みなさんこんにちは、セーリングヨットSANTANAで世界一周中、前田家の麻裕です。
さて、早いものでこの連載も早1年以上。いつも支えてくださっているビーパルの読者の皆様、本当にありがとうございます。
さらに、嬉しいことに前田家のSNSに「いつかヨット旅をしてみたい」とメッセージをくださる方も増えてきました。
そこで、「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、その「いつか」を最速で叶える方法はないものかなと考えていたところ、意外にもすんなりと最適解が見つかってしまいました。
若い頃はバックパックを背負ってアジアを放浪していた夫も、「そんな方法があったのか!」「若い時に知っていたら絶対やっていたのに!」と目から鱗の旅の方法……。
それは、『オーシャンヒッチハイカー』になる、ということ。
ヒッチハイクといえば、道路脇で親指を立てながら行き先の書かれたプレートを掲げている、バックパック旅ではお馴染みの移動手段ですが、実は海の上でもこの方法で旅をしている人たちがいる(しかも、結構たくさんいる!)ということに気がついたのは、各地のマリーナの掲示板でクルー(乗組員)希望の張り紙を目にしてからでした。
クルーとして働きながら旅をする
ただ、この時点では「そんなに上手くクルーを募集しているオーナーって見つかるものかな?」と半信半疑でした。
しかし、実際にこの方法で旅を成功させているカップルに出会い、これは最高最速のヨット旅実現方法だと確信に変わりました。
これは日本の方にも早くお伝えしなければ…と勝手な使命感に駆られ、鼻息荒くこの記事を書いています。
まずは、オーシャンヒッチハイクとは、簡単にまとめると、クルー(乗組員)として船上で労働力を提供する代わりに、目的地までの旅を一緒に楽しむというものです。どちらかと言うと、陸のヒッチハイクよりも、WWOOFに近い形かもしれません。
*WWOOF(World Wide Opportunities on Organic Farms:有機栽培農家で労働力や知識、経験を提供する代わりに、食事や宿泊場所が提供される仕組み)
人生の財産になる旅
ヨットで『旅をする』ことが目的であれば、ヒッチハイカーに挑戦してみることは、ヨットオーナーになるよりも遥かにメリットが多いと感じます。
というのも、一般的なオーナーの場合、船上で労働しなければならないのはクルーと同じで、それに加え、故障によるリスクや安全に停泊できる場所探しなど、胃がキリキリするほどの悩みが多いのも事実です。
その点ヒッチハイカーであれば、余計なストレスを抱え込むことなく、気楽に自由度の高い旅が楽しめます。
また、オーナーになってしまうと、自分の船には詳しくなるけど、意外と他の船のことはよく知らなかったりします。だからと言って、個人でヨットを次々と乗り換えて…なーんていうことは夢のまた夢。セレブでもない限り難しい。
ヒッチハイカーであれば様々なヨットでの生活を経験できる上に、雑誌で眺めていた憧れの名作ヨットに乗って旅ができたり、というチャンスもあります。
挙げだしたらキリがないのですが、ヨットを乗り継ぎ、異なる年齢や国籍、さまざまなバックグラウンドを持つ人達と海の上で濃厚な時間を過ごす、これだけでも十分、人生の財産になる旅になりそうな気がしてきませんか!?
ヨットオーナーから別の仕事までもらえた達人カップル
さあ、気になり出したら止まらない、オーシャンヒッチハイカーという存在。
ヨーロッパの若者の間では結構盛んな旅の方法らしいのですが、日本ではあまり馴染みがありませんよね。
少なくとも私は、その存在を長い間全く知りませんでした。
そこで今回は、オーシャンヒッチハイクのプロとも言えるカップルに、旅の流れやすぐに実践できる成功の秘訣を聞いてきました。
これを読んでいただければ、明日からでも旅をスタートすることができるかも!
それが上の写真のおふたり。フランシスは合計12艇、シャンティはパナマから途中参加で10艇のヨットを乗り継ぎ、カナダからバヌアツ共和国までやってきました。
この後、現在クルーをしているヨットで、今回の旅の目的地でもあるニュージーランドまで行く予定。
しかも、ヨットオーナーがニュージーランドで自営している会社から仕事までもらえて、しばらくの間働きながら暮らすことになったのだとか。何が起こるか分からない、まさに筋書きのない旅を楽しんでいるのでした。
では最初に、クルー先のヨットを見つけるための場所ですが、これはもちろん旅をしてみたいエリア、ということになると思います。
世界一周旅が目的であれば、一番手っ取り早いのは、まさにその目的に向かって出航しようとしているヨットを見つけること!
