅音(たびおと)
    カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
    https://tabioto.com

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