秋の星座のみずがめ座は、黄道12星座として知られています。
しかし実際の夜空で「あれがみずがめ座」と指させる人は少ないでしょう。明るい星が少なく、「水瓶を持った青年」には見えにくいため、有名なわりには知られていない星座のひとつです。
みずがめ座は冬至の太陽を宿す重要星座だった
みずがめ座の足元にはフォーマルハウトという1等星が光ります。が、これはみなみのうお座の星です。
みずがめ座の生まれは古く、5000年ほど前のメソポタミア(現在のイラク周辺)時代からありました。その頃のみずがめ座は、冬至の日に太陽が宿る星座として重要視されていたと考えられています。
太陽の天の見かけ上の通り道を黄道と言いますが、5000年ほど前の時代は、太陽がおうし座のあたりにいる時が春分、しし座のあたりにいる時が夏至、さそり座のあたりにいる時が秋分。そして、みずがめ座に近づくと冬至でした。
ちなみに現在では、冬至の日の太陽は、いて座のあたりにいます。
おうし座にはアルデバラン、しし座にはレグルス、さそり座にはアンタレスと、いい目印になる1等星があります。しかし、みずがめ座には…。
実はあったのです、みずがめ座にも。先に紹介したフォーマルハウトです。この時代、フォーマルハウトはみずがめ座の一部でした。黄道星座のひとつであり、冬至の太陽を宿す星座、みずがめ座も堂々1等星を持つ星座だったのです。
いつの間にか南の魚に1等星を取られていた説
古代メソポタミアの時代には、12月の冬至の時期は雨期だったと考えられます。一説には、みずがめ座は雨をつかさどる水の神だったのではないかと言われています。みずがめ座の周辺にうお座や上半身がヤギで下半身が魚のやぎ座、くじら座と、水にまつわる星座が多いのもそのためではないかと言われています。
不思議なのは、みなみのうお座です。メソポタミア時代からあることはあるのですが、その由来が不明です。
みずがめ座を描いたと思われる像は多数ありますが、一説には、みずがめ座の水瓶から流れ出た水の落ちるあたりに、誰かが魚の絵をちょこんと描き足したのではないか。その絵が生き残って、うお座と区別するために「南の魚」と呼ばれるようになったのではないか。それがいつの間にか「みなみのうお座」として独立し、やがて、みずがめ座の1等星だったフォーマルハウトを持っていってしまったのではないか…。
ちなみにフォーマルハウトという名前はアラビア語で「魚の口」という意味です。みなみのうお座の主張が強い名前です。
それにしても不思議な星座です。なぜ、この魚はひっくり返っているのでしょうか。なぜ魚なのに水を飲んでいるのでしょうか?
土星を頼りにみずがめ座を探してみよう
みずがめ座のモデルとされるガニメデ青年はギリシア神話で有名なゼウスの愛人です。瓶から流れ落ちているのは、水ではなくお酒だという説もあります。
さて、1等星をみなみのうお座に持って行かれ、ますます暗く探しにくくなったみずがめ座ではありますが、今年は土星が近くにいるので比較的探しやすいと思います。
目印になるのは、ガニメデ青年が持つ瓶のあたりに三ツ矢の形に並んだ星です。ここからフォーマルハウトに向かって瓶から水かお酒が流れ落ちているところを星でたどるのは難しいと思いますが、想像で補いましょう。
もうひとつは、ガニメデ青年の肩方向に位置する「サダルスウド」と「サダルメリク」という2つの星です。
いずれもアラビア語由来の名前です。アラビア語で「サド」は幸運を示す言葉ですが、サダルスウドは「幸運の中の幸運な星」、サダルメリクは「幸運な王様の星」になり、幸運を詰め込んだような星です。町中ではかなり見つけにくいこれらの星を、根気よく探し当てれば、それは十分、幸運に値するでしょう。東京でも少し町明かりを避ければ見つけられるチャンスはあります。
秋の深まる夜、ぜひ幸運の星を探してみてください。
構成/佐藤恵菜