コアとのキャンプで楽しみにしていることのひとつに、“手仕事をする時間”があります。もともと犬は食後しばらくは安静にしていないと胃捻転(注1)を起こす危険性があるため、キャンプでも食後2〜3時間ほどはコアとまったりと過ごしていたのですが、いつの間にかその時間に、刺繍やスケッチ、編み物などの手仕事をするのが恒例になりました。
注1)胃捻転/拡張した胃がねじれる症状。早急に対処しないと命を落としてしまいます。大型犬に多く、原因はさまざまですが、食後の運動も原因のひとつと言われています。
空気の美味しい自然の中で行う手仕事は、リラックスしつつも集中できて、子供の頃に夢中になった赤毛のアンや若草物語の世界にいるような気分に浸れます。
少し寒いけれど、空いて静かになった11月半ばの自然公園のキャンプエリア。コアのお散歩を済ませてからテントを張り、熱いお茶を淹れて、久しぶりの木彫りを楽しむことにしました。
みなさんも、愛犬とキャンプに来てみたけれど、天候が悪くて予定した遊びができない日や、キャンプサイドでまったり過ごしたいときなどに、木彫りにチャレンジしてみてはいかがでしょう。
木彫りとの出会い
初めて木彫りに魅力を感じたのは、2014年5月に友人に誘われて訪れた東京・蔵前の小さなギャラリー「ギャラリーキッサ」でのこと。開催されていたのが「いぬねこ島へようこそ!彫刻家 はしもとみお展」で、展示されていた木彫りの動物たちのすべてが、脈を持って動き出しそうなくらい生命力に溢れていることに感動。
その場で、はしもとみおさんに、当時一緒に暮らしていた愛犬 Rookieの彫刻をオーダーしました。その木彫りの Rookie は今でも私の宝物になっています。
その年の秋に、はしもとみおさんの木彫りのワークショップに初参加しました。福笑いのような犬が彫りあがりましたが、瞳を入れた瞬間に愛犬に変わっていくことに感動しました。その後も、みおさんが関東圏でワークショップを開くたびに、足しげく通いました。
初めてみよう!キャンプで使う木彫りのスプーン
早朝の森のお散歩を存分に楽しんだコアは、朝食を食べた後に胃捻転防止を兼ねてお休みタイム。 私はこの時間にキャンプでも使える、コアをモチーフにした木彫りのスプーンを彫ることにしました。
制作時間は人によってまちまちですが、私の場合は3〜4時間ほどです。ここからは、その制作工程を、はしもとみおさんのアドバイスを添えた写真とともに紹介します。
用意するもの
- 木材 (カトラリーの場合、みおさんおすすめの素材はクルミ、サクラ)
- 彫刻刀
- のこぎり
- 鉛筆
- アクリル 絵の具
- ニス
- オイルフィニッシュ(食器用)
- 筆
- 水入れ
※刃物の取り扱いには気をつけて、ケガ防止のために防刃手袋があるとベストです。
1.木材に下描き
私にはサクラは硬すぎたので、クルミで彫ることにしました。 木目が縦に走っている向きとスプーンの柄の部分の向きを合わせて下描きします。
2.木取り
余分な部分をのこぎりを使って切り落としていきます。 木を削りだすと、何とも言えない良い香りに包まれてリラックス効果もあります。
3.粗取り
正面と側面のいらない部分を彫刻刀で落としていきます。 私はのこぎりだけでなくブッシュクラフトナイフも使いました。
4.面取り
今までは正面、側面と言った2面でしたが、ここからは3 D のアウトラインをイメージして面を作ります。スプーンのすくう部分もナイフなどで形にしていきますが、内側は彫刻刀の丸刀を使って丸みを整えます。
顔の部分は鼻がいちばん突き出ていて、顎はグッと凹んでいることを意識して、立体的に彫ります。
5.彫りの仕上げ
彫りの仕上げは、モデルをよく見ながら!顔の部分はより丁寧に。目も立体的に彫って仕上げます。
6. 彩色
モデルをよく見て、犬の顔の部分をアクリル絵の具で彩色します。スプーンのすくう部分と柄は食器用のオイルフィニッシュ、アクリル絵具で彩色した顔の部分はニスを塗って仕上げます。
7. 世界にひとつだけのスプーンが完成!
愛犬をモチーフにしたスプーンで食べるキャンプご飯は、最高に美味しいにきまっています。カトラリーだけでなく、お皿を彫ってみても素敵ですね。
そして、彫っている最中に出た木屑は、焚火で燃やしてもいいのですが、カトラリーにおすすめの木材であるクルミやサクラは燻製のチップに利用することができます。貯めておいて、燻製作りに有効活用するのもいいでしょう。
木彫りのワークショップに参加してみませんか!
11月3日、ギャラリーキッサで開催されたはしもとみおさんのワークショップに、コアと一緒に参加してきました。今回のテーマは“コップのふちねこ”でしたが、私はアレンジして“コップのふちコア”に挑戦しました。
「コップのふちねこ」は難易度が高くて、参加者のみなさんも全員必死でした。 みおさんからは「告知のときに、難易度マークみたいのをつければよかった。汗だくになります、とか(笑)」との発言も飛び出したほどでした。
でも、ワークショップに参加すると、自分ひとりで彫っていると気づかないクセなどについて、アドバイスをもらうことがあります。そこから、ぐっと木彫りが楽しくなります。
はしもとみおさんだけでなく、全国各地で、いろいろな彫刻作家さんたちがワークショップを開催しています。 彫刻に興味をもったら、ぜひ参加してみてください!
はしもとみおさんを紹介します!
はしもとみおさんは、子供の頃は獣医師を目指していましたが、15歳の時に、阪神・淡路大震災で、それまで聞こえていた動物たちの声が聞こえなくなるという体験をして、「もう一度あの子に触れたい、 抱きしめたい」という願いをカタチにしたいと、彫刻家を目指したといいます。
そんなはしもとみおさんは、先代犬 Rookie を喪ったわたしの「Rookie に触りたい」という願いをカタチにしてくれました。 コアと私も災害救助犬の活動を通して、誰かの願いをかなえられたらと思います。
木彫りを知りたい方には、雷鳥社さんから出版されている「木彫りどうぶつ手習い帖」(手習い帖ショップ)がおすすめです。
みおさんの言っていたことで心に残っていることばがあります。「動物は年を重ねるごとに弱く老いていく。でも樹木は年を重ねるほどに繁殖力を増して大きく成長していく。私たち動物ものんびりゆっくり成長したらいい」
そんな木に触れながら、木と遊んでみませんか?