ごくごく平凡(!?)な3人家族+2匹が過ごす“行ったり来たり暮らし”とは
編集者/ライター、コラムニスト 佐藤誠二朗さん
児童書出版社を経て宝島社へ入社。’00〜’09年『smart』の編集長を務め、’10年に独立。著書に『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』など。
そもそも田舎暮らしに憧れていたわけではない
佐藤さんご夫婦は、生まれも育ちも東京という、根っからの都会っ子。しかもファッション系出版社勤務の妻と、ファッション・サブカル好きの自称、野良編集者兼ライターである夫の佐藤さん。田舎暮らしには、てんで興味がなかったとか。
「子供が生まれて、妻の思考が変わったみたいです。子供や犬を制約のない一軒家で思いっきり遊ばせたい。インテリアやガーデニングなんかも楽しみたくなったみたいで」
そんな妻の提案に軽いノリであっさりOKし、2016年の夏ごろから家を探しはじめ、秋には山梨県山中湖村にある家に出会い、多少のリノベーションを施し、2017年の春には「山の家」が使えるようになった。展開の速さに驚かされる。家を買うというと、一大事業のように思えるが……。
「仕事は東京だし、子供の学校もあるので、週末通うとしても都心から車で2時間圏内の場所、と決めていました。オプションとして、富士山が見えるといいなぁって思っていたので、わりと早く、富士五湖周辺に絞り込みましたね」
一般庶民がいちばん気になる、費用はおいくら?
「田舎の中古一戸建て、っていうと300〜400万円をイメージしますよね。でもそれだとかなり場所が辺鄙だったり、同じ中古でも手入れが大変そうだったりするんです。この山の家は敷地が300坪弱、建坪50坪の中古物件で、リフォームも含め、およそ1500万円。ちょっと高い気がしますよね? でも管理別荘地ではなく、定住派が半数を占めるので、周りには家があって寂しくないし、自然を身近に感じつつも、観光地で美味しいお店もある。僕にとってはちょうど良い塩梅の場所です」
佐藤家のお財布事情はというと、東京生活の費用は佐藤さんが負担し、山の家のローンと光熱費は、言い出しっぺの妻が担当するという完全分割制。
「家賃は2倍、交通費も光熱費も行く分だけかかるから、なんて無駄遣いっっ! って思うけど、そこから生まれる精神的なゆとりや心の豊かさは、それを上回るものでしたね」
そもそも田舎暮らしに憧れていたわけではない。
「薪割りしたり炭作ったり、山菜採りしたり。そんなことをしたかったわけではないんです。単純に音楽をそこそこの音量で聴いたり、楽器の演奏をしたり。過密な住宅事情を抱える東京の家ではできないことをやりたかったというか。でも、2020年にコロナ禍がはじまり、週末だけピンポイントで通っていたのが、山の家に長期滞在するようになって、少しずつ状況や考え方が変わってきました」
3〜4か月暮らすとなると、庭の手入れもしなければならないし、ご近所付き合いなど、自ずとやることが増えてくる。
「それがジワジワと面白くなってきた。ホームセンターをハシゴしたり、クウとホク(愛犬)のためにドッグランを作ったり」
敷地が広いのはいいが、隣家との境界が曖昧で、庭にクウとホクを放してあげるためには、ドッグランが必要だったのだ。
「でも、散歩は楽ですよ〜。都会だと躾けながら、犬も人も真面目に歩かなきゃならないけど、こっちは他の人や犬と出くわすこと自体少ないから、伸縮リードで自由に散策できます。散歩の距離は必然的に長くなり、東京での散歩の倍以上歩き回るから、健康にもいいんです」
状況が許せばノーリードだってしばしば。愛犬のストレスも格段に減った、ハズ。
「イヤなことなんてないですね。最初は冬の寒さに辟易したけど、もう、それも慣れたし。二重サッシと薪ストーブの導入でかなり快適になりました。あ、妻と娘には、虫の存在という切実な問題がありますが……」
とはいえ、精神的に不安がないといったら嘘になる。
「どんどんお金を使ってるんで、貯金しないとな、って思うときもあります。でも、永続的じゃなくて、今は二拠点だけどいずれ山の家ひとつに絞るだろうし、将来的な見通しがあるから大丈夫。いざとなったら、こっちに来ちゃえばいいしね」
たいていの場合、夜中に東京を出発し、帰るときも夕飯を食べ、なんならお風呂に入ってから夜に出発するので、渋滞知らず。自分の家から家に来ているだけだから、さあ、出かけるぞ、と気合いを注入しなくてもいいのが、またいい。
「こっちでの生活が楽しくて、どんどんアウトドアの趣味が広がってきましたよ。最初は薪割りなんてやらんし、と思っていたけど、薪ストーブ導入した途端にどハマり。何なら、薪活もはじめましたよ」
間伐材をもらい受け、それを切るためにチェーンソー講習会にも通った。
「庭でBBQもやるし、湖が近いから、カヌーもやるようになりましたよ。今はね、パラグライダースクールに通ってみようかと思ってるんですけど、そんなの、デュアルライフをしてなかったら、やってみようなんて思うことなかったんだろうなぁ」
もちろん本書には、楽しいだけではなく、下水の話や税金の話など、気になるリアルなデュアルライフ話が満載! デュアルライフを考えている人も、そうでない人も、思わずクスッとなる、平凡だけどファンキーな一家の物語を、ちょっと覗いてみませんか。
新たな趣味が増えること、増えること
昨年、7年目の冬を迎え、ついに薪ストーブを導入。1階各部屋の窓も二重サッシに交換し、寒さ対策も万全。目下、SDGsなウィンターライフを目指して薪活(間伐材などを自力で調達)に勤しんでいる。
ウッドデッキでハンモックに揺られながら、優雅に読書。高倍率ズームレンズ搭載のデジカメで野鳥のフォトシューティングをするのも新たな趣味。
金属製のフェンスを使用した、お手製ドッグラン。隣家とのゆる〜い境界線にもなっている。
都会ではストリーミングばかりだが、余裕のある山の家だとレコードを聴きたくなる不思議。
デュアルライフを彩るアウトドアギア3選
四方に広がる音に酔いしれる
MoriMori/
LED ランタンスピーカーS1
¥14,080
※ハンドルは別売り
Bluetooth接続が可能で全方位に音が広がるモノラル再生のスピーカー。ルミエールランタン風の調光可能なLEDライトも搭載。
虫除けも兼ねたオイルランタン
キャプテンスタッグ/
CSオイルランタン (小)
¥4,400
リアルな炎を楽しむ、情緒漂うオイルランタン。虫除け成分が配合されたパラフィンオイルを使えば最強の組み合わせ。
燕三条生まれのピカイチ調理器具
IWANO/
ホットサンドメーカーFT
¥4,990
セパレート式でフライパンとしても使用可能。素材はアルミで熱伝導率が良く、ムラなく焼ける。フッ素樹脂加工済み。
佐藤さんの著書
『山の家のスローバラード
東京⇆山中湖
行ったり来たりのデュアルライフ』
百年舎
¥2,200
※構成/大石裕美 撮影/小倉雄一郎
(BE-PAL 2024年2月号より)