彫刻のような天然の造形美!見る者を圧倒する、神奈川県・湯河原「六方の滝」を目指して
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    2023.10.27

    彫刻のような天然の造形美!見る者を圧倒する、神奈川県・湯河原「六方の滝」を目指して

    見事な柱状節理の岩壁が拝める六方の滝。

    暑さが過ぎ去った今がまさにハイキングに絶好の季節!

    2023年の夏は暑かった。しかも長かった。

    9月に入れば少しは過ごしやすくなるだろうと思っていたのに、一向に気温が下がらない。涼しくなったら近場ハイキングを再開するぞ! と意気込んでいたものの、30度超えの日が長引いたため、いつまでも出かけられずにいた。

    今年もあと2カ月で終わり、というあたりからようやく外歩きにぴったりの気候が戻ってきて、いそいそとハイキングの計画を練る。

    今回目指すのは、神奈川県湯河原町の六方の滝。山道を2時間半ほど進んだ先にある、落差20mの柱状節理のダイナミックな瀑布なのだとか。

    夏から秋に移り変わる気配を肌で感じながらスタート

    JR湯河原駅からバスに揺られて15分ほど。スタート地点の幕山公園に着いた。

    1日に4~5本しかない幕山公園行きのバス。時刻表の確認はマスト。

    登山アプリを立ち上げて記録を開始。今回は念のため2つのアプリを併用することに。オフラインでも地図を表示できるようにしたし、登山届もアプリ経由で提出済みだし、捜索救助サービスの発信機だってバックパックに忍ばせてある。準備万端。さあ行くぞ!

    目の前にそびえるのが標高626mの幕山。今回は登らないがいつか機会があればぜひ。

    公園管理棟の脇にある階段を上ったあとは、しばらく舗装路が続く。ときどき土の道に変わるけれど、平坦で歩きやすい。ほがらかな秋晴れの日のハイキング、最高じゃないか。

    風に揺れるすすきが見頃を迎えるのはもう少し先か。

    バスを降りてから約20分。「山の神」と掲げられた小さな鳥居が見えてきた。江戸時代末期、山仕事の安全を願って祀られたものだとか。

    岩をくり抜いて祠にしている。手入れが行き届いた素敵な場所だった。

    道の脇にあるイノシシ出没とかクマ注意のお知らせに内心ビビりながらも、快調に歩を進める。大石ヶ平の道標を過ぎて、しばらく行った先に見えてきたのは青いゲート。立入禁止の札が下がっているが、進路はゲートの右側にある。ここからが六方の滝への本格スタートだ。

    よく見ると人が通った跡がある。

    ピンクテープを手がかりに道なき道を進む

    踏み跡をたどりながら、なるべくゆっくり慎重に。そこそこ道幅はあるし、そんなにアップダウンもないけれど、大きめの枝が落ちているなど少々荒れていて歩きづらい。というのも、ここは整備された山道ではないからだ。

    わずかながら渡渉ポイントもある。足場の岩が不安定なので注意。

    先ほど通ってきた公園管理棟や大石ヶ平のあたりは、幕山ハイキングコースとして地図も公開されているが、六方の滝方面については触れられていない。出かける前、役場に問い合わせをしてみたときにも、「立入禁止ではありませんが……」との反応。大人の事情があるのだと察した私たちは、ルートの下調べとそれなりの装備、そして遭難対策をして出かけようということに決めたのだ。

    そして、いつも以上にこまめに登山アプリのGPSで現在地をチェックして、ルートを確認しながら進んでいた……つもりだった。

    藪こぎに次ぐ藪こぎで、先人の足跡はもはやわからない。すぐさまGPSをチェック。方向は合っている。目の前の枝にはピンクテープも結んである。でも、本当にこんな道を進むの!?

    藪こぎでワイルド感が一気に増す。

    奮闘すること約15分。大石ヶ平への道標と、林道と思われる砂利道のところに出てきた。あー、よかった!