なのですが、どうやら同じ考えを持つ旅人は多いようで、西回りの大西洋横断前のヨットの多くが集うイギリスの海外領土ジブラルタルや北西アフリカの西沖合にあるカーボ・ベルデでは、クルー先を巡る競争率がとても高くなっているのだとか。
また、WORLD ARCと呼ばれる、世界的なヨット世界一周ラリー(楽しむことを目的に緩く順位を競うレース)でも毎年多くのヒッチハイカーが活躍しているそうですが、こちらもすでに広く知られている競争率は高め。
その他には、私も憧れているクルージングの聖地カリブ海にもクルー希望者が殺到しているようで、初心者には少々ハードルが高そうです。
もちろんチャンスはゼロではないので、挑戦してみるのはアリです!
ただ、どこか成功率の高い穴場も知っておきたいところですよね…。
おすすめは…フレンチポリネシア!
そこで、シャンティ&フランシスに聞いてみたところ、タヒチやボラボラ島など美しい島々を含む、南太平洋のフレンチポリネシアがおすすめとのこと。
フレンチポリネシアと言えば、カリブ海にも負けない人気を誇るクルージングエリア。
そして、船でしか訪れることができない場所も多いため、ヨット旅の利点を存分に発揮できる場所でもあります。
それにも関わらず、ヨーロッパから地理的に遠いため、ここではライバルはほとんどおらず、簡単にクルー先を見つけることができたのだとか。
日本からタヒチは直行便も出ていてアクセスも悪くないため、これは日本人ヒッチハイカーにとって狙い目と言えるかもしれません。
フランスの海外領土のため、フランス語ができれば最強ですが、世界中からヨットが集まる場所なので、英語圏のオーナーを見つけることは難しくないと思います(クルージングセーラーの多くは、欧米圏、ニュージーランド、オーストラリア出身のため、日常会話程度の英語やフランス語、その他の外国語ができると安心です)。
もう一つ、ヨット旅ならではの注意点として、各エリアには天候の関係で安全に旅を楽しめるシーズンが決まっており、クルー先を見つけるにはタイミングが非常に大切になってきます。
フレンチポリネシアであれば、シーズンは4月~10月など、詳しくは、『Sailing Seasons Around the World』で検索していただくと簡単に情報を得ることができます。
ダメ元で聞いてみるのも手
行きたいクルージングエリアが決まったら、次にいよいよクルー先のヨット探しです。
二人の他多くのヒッチハイカーは、主にFacebookとfindacrew.netというサイトや、マリーナの掲示板を利用しているそうですが、港で、「〇〇まで行きませんか?よかったら乗せてください」と直接話をしてみるのも意外と成功率が高いらしい。
まずは気軽にオンラインで検索、行動派の方は直接足を運んでみるのも良さそうです。
また、クルージングコミュニティは狭い世界なので、回数を重ねてくると紹介で見つかることも増えてくるのだとか。
クルー先探しが大変なのは最初だけで段々と楽になっていく、というのは希望が持てますね。
私達はヒッチハイカーではありませんが、とある島の住民に「隣の島まで行くなら乗せてって」と頼まれたことがありました。
短時間だし数人なら大丈夫かな…と思って聞いてみたら、なんと地元のサッカーチーム計10人でした(笑)。
さすがに多すぎて無理でしたが、ダメもとで聞いてみるというのはありだと思いました。
まるで就職活動?クルーに必要な要素とは
船上での労働が対価となるヒッチハイカーには、有給クルーほどの経験や技術を要求されないという点も幅広い層におすすめできるポイント。
とは言え、ゲストではなくあくまでクルーなので、事前に基本的な操船技術を身につけておくと自信にも繋がり安心だと思います。
シャンティは元々セーリングほぼ未経験でしたが、ものすごい速さで技術をマスターしていて、短時間で私なんかよりもずっと使えるセーラーになっていましたが、他のヒッチハイカーの体験談も参照したところ、未経験の人は数日間のセーリングコースを終了してからクルー先探しに挑むことが多いようです。
さらに、セーリング技術に加え、料理上手やお掃除の達人、楽器が弾けるなどの特技もメリットになることもあるのだとか。
読者のみなさんは「指圧マッサージできます」「ヨガや瞑想法を指導できます」など、キラリと光る特技をお持ちではありませんか?
