日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、BMWのコンパクトSUV「 iX1」「X1」を試乗してきました。BMWが誇るスポーティなハンドリングや、卓越したディーゼルハイブリッドはもちろんすばらしいのですが、そんなことを忘れるくらい圧倒的に驚かされたことがありました。「 iX1」「X1」は、人間とクルマの関係性を革新するクルマなのです。
運転支援機能が抜群に使いやすい
クルマの進化を表すのにはあまり使われることのない言葉ですが、BMW「iX1」(EV)と「X1」(ガソリンとディーゼルの各エンジン)に乗ってみて、その運転支援機能の進化の“鮮やかさ”には舌を巻いてしまいました。
運転支援機能そのものは「レベル2+渋滞時ハンズオフ可能」で変わりませんが、使い方つまりインターフェイスが格段に進化したのです。
iX1の主要な運転支援機能はACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKA(レーンキーピングアシスト)です。任意に設定した最高速度の範囲内で車間距離を保ったまま、前を走るクルマに追従して走り続けるのがACC。走行中の車線内の走行を維持し続け、逸脱しそうになるとクルマが判断するとハンドルを回して戻してくれるのがLKAです。
ACCでは前方のクルマをカメラやレーダーなどで認識していることが、LKAではカメラで車線を読み取っていることが、それぞれ前提となります。
そうした、ACCやLKAなどが使用可能な状態にあることをドライバーに伝える表示は各社各モデルまちまちで、ひと目でわかるものもあれば、表示していても小さかったり、特定の画面に切り替えていなかったりしないと表示されなかったりするものもあります。
その優劣の他に、もうひとつインターフェイスの優劣が問われます。ACCとLKAをONにさせる操作方法も各社各モデルまちまちで、使いやすいものもあれば、煩雑で使いにくいものもあるのです。
それが、iX1とX1では、もともとわかりやすかった表示がさらに認識しやすくなり、実行化させる手順も少なくなり、大幅に使いやすくなったのです。
首都高速と湾岸線で試乗してみた
再現してみましょう。
運転支援機能は高速道路もしくは自動車専用道のためのものなので、首都高速の11号線と湾岸線を往復して試してみました。
iX1とX1は最もコンパクトなBMWのSUVで、2023年にフルモデルチェンジされました。バッテリーとモーターで走るEVと、ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車とパワートレインは3種類用意されています。
内外装のデザインも大きく改められました。特に大きく変わったのが、ハンドルの左右スポークです。右側には音楽再生、電話、音声操作、その他の設定スイッチなどが配されています。左側は運転支援機能の操作ボタンとノブなどが並んでいます。これまで存在していたキャンセルやレジュームのボタンがありません。車間距離の設定も最高速度設定ノブと兼用しているのですっきりしています。
走り出して、まず最初にハンドル左側スポークの左にある、1/0と表示された起動ボタンを押します。これでONになります。
前方のクルマを把握し、左右の白い車線も見えているとクルマが判断されると、ACCとLKAが作動します。それはメーターパネル左側の速度計の中心よりやや下側に、クルマとメーター、ハンドルの二つのアイコンが緑色に表示されることでドライバーに伝えられます。
「手放し」の起動方法が斬新
さらに、iX1とX1はいわゆる“レベル2”の運転支援機能ながら、渋滞時にハンドルから手を離すことができます。その機能をBMWでは、「ASSIST PLUS」と呼んでいます。
ASSIST PLUSを実現するには、時速60km以下で走行していて、前方のクルマを把握しており、その他の条件も勘案してクルマが「いま渋滞の中を走っている」と認識する必要があります。
それらが揃うと、二つの緑色アイコンの下に白いアルファベットで「ASSIST PLUS READY」と表示されます。ASSIST PLUSのスタンバイ状態に入ったわけです。
ここからが“鮮やか”なのですが、何かのボタンを押したり、スイッチを入れたりするのではありません。なんと、握っていたハンドルを離すことでONになるのです。
ASSIST PLUSがONになった情報をドライバーがクルマから得て、ドライバーが何かを操作して手を離すのではありません。そもそもASSIST PLUSが実効することイコール=ハンドルから手を離せるわけですから、ひとつの状態とひとつの操作をシームレスにつなげたのです。
そして、ASSIST PLUSが実効していることは、ハンドルの左右スポークの上方にある横長のインジケーターが緑色に点灯することで表現されます。緑色に点灯している間は、渋滞中でACCとLKAを効かせて走っているのでハンドルから手を離しても構わなくなります。
渋滞が解消したり、ACCやLKAなどが効かなくなる状況に陥ると、インジケーターは赤に点灯しますので、ドライバーは再びハンドルを握らなければなりません。
また、手放しは良くてもヨソ見はダメです。メーターパネル上方の中央にある“ドライバー監視カメラ”が逃さずにずっと見ているのです。メーターパネル右下方に「わき見検知。引き続き注意。」というお達しがすぐさま表示されます。視線を前方に向け直せば消えます。
まるで身体のように操作できるクルマ
文章で表すと回りくどくなってしまうかもしれませんが、iX1とX1の運転支援機能はとても使いやすく進化しています。これは運転支援機能を革新するものです。少し大袈裟に言うならば、人間とクルマの関係性をアップデイトするもので、iX1とX1で最も重要な本質がここにあります。
これならば、「何度教わっても使い方が憶えられないので、使わない」とか「メリットがわからないので、使わない」という理由から運転支援機能を使わない人はいなくなるでしょう。
評価として、“BMWならではのスポーティなハンドリング”とか“マイルドハイブリッド化されたディーゼルエンジンの優秀さ”とか“ライバルたちよりも広い車内”などの指摘も間違いではありませんが、最重要ではありません。
一昨年に大型SUVの「iX」から導入され始めた回生ブレーキのアダプティブモードと併せて、安全とドライバーの負担減と省エネに大いに貢献しています。デジタルで司られている技術なので、他のクルマが追い付くのはすぐのことでしょうが、現実的なレベルの運転支援機能において最前衛にあることを確かめることができました。試乗してみることをおすすめします。