    すかさず登山アプリで通ってきたルートを確認。通る予定にしていた道から大きく外れていたわけではなかった。

    大石ヶ平1400mと書いてある、まさにその指し示すほうから歩いてきたはずなのだが……。

    水の音を聞きながら、ゴールの滝を目指してあと一歩

    このあと、先人たちが山行記録に注意書きを残してくれていた「ロープをまたいで山道に入る」ポイントを無事通過すれば、道迷いの心配はぐっと減る、はず。

    先ほどまでのワイルドな道とは打って変わって歩きやすく、下のほうからは新崎川の轟音も聞こえてきた。もうそろそろ到着か? と淡い期待を抱いて地図を見るも、まだ先だった……。

    気合いを入れ直して、スリリングな白銀沢の丸太橋を渡り、倒木を乗り越える。

    しっとりと湿っている倒木をよいこらしょとまたぐ。

    土肥大杉跡と白銀林道を示す道標を横切ったら、あと少し! でも、ここに来て、本日最大の難所が待ち構えていた。

    苔に覆われた岩場を慎重に登っていく。

    苔むした大きな岩は滑りやすくて肝を冷やしたが、三点支持でなんとか乗り切った。一息つく間もなく渡渉。見た感じはそれほど難しそうではないのに、一歩踏み出したところの石がぐらつくトラップがあった。なんとか踏ん張り川に落ちずに渡りきれて、ホッ。

    水深が浅いとはいえ川に落ちて濡れるのは避けたい。

    すると、ふいに滝が現れた。やっと着いた……と思いそうになるが、これは六方の滝の手前にある紫音の滝。もし仮に、ここが最終目的地だとしても喜んでしまいそうなほど、優美な水の流れも、滝を囲む周囲のロケーションも素晴らしい、穏やかな空間だった。

    滝口に差し込む光がスポットライトのようでより美しさが際立っていた。

    ここで長時間見とれているわけにはいかない。紫音の滝を後にして、無名の滝と呼ばれている細い筋の滝を横切ったら、滝の左岸(滝を正面に見て右側)にロープが垂れ下がっているのを発見。

    足元が悪く、斜度もそこそこだったがロープのおかげで安全に登れた。

    足元を注意深く確認しながら、ロープを伝って上へ上へと無心で登る。滝の音がだんだん近づいてくるのがわかる。そして、いくつもの黒い岩の柱が密集した上を勢いよく流れる水が目に飛び込んできた。六方の滝に到着だ!

    着いた瞬間、思わずガッツポーズ。

    突き上げるように太陽の光を浴びる滝面、キラキラと輝く水しぶき。そして、ときおり現れる虹。水が織りなすさまざまな表情と、計算し尽くされているような柱状節理の造形美を前にして、言葉を失う。

    自然が作り上げたパイプオルガンのような造形に酔いしれる。

    今から約30万年前、箱根火山の溶岩が地表に噴出して冷える際に収縮してこのような規則的な割れ目、つまり柱状節理が生まれたという。ちなみに六角形の断面になることが多い柱状節理だが、六方の滝がある幕山では四角形のものも多く見られるそうだ。

    撮影が楽しくて、正面から、脇から、とさまざまな場所から撮っているうちにあっという間に1時間が経過。もっと腰を据えてじっくりカメラを構えていたいところだが、ここまでやってくるのに2時間半を要していることを思うと、そろそろ……。今日ほど後ろ髪を引かれるという言葉がしっくり来た日はないと思う。

    圧倒される風景に出会えて大満足だった六方の滝へのハイキング。しかし、万が一何かあったとしても、携帯電話の電波は通じない。かつて訪れた人たちの山行記録を予習し、非常食や防寒具を持参し、GPSでこまめに現在地を確認して進むなど、普段以上に慎重な行動を心がけたことは、最後に記しておきたい。

    私が書きました!
    旅行作家、カメラマン、ライター
    旅音(たびおと)
    カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
    https://tabioto.com

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