「輪行」はサイクリングと鉄道の旅が同時に楽しめる素敵なアクティビティだ
自転車が趣味ではない人も「輪行(りんこう)」という言葉は聞いたことがあるのではないだろうか?自転車を分解して輪行袋に入れ、電車などの公共交通機関を利用して移動することだ。
輪行を利用することによって、自宅から遠く離れた場所をサイクリングのスタート地点に設定できるし、帰りは電車で帰ってくることができる。クルマに積んで行かないので、クルマを置いた駐車場に戻る手間も必要ないし、もちろん運転免許を持っていなくてもいい。
また、プランしたコースのスタートとゴールを同じにしなくていいのも魅力だ。千葉から走り出して神奈川で終えてもいいし、自宅から走れるだけ走って、帰路だけ輪行して帰ってくるのも楽しい。
鉄道などの公共交通機関を使えば、走り終わっての一杯を楽しんだり、暖かく眠りながら帰ってくることもできてしまう。そして、サイクリングと鉄道の旅が同時に楽しめる点も素敵だと、僕は思う。
自転車を分解することを面倒に思う人もいるかもしれないけれど、やってみればそれほど難しいことはなく、ホイールの脱着という点でいえば、自転車遊びの基本、パンク修理と大差ない。追加で必要な道具は輪行袋だけだ。
ホイールの脱着は、クイックレリーズ式なら容易だが、近年はスルーアクスル仕様の自転車が多くなってきた。このあたりの詳しいことは拙著「輪行で行こう!」(記事の最後を参照)を参考にしてほしい。この本では車輪の脱着にページを多く割いている。いざ本番になってドギマギしないように、自宅で何回か練習してから駅に向かおう。
「輪行で行こう!」では8本のルートを紹介!しまなみ街道とゆめしま街道では…
「輪行で行こう!」本の執筆の話が舞い込んできたとき、版元(天夢人)が「旅と鉄道」という雑誌を出しているところだと知って僕は狂喜乱舞した。輪行は多くの場合、鉄道を利用するので、サイクリングと鉄道旅行は切っても切れない関係なのだ。「旅と鉄道」もときどき読んでいる。
そこで僕は8本のツーリングを走るにあたって、それぞれ違う方面への鉄道に乗って出かけようと企んだ。1箇所は飛行機でジャンプしようと考えて、それは北海道に決めた。他は東北新幹線や常磐線、小田急線や青梅線などを選んだ。
西へ向かう旅で乗ったのは「サンライズ出雲」。東京から中国・四国地方に向かう、現時点で国内唯一の寝台特急だ。そして向かった先はしまなみ海道。言わずと知れた日本屈指のサイクリングルートだが、僕の旅は鉄道に乗り込むところから始まるのがミソなのだ。
自転車を輪行袋に納めると、それを列車のどこかに置かなきゃいけない。山手線のようなロングシートや、東海道本線のようなボックスシートなら、基本的には乗降口の左右の隙間や、先頭車両、最後尾車両の端に置くのがセオリーで、東海道新幹線なら特大荷物スペースつき座席という手がある。
しかし寝台特急ともなると車内のスペースをやりくりして個室や通路を設けているので、輪行袋をどこに置くか、乗り込むまでドキドキしてしまった。結果はあっさり、デッキの手すりに輪行袋を結わえて、僕はのびのびシートに転がり込んだ。
サンライズ出雲を岡山で乗り換え、尾道で下車。しまなみ海道はここから向島、因島、生口島と橋を渡り、広島県から愛媛県へと自転車で海を渡っていける。コースをそのままたどれば70キロ少々で今治まで着いてしまうのだが、僕はそこにアクセントをつけてみた。因島から弓削島へ、「ゆめしま海道」へと足を延ばしたのだ。
因島の南端、家老渡港から船に乗り、弓削島に降り立つと、その静けさに息を呑んだ。カフェやサイクルオアシスの充実しているしまなみ海道も楽しく走れるが、メインルートを外れてゆめしま海道に来てみると、両者のコントラストがまた素晴らしいのだ。
本州や四国と橋でつながっておらず、クルマはフェリーでしか往来できない弓削島や佐島などは、交通量がものすごく少なく、静かな旅が楽しめる。佐島で泊まった「古民家ゲストハウス 汐見の家」はその白眉で、五右衛門風呂やバイオトイレ、そして自転車を土間に置かせてもらったことなど、忘れられない宿泊となった。もう1泊していきたい。夜行1泊2日でしまなみ海道を駆け抜けるプランを、少しだけ後悔した。
翌日は雨。今治までのんびり走っていたら時間がなくなり、最後は時計とにらめっこでひたすら走ることに。という事情がありながら、つい寄り道してしまったのが大島の「村上海賊ミュージアム」。主に中世に活躍した海賊(ただの海賊ではなく海軍のような役割も果たした)のことを知ると、しまなみ海道が通る島々、見下ろす水路についての思いも深まった。
しかしここに立ち寄ったがためにさらに時間がなくなり、予約していた特急列車まであと16分(!)というタイミングで今治駅に着いた。僕と相棒のスギヤマさんが乗っているのはランドナーという、輪行には少し時間がかかる車種だ。レインウエアなんかもちろん脱ぐヒマはない。まず切符を発券してもらい、ホームの場所を確認し、僕は8分で輪行を完了。スギヤマさんの自転車を雑に袋に納め、あたりに散らばったバッグ類を担いで、僕らは駅の階段を駆け上がった!
☆☆☆
…この本では、上記のルート含めた8本の輪行ツーリング詳細(奥多摩駅から松姫峠越え/津軽半島/古峯神社から足尾銅山/秩父から太田部峠を経て法久/高浜からつくばりんりんロード/はこね金太郎ラインから大観山/飛行機輪行で知床半島)のほか、自転車の分解収納、ロードバイク・ディスクブレーキ・ランドナー・折りたたみ小径車の輪行、輪行袋の活用法、服装や装備についてなど、輪行を始めるために必要な知識も紹介している。輪行に興味が出た!という人はぜひチェックしてみて欲しい。
『輪行で行こう! 自転車と一緒にもっと遠くへ旅する』(著・大前 仁)
A5 判・ソフトカバー・224 ページ 定価:2,530 円
全国書店、オンライン書店の Amazon などで発売中
https://www.velo-apres.com