2001年、コンパクトカー用に開発した「センタータンクレイアウト」と呼ばれる新技術を採用してデビューしたのが、ホンダの初代フィット。デビュー翌年の2002年には、それまでトヨタ・カローラが30年以上守り続けていた年間販売台数第1位の座を奪取したほどの人気に。それ以降もホンダのベーシックモデルとして、リーズナブルで使いやすいサイズ感と、居住空間の広さやアイデアを駆使したシートアレンジ、そして燃費の良さという魅力を維持しながら、現行の4世代目モデルまで進化してきました。
そして昨年のマイナーチェンジを機に、スポーティな走りが自慢の「RS」がラインナップされました。新たな魅力の走りとその使い勝手によって、外遊びなどアウトドアフィールドでは、どんな活躍を見せてくれるのでしょうか? 試乗レポートをお届けします。
フィットRSってどんなクルマ?
4代目フィットは昨年10月にマイナーチェンジ。安全運転支援システムである「ホンダセンシング」の機能強化やパワートレーンの変更などが行われています。同時に「ベーシック」を始めとした日常使いに対応するモデル3種やアウトドア仕様の「クロスター」に加えて新たに設定されたのが、ホンダらしいスポーティな味付けを施した「RS」です。
走りにこだわるだけあって「NORMAL」、「ECON」、「SPORT」の3つのドライブモードを選択できるほか、パドルシフトの操作によって4段階で減速Gを変えられ、ドライバーがより積極的な運転を行える点も「RS」ならでは。さらにサスペンションも専用にチューニングされています。
アレンジ多彩な室内空間はキャンプ向き
自動車の構成部品として大きなスペースを占める燃料タンクを床下中央に配置するというホンダの特許技術が、「センタータンクレイアウト」。乗車スペースや荷室の確保に苦労するコンパクトカーにとっては、まさに画期的といってもいい技術です。現在は軽自動車も含めたホンダのコンパクトカーに採用され、優れた空間効率と多彩なシートレイアウトを可能にしています。当然、フィットRSでも変わることのない実用性の高さを実現しています。
まずテールゲートを開けただけで、全長4,080m、全幅1.695m、全高1.540mというコンパクトな外観からは想像できないレベルの広い荷室空間が出現します。フィットの荷室サイズは、5人乗車時で奥行き約670mm、荷室の最大幅が約1,150mm(最小幅は約1,000mm)で「意外に奥行きがあるな」という印象。さらに開口部の高さが約770mmと高めに確保され、開口部の地上高も約610mmと低めに設計されているため積み下ろしも楽。コンパクトカーにありがちな「まぁ、小さいから仕方ないか……」といった諦め感を感じなくても済みそうです。
6:4の分割可倒式のリアシートは、ワンタッチ操作で沈み込むように前にダイブダウンします。わずかに段差はできるのですが、ほとんどフラットな床です。その奥行きは約1,510mm。車中泊するには長さが足りませんが、長物の積載には十分に対応できます。また助手席のシートバックを後方に倒せば、長さ2m程度までの長物でも十分に積み込み可能です。
さらに、「トールモード」というレイアウトも。これはリアシートの座面を跳ね上げるシートアレンジ。センタータンクレイアウトにより、リアシートの下にスペースを確保できたため、荷室よりも高さのあるものを積むときなどに使えます。また、身長が1m程度までの子供なら立ったまま着替えもできます。この優れた室内空間を駆使すれば、ファミリーキャンプ用の荷物を無理なく積むことができるのです。
ホンダ独自のハイブリッドシステムがパワーアップ
居住性や荷室の使い勝手においては、すべてのフィットに共通の魅力です。では「RSグレードならではの魅力」とはなんでしょうか? ホンダにとって「RS」とはスポーティなモデルの象徴的なブランドですが、ガチガチのスポーツモデルには「タイプR」の名が与えられます。一方でRSは「ロードセーリング」の略。その意味は、「あたかも道路を帆走するような、ゆとりある快適な走りを実現する」しているのだとか。古くからのホンダファンにしてみると、RSというネーミングに対するイメージは少々ソフトになった感があります。
「RS」も含め、フィットにはガソリン仕様もありますが、注目は「e:HEV」と呼ばれるモーター駆動優先のハイブリッド仕様です。1.5Lの4気筒エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムは、日常の走行のほとんどを、モーター走行中心の3つのモードを自動的に切り替えながら走ります。
