森のなかでみつかる植物には、人々の暮らしに大きな役割を果たすものが少なくない。今回は、おやつや優れた実用品にも利用される、アケビを解説。
アケビ
学名:Akebia quinata
アケビ科のつる性落葉低木。本州から九州にかけての山野で見られる。葉は長楕円形の小葉が5枚、手のひら状に付く複葉。秋に長楕円形で淡紫色の実がなり、熟すと裂け、果肉は甘く、食べられる。木部を漢方で木通といい、薬用。近縁種にミツバアケビ・ゴヨウアケビがある。
二百十日は大風の来る季節で、子供たちには何だかわくわくする不思議な季節なのだ。
さわやかな9月1日の朝、谷川の岸にある小さな小学校に、髪の毛の赤い不思議な子が転校してくる。宮澤賢治の名作『風の又三郎』のオープニングシーンだ。
昔から二百十日(9月1日ころ)は大風の来る季節で、果樹園のある農家の人々をやきもきさせるが、子供たちには何だかわくわくする不思議な季節なのだ。
丈夫なつるで他の木などに巻き付いてのびるアケビの葉は、手のひら状複葉で、小葉は5枚。4~5月ころには淡い紫色の花を付けるが、花には花弁がなく3枚の萼片がある。
雄花には花粉袋しかないが、雌花には3~9個のメシベがあり、メシベの先はねばっこい。このメシベがそれぞれ実に育つのだが、全部が実に育つとはかぎらない。
アケビの実は6~8㎝で、ミツバアケビの実は10~12㎝と大きい。実は熟れると果皮が青紫色になり、パックリと裂ける。実の中のタネを包むゼリー状の部分を食べるが、甘い汁を吸ったらタネは吐き出す。
子供たちにはうれしいおやつで、いつもは友達と行く森へ、このシーズンだけはこっそりとひとりで行くことが多かった。自分だけが知る秘密のアケビの実が裂けるのを、今日か明日かと待ちかねているのだ。
子供たちはゼリー状の甘い部分だけを食べるが、大人は青紫色の果皮をバターで煎ったり甘味噌を詰めて焼いたりして食べる。
アケビのつるはとても丈夫で、かごなどを編むのに利用するが、私はこのかご編みが大好きだ。きれいなかごを作るには、節の少ないまっすぐなつるがいいのだが、そんなつるはなかなか集まらない。
新しい苗を育てるために、私はあっちこっちの森へタネを吐き出して歩いている。
花粉袋だけのアケビの雄花。
雌花のねばっこい柱頭がやがて実に育つ。
タネを包むゼリー状の甘い部分を食べる。
つるで編んだかご。いい材料集めが大変だ。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
(BE-PAL 2023年11月号より)