個人的には、『海の上で最高の寿司を握れます!』という売り文句は、釣り好きも多いクルージングセーラーの心に刺さりそうな気がします。
ベビーシッターにも需要があるようなので、子供が好きな方はファミリークルーザーに絞って探してみるのも一案です。
また、最近は、動画投稿やSNSに力を入れているクルーザーも多いので、動画編集やカメラが得意な人も重宝されそうです。
因みにシャンティは料理上手、フランシスの売りはセーリングと元大工の技術、楽器の演奏など。
クルー先探しは、なんだか就職活動のようでもあるし、自分の売りだったりやりたいことをを見つめ直す機会になったりと、意外と学びが多い、旅の重要な過程の一つではないかと感じます。
人の懐に入る達人をめざす
理想の旅の形も、船の上で生かせる自分の強みも見えてきた、では最終的にはどうやって「選ばれるクルー」になれるのか…。
二人の答えは、『とにかく短時間でいかに自分たちは使えるクルーかアピールするわけだけど、最後は相性だと思う。』とのこと。
薄々、そんな気はしていました。狭い船内で長時間過ごすことになるので、技術面以上にこの人だったら、「信頼できて、楽しい時間を過ごせそうだな」と思ってもらえることが大事だろうと。実際にシャンティとフランシスと過ごしてみて、「この二人だったら一緒に旅をしてみたいなあ」と短時間にも関わらずすっかり心惹かれてしまったのです。オーシャンヒッチハイクの達人は、人の懐に入る達人、『溶け込み力』の高い人達だと感じました。
これはもちろん、ヒッチハイカー側にも言えることで、『気持ちよく過ごせそうなヨット、オーナーを探すこと』が成功の秘訣だと思います。
そして、晴れてクルーとなったら、後は思い思いのヨット旅を楽しむだけです!
旅人、それぞれのストーリー
現在も船旅を大いに満喫している二人ですが、この旅の途中には少し船から離れたくなって、現地の農園で働いてリフレッシュしてきたこともあるのだそう。
船旅にこだわらず、陸旅とミックスさせたり、必要であれば旅の資金を稼ぎながらながら進むのは賢い方法ですよね。
二人の旅のストーリーを聞いていると、計画をしっかり立てて臨む旅はもちろん、時には行き当たりばったりの出会いを楽しむのもまたよし、ヒッチハイク旅にはそんな面白さが溢れているな、と思えてきました。
さて、今後の二人にはどんな冒険が待っているのでしょうか。この連載で続編が登場する日が来るかも?
この二人の行動力ならどこまでもストーリーを積み重ねていけそうな気がします。
最強最安の世界一周旅プランかも
ヨット旅一番のハードルは、「はじめること」だと常々感じています。
その一つに、外洋にも耐えられる丈夫なヨットを手に入れる、という一大ミッションがあります。
多くのクルージングセーラーはこのために貴重な時間とお金を多く費やしており、ヨット探しに時間がかかりすぎて、実際に旅に出ることができなくなってしまった…と言う話も珍しくはありません。
オーシャンヒッチハイクの素晴らしい点は、「ヨット旅をするのにそもそも自分のヨットは必要ない」という発想の転換にあると思います。
必要なのは、バックパック一つと少々の行動力。
陸のヒッチハイクで大陸を横断して、海をオーシャンヒッチハイクで渡ることができれば、旅の可能性は無限に広がります。
これはもしかしたら最高最速のヨット旅実現方法である上に、最強最安の世界一周旅プランかもしれません。
万人受けする旅の方法ではありませんが、旅が好き、冒険が好き!というバイタリティ溢れる方、是非チャレンジしてみてください!!
最後に、以前の記事で登場したカナダ人セーラーのSさんは、「若い女性限定でクルーを募集したのに、おじさんばかり応募してくる!」と憤慨していました。
そもそも若い女性限定にしているところが怪しさMAXだと思うのですが!?
Sさんは良い人ですが、クルーに関してはロマンスを求めている感が否めませんでした(笑)。
こんなオーナーは稀だと信じていますが、楽しいヨット生活のためにも用心に越したことはありません。ご参考までに。
それでは、また次回。
4歳の娘と6歳の息子を連れて、セーリングヨットSANTANAで放浪中の4人家族。2022年3月、カリフォルニアを出航。寄り道をしながらゆっくりと世界一周を目指します。海の上でサステナブルな暮らしを模索中。
Instagram:@svsantanajp
YouTube:https://www.youtube.com/@sailingsantana