通常走行では、エンジンで発電した電気により、走行用モーターのみで走行するEVモード。次に加速時など、より大きなパワーが必要になると「ハイブリッドモード」に。ここでは状況に応じてエンジンが始動し、発電用モーターを回します。そうして発電した電気と走行用バッテリーに充電された電気の両方を使用してモーターを駆動するため、高出力でパワフルな加速が可能になるのです。それでも、よほどの急加速をしない限り、エンジンの回転は控えめに制御され、実に静かです。ここまではモーターが主役となってタイヤを駆動します。
一方でEVが苦手とする高速道路のクルージングなどでは効率のいいエンジンが主役となり、直接タイヤを駆動させる「エンジンモード」に切り替わります。時にはモーターもアシストに加わりながらクルージングをこなし、燃費を抑えて走ります。少々わかりにくいですが、ホンダのハイブリッドシステムはモーターとエンジンのいいとこ取りを極めた、完成度の高さが特徴です。
このシステムはマイナーチェンジを機にパアワーアップし、最高出力は78kW(106PS)、走行用モーターは90kW(123PS)、さらに発電用モーターも78kW(106PS)。スペックだけを見れば、他のグレードと「RS」は共通ですが、独自の足回りなどが組み合わされることで、スポーティな味わいと上質さを両立した走りはさらに際立っています。
走行モードを駆使して省燃費ドライブを楽しむ
ハイブリッドシステムは自動的に切り替わりますが、ドライバーが乗り味を切り替える走行モードも3種類あり、それぞれ実用的。「SPORT」を選ぶとアクセルのレスポンスが鋭くなり、軽やかに走り出します。かといって走り屋向けというほど強烈でもありません。
次にアクセルなどの反応は少しだけ緩やかになる「NORMAL」。ほどよく上質でスポーティな上手い味つけで、普段使いにはぴったりです。そしてロングドライブなどで活躍する「ECON」モード。ここでも軽快感はそれなりに維持されます。郊外の空いた道や高速道路でおすすめです。
専用のサスペンションの味つけも、しなやかで気持ちのいい仕上がり。「RS」はFWD(前輪駆動)のみの設定ですが、高速走路もワインディングも心地いい接地感。カーブではしなやかに粘りながら、路面のうねりも上手にいなして切れのいい走りを実現します。つまり、上質。コンパクトなボディならではの扱いやすさは、この上質な軽快さによって、さらに輝きます。そして、乗り心地の良さと、全車に標準装備されている安全運転支援システム「ホンダセンシング」が、遊びに没頭したドライバーの疲労を軽減してくれるのです。
一点だけ気になるのは、最低地上高がアウトドア仕様の「クロスター」より短いこと。その差は15mmですが、燃費の良さや走りの気持ちの良さでは「RS」の方が上。この辺が少々迷いどころかもしれません。とはいえ遊び疲れた体には、上質な移動の時間がなによりのご褒美。遠出が多い人にこそ、「RS」は文字通り“フィット”するはずです。
最後に、試乗を通じて燃費が25.7km/lを達成したこともお伝えしておきます。マイナーチェンジ後に試乗したフィットe:HEVの「ベーシック」グレードでは30km/lを超える燃費を経験。さらにアウトドア仕様の「クロスター」の4WDモデルを雪深い道でドライブした際の燃費は20km/lに迫る19.8km/lという実測値でした。優れた燃費性能を経験してきただけに、今回の「RS」は果たしてどんな結果になるのか? その疑問を解決するために試してみたのですが、期待どおりカタログ燃費(27.2km/l)に迫る数値を実現。この好燃費なら、BBQ食材のグレードアップも叶いそうです。
Honda FIT RS
- 全長×全幅×全高=4,080×1,695×1,540mm
- 最小回転半径:5.2m
- 最低地上高:135mm
- 車重:1,210kg
- トランスミッション:CVT
- 駆動方式:FF(前輪駆動)
- エンジン:水冷4気筒DOHC 1,496cc
- 最高出力:78kW(106PS)/6,000-6,400rpm
- 最大トルク:127Nm(13.0kgf・m)/4,500-5,000rpm
- モーター:
- 最高出力:90kW(123PS)/3,500-8,000rpm
- 最大トルク:253Nm/0-3,000rpm
- WLTCモード燃費:27.2km/l
- 価格:¥2,416,700~(RS/税込み)
問い合わせ先: ホンダ
TEL:0120-112010