CINEMA 01
ガスも水道もなし。狩猟で得た肉を食す。俳優、東出昌大の山暮らしを追うドキュメント
『WILL』
(配給:SPACE SHOWER FILMS)
●監督・撮影・編集/エリザベス宮地
●出演/東出昌大、服部文祥、阿部達也、石川竜一、GOMA、コムアイ、森達也ほか
●2/16~ 渋谷シネクイント、テアトル新宿ほか全国順次公開
©2024 SPACE SHOWER FILMS
真っ暗な田舎道。車を止め、道路に置き去りにされたタヌキの亡骸を拾い上げる。居合わせた人から「片づけるの?」と声を掛けられつつ、再び運転席に乗り込むや、「まさか食べるとはいえないよね」と苦笑い――。俳優・東出昌大を追ったドキュメンタリーはそんなふうに始まる。
北関東の山里で家賃ゼロの一軒家に住み、狩猟で得たシカやイノシシの肉を食べ、地元に溶け込んで暮らす。まずはその虚飾を排した暮らしぶりに驚かされる。
彼の狩猟スタイルは、ひとりで忍び寄って鉄砲で獲物を獲る〝単独忍び猟〟。その緊迫した空気、命と対峙する時を経て紡がれる言葉には人を惹きつける力が。それでいてカメラ前の東出は限りなく無防備。追い詰められた日々を赤裸々に語ったと思うと、子供たちの前で獲物をさばいて食育にひと役買ったり、クマ鍋をうまそ~に食べたりする。
俳優としての顔にも迫り、田舎移住の難しさや害獣駆除の問題にまで触れて見応え十分。「山は危険だけど、生きる実感にあふれている」というときの充実した表情。そこに、改めて彼に注目が集まる理由がありそうだ。
CINEMA 02
事故か、自殺か、殺人か? ある転落死の真相
『落下の解剖学』
(配給:ギャガ)
●監督/ジュスティーヌ・トリエ
●脚本/ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
●出演/ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネールほか
●2/23~ TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
©LESFILMSPELLEAS_LESFILMSDEPIERRE
雪山の山荘で男が転落死。作家である妻に殺人容疑がかけられる。現場に居合わせたのは、視覚障害のある11歳の息子だった――。
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。事件発生時の物音をかき消す音楽使いの奇妙なリズムに惹かれ、一瞬で映画の世界に没入。描かれるのは、ある夫婦の関係が崩壊へ落ちていくさま。ひと筋縄でいかない登場人物、追い詰められた人間同士のどうにもならない袋小路。やがて物語の舞台は山荘から法廷へ、恐るべき深度の人間ドラマへ進む。
CINEMA 03
ニカラグア出身の女性監督による初長編映画
『マリア 怒りの娘』
(配給:ストロール)
●監督・脚本/ローラ・バウマイスター
●出演/アラ・アレハンドラ・メダル、バージニア・セビリア、カルロス・グティエレス、ノエ・エルナンデス、ダイアナ・セダノ
●2/24~ ユーロスペースほか全国順次公開
©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL – Dag Hoel Filmprooduksjon
as – Cardon Pictures LLC – Nephilim Producciones S.L. – 2022
11歳のマリアは母と暮らし、ゴミ収集で生計を立てる。ところが政府はゴミ収集事業民営化を決定。しかも子犬の売買でトラブルを起こした母は、リサイクル施設を営む知人にマリアを預けて街へ。マリアは、帰らない母を探す旅に出る。
「欲しいものは自分で勝ち取れ」、母に誇り高く育てられたマリアは強い瞳を持つ少女。けれどその目に映るのは途方もない量のゴミの山と、そこを這いずり回らなければ生きられない現実。マリアの内なる世界とナチュラルに融合する。
※構成/浅見祥子
(BE-PAL 2024年3月号より)