東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第29座目は、荒川区にある道灌ゆかりの山をめぐります。
これまでの記事はこちら
第29座目「道灌山」
今回は、JR田端駅南口登山口からのスタートです
実は、目的地は西日暮里駅の目と鼻の先。あまりにも近すぎるので、地図を見て考えました。あれ?田端駅からでも遠くないな。ん?聞いたことあるような…。早速調べると、新海誠監督の映画『天気の子』で重要なシーンの舞台となったのが、JR田端駅南口を出てすぐの坂道らしいです。映画半ばのシーンに加え、ラストシーンも田端駅南口を出てすぐの坂道が舞台となるみたいですね。ならば、ここを登山口にしようと思ったわけです。
田端駅南口の改札は、ここが東京?と思わせるような、まるで田舎の無人駅のような佇まいです。そんな雰囲気の中、歩き始めました。実は『天気の子』を見ていないので、ここが“聖地”ともいわれてもピンとこず、ぼんやりと坂道を登っていきます(帰宅したら、ちゃんと『天気の子』観ます)。
歴史が折り重なった複合遺跡の山
坂を登り、西日暮里駅方向へ下り始め、遠くに西日暮里駅が見えるころ、気になるアジア食材店を発見しました。調べると、店名の「XUAN」はベトナム語で「春」を意味するそうです。ググってみると、同じ名前のお店が日本各地にありました。縁起の良い名前なのでしょうか?ただ、山登りの最中ですし、山形に住む僕には荷物になるので今回はスルーしました。次回、上京する時はのぞいてみたいと思います。
西日暮里駅前のタクシー乗り場に着き、直ぐ脇にある急な西日暮里歩道橋を登っていきます。今回は田端駅からの長丁場でしたので、ここからは近道することしました。歩道橋を一気に上まで登っていくと景色は一変しました。
歩道橋を登り切ると、西日暮里公園に入っていきます。麓の駅前の賑やかな雰囲気から一転、木々に囲まれた静かな公園です。山頂はどこだろうと思いつつ真っすぐ歩いていくと、道灌山が現れてきたのでした。
道灌山は、田端、王子へ連なる台地の一際狭く、少し高い場所にある山です。その名の由来は、江戸城を築いた太田道灌(おおたどうかん)の出城跡という説をはじめ、鎌倉時代の豪族である関道閑(せきどうかん)の屋敷跡だという説、キツネが住んでいた(または稲荷が祀られていた)ので稲荷山(とうかやま)と呼ばれたのが訛ったという説など、諸説あるそうです。由来が色々あるくらい住民に愛されていた山と言えるのかもしれません。虫の音を聴く「虫聴き山」としても多くの人に愛された山だそうです。
また、道灌山は、縄文時代から江戸時代に至る複合遺跡でもあるそうです。縄文時代および弥生時代の竪穴建物跡、平安時代の建物跡、江戸時代の溝などが発掘されていて、歴史的にも重要地だったようです。
なお、僕が訪れたときは、山の奥の方で若い女性がTikTokの撮影をしていました。次第にその周囲は、撮影風景を見守る人たちで賑わい始めていました。道灌山は、今も昔も人が集まる何かを宿した山なのかもしれません。
次回は「豊島区の庭園で幻の築山」を予定しています。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。