東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第11座目は、東京都品川区にある「御殿山」です。
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第11座目「御殿山」
前回足を運んだ「御殿山」は、明治時代に鉄道の敷設によって元の山から分断され、誕生した山でした。では、その御殿山の母体であり、桜の名所として知られていたという「御殿山」は、現在も存在するのでしょうか。今回は、品川の「城南五山」最後の御殿山を、実際に探し歩きたいと思います。
品川の高級住宅街にあるオアシス!
今回の登山口は、JR品川駅高輪口です。途中までは前回の御殿山と同じ登山ルートをたどりますが、今回は鉄道が通る八ツ山橋を渡らずにそのまま坂を登っていきます。
緩やかな坂道を登っていくと、高くそびえ立つ壁が現れました。この上には「旧岩崎家高輪本邸」があるそうです。イギリス人建築家のジョサイア・コンドルの設計で1908年に完成したそうです。三菱財閥の第4代総帥、岩崎小弥太が晩年、療養生活を送り、1945年12月2日に当地で亡くなられたそうです。現在、一般公開はされておらず、三菱グループの倶楽部として使われているそうです。11,200坪の広大な敷地の周囲は鬱蒼とした森となっており、外部からは建物は見えません。
そんな大きな壁を横に見ながら進んでいき、壁の高さが徐々に低くなるころ、教会がありました。さらに進むと、ビルの間に緑に包まれた遊歩道が見えてきます。この日も35度超えの気温でしたが、多くの人がステキな遊歩道にある木陰のベンチで休んでいました。木々が生み出す日陰は涼しく、歩くのも心地よい道のりです。
どんどん先に進んでいくと、「御殿山庭園」の入り口が現れました。そのまま庭園の階段を下りていきます。「うわぁ、気持ちいい!」、思わず声がこぼれます。ここが品川であることを一瞬忘れました。
実は、御殿山庭園は、江戸時代の桜の名所である御殿山の、昔ながらの面影を今に伝える日本庭園です。「御殿山トラストシティ」内にあり、2,000坪の広々とした敷地には、建築家・磯崎新氏が設計した茶室「有時庵(うじあん)」や東京マリオットホテルのチャペル「ザ・フォレスト」が点在。庭園は「東京マリオットホテル」の南側に位置しています。御殿山庭園は入場無料で、開園時間は7:00〜19:00となっています。
一瞬、当初の目的である御殿山へ行くことを忘れそうになりました。我にかえり、あらためて御殿山を目指します。庭園を抜け、遊歩道に戻ります。なんとなく敷地内の一番高い場所へ導かれるように歩いていました。
やがて、植え込みに御殿山の案内がありました。ここに御殿山があったのは間違いない事実のようです。ふと先を見ると、東京マリオットホテルの入り口が右手に見えました。その手前にレンガがサークル状に埋め込まれている場所がありました。周りを見渡すと、ここが標高が一番高い位置のようです。きっとここが山頂付近なのでしょう。
御殿山の御殿とは、品川宿を見おろす丘陵地に建っていた「品川御殿」と呼ばれる将軍の館に由来するようです。実際、歴代の将軍は、ここで鷹狩りを行ったり、茶会を開催したりしていたそうです。
ペリー来航、品川での鉄道開通と、それに伴う御殿山自体の分断など、品川の歴史の移り変わりを見続けてきた、御殿山。そして、今も残る御殿山庭園は、春にはウメやサクラ、初夏にはアジサイやナシの花、秋にはモミジやイチョウの紅葉、冬にはカンツバキと、四季折々で多様な植物が目を楽しませてくれます。個人的には、やっぱり桜の季節にまた来てみたいな。品川にこんな素晴らしい場所があるなんて!と、何だか得した気分で品川駅に戻るのでした。
次回は「ナイトハイクも楽しい品川のミニ富士」を予定しています。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。