大地の恵みをいただく“木と鉄の文化”を後世に残すために「FEDECA」がしていること
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    2023.10.27

    大地の恵みをいただく“木と鉄の文化”を後世に残すために「FEDECA」がしていること

    金物のまち、播州三木の老舗「神沢鉄工」が立ち上げた刃物ブランド、それが「FEDECA」だ。
    (「ヒット作連発の「FEDECA」その強さの秘密とは?」記事はこちら

    ショールームの象徴なのが、中央に置かれた一枚板のテーブル。

    北海道の川底に100年以上埋まっていた大木が、護岸工事によって掘り起こされたそうで、木そのものに土の色が染みこみ深い味わいがある。それにしても鍛冶屋から大きくなった神沢鉄工なのに、なぜ木のテーブル?

    炭がなくては鋼を作れない

    そもそもFEDECAの由来は、鉄の元素記号(FE)と木炭のおおもとである炭素(Carbon)。それをつなぐのはイタリア語で「信頼」という意味をもつFEDEであり、フランス語の「〜からの」という意味があるDE

    これらを連ねた際に、英語でも違和感がないためブランド名をFEDECAと定めたという。

    ▲たたら製鉄の炉。日本人にとっての製鉄は、八百万の神々によって作られた炭と砂鉄を使って鋼を作るという神聖な行為で炉には紙垂(しめ縄などに取り付ける白い紙)を巻いている

    ロゴのモチーフは伝統的な「たたら製鉄の炉」。

    木を蒸し焼きにして炭を作り、粘土の炉に千種川周辺でとった砂鉄と先に作っておいた木炭を入れて玉鋼を作る。砂鉄だけでは玉鋼はできないし、逆もまたしかり。

    日本の自然を最大限に生かして作った玉鋼は不純物が少なく、硬いのに曲がらず、折れず、よく切れる。そして玉鋼から作られる日本刀は美しさもピカイチだ。

     神澤社長が繰り返す言葉に「感動、尊敬の歴史を残す」がある。先輩や両親を尊敬し、自分もそうなりたいと願う。感動とは美しさ。みんなで共感することで大きくなっていく。

    FEDECAのロゴには、後世の人に恥じない生き方をし、日本の美しい鉄文化を継承しようという想いが込められている。

    ▲戦時中に埋められていた鉄で作った台

    もうひとつ、ショールームにはおもしろいモノがある。 

    鍛冶職人にとって鉄は命。大戦中は物資不足を補うため、広く住民から金属製品が回収された歴史があるが、これを免れるためいくつかの鉄を土に埋めて隠していた鍛冶職人がいたという。

    ショールームに置かれていた鉄の台は、村の地中深くに埋められていたものだ。

    表面こそ腐食してボコボコしているが、何十年も埋まっていたにも関わらず芯はきれいなもの。これだけでも播州三木の技術力が伝わってくる。 

    技術があればこそ活きる遊び心

    こちらは工場内に残る鍛冶場。

    神澤社長がFEDECAを立ち上げる頃、鍛冶職人に砂鉄をとるところからみっちり仕込まれたそうだ。

    ショールームに飾られたパネルは、鍛冶場の研磨作業を効率化させるために先々代が作った発動機。これが評判となり、現在世界的な農機具メーカーとなった会社が見学に来たほど。

    新しいことに取り組む精神は、代々神澤家のDNAに刻み込まれているのかもしれない。

    ▲工場入り口に据えられた歯車。今はオブジェとして客を出迎える

    この遊び心、やってみよう精神は社員の間にも浸透しており、製品作りに限らずほしいものがあれば職人に頼む。

    ▲なにを作っているのかと思えば、合鴨の小屋!

    ▲吊り戸やトビラの取っ手はもちろん職人の手によるもの

    「だだっ広い工場から、少しずつ仕切りを設けて若い人や女性が働きやすい環境にしています。

    仕切りは滑車を使った吊り戸で、これはイタリアで見た吊り戸がカッコよかったからで、職人に作ってもらいました」(神澤社長)

    ▲神沢鉄工製テープ台(非売品)

    もちろんどれもが一発でキマルわけではなく、たとえば鉄と鋸刃で作ったテープ台なんかは重すぎて少し動かすのが大変なので改良が必要だったとか。

    自然の恵みに触れるガーデン事業も

    三木の鍛冶屋は基本的に兼業農家で、このあたりは酒米「山田錦」の生産地でもある。

    神沢鉄工でも工場近くに通称「ガーデン」という水田を持っており、合鴨農法により米やもち米を育てている。

    ▲鴨の入れ替えシステムが確立したため取り入れた合鴨農法。今後、酒米作りにも取り入れる予定なのだという

    ▲これはもち米(古代米)で、年末は社員一同が集まり餅つき大会が開催される

    古来より鍛冶が盛んな土地柄だったが、約400年前、豊臣秀吉との戦闘により三木地区は焼け野原に。その復興のために大工さんが全国から集まってきた。その後、大工さんたちは全国に散らばり、これが三木=金物のまちと知れ渡るようになった。

    ▲FEDECA担当の杉山さん(左)と御守さん(右)。「ガーデンでできた餅も米も最高においしい」と頬を緩める

    焼け野原となった場所での復興なので工具も食糧も自給自足は当たり前。

    この精神が息づいているのだろう、神沢鉄工ではモノは工場で作り、「ガーデン」で米を作る。
    「ガーデン」で収穫した米は社員に分配し、1/3を備蓄。何事もなければ翌年11月に備蓄した米を社員に分配しているというのだ。地下水をたっぷり吸い上げ、無農薬で育った米は最高のご褒美だ。

    ちなみに「ガーデン」は小さいけれど見どころたっぷり。

    たとえば広場に鎮座する木製のティピィは、二十四方を計測し、ティピィそのものが日時計になるよう設計しているそうで入口はピッタリ西北を向く。

    「これよりも5倍大きなティピィをたてようと思っていて、見事にまっすぐな材木を用意しましたがこれの組み立てはまだまだ先かな」(神澤社長)

    こじゃれた農機具用倉庫を用意するなど、若い世代が農業に興味を持てるようできる範囲で整えてもいる。行政ではできない試みだ。

    ほかにもオープンファクトリーと称して工場を開放してじっくりワークショップを開催、これらも自然を敬う鉄文化普及の一貫だ。

     自然に配慮しつつ近代化を進めて効率よく製品を作る。これも素晴らしい経営方針だが、神沢鉄工ではあえて自然と伝統文化を見つめ直し、その素晴らしさを伝えることに尽力している。

    せっかくFEDECAの製品を手にしたなら、その行く末を見届けてはどうだろう。

    【問】FEDECA  https://www.fedeca.com

    私が書きました!
    ライター
    大森弘恵

    フリーランスのライター、編集者。主なテーマはアウトドア、旅行で、ときどきキャンピングカーや料理の記事を書いています。https://twitter.com/utahiro7

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