鳥類学者らとともに5年に及んだフィールドワークを記録、土壌生態学の立場から野外試験区で得た結果をもとに、土を耕さない不耕起栽培を提案…。生態調査から見えてくるものとは?自然から学びを得られる2冊をご紹介。
BOOK 01
ロシア辺境で繰り広げる試行錯誤の生態調査
『極東のシマフクロウ─世界一大きなフクロウを探して』
ジョナサン・C・スラート著 大沢章子訳
筑摩書房
¥3,300
翼を広げた長さは180㎝にもなるというシマフクロウ。極東地域に狭い分布域を持つ大型の猛禽類で日本では北海道東部に生息している。絶滅の危機にあり、世界的な個体数は推定約2000弱。シマフクロウの分布域のひとつであるロシア沿海地方が本書の舞台だ。
沿海地方で偶然見たシマフクロウの姿に魅了され、生態調査に取り組むようになった著者。本書は、現地の鳥類学者らとともに5年に及んだフィールドワークの記録である。マイナス30度Cをも下回る極寒の中での調査はときに氷や雪が行く手を阻み危険と隣り合わせ。巨木のうろの住処を探し出し、足跡や羽、ペリット(鳥が吐き出す不消化物の塊)といった痕跡から狩り場を突き止め、徐々に生態が明らかになる。美しくシンクロするつがいのデュエットは一度は聴いてみたいもの。口絵の気高い佇まいに気付けば心は鷲摑みだ。
森に覆われた調査地ではクセの強い人物が何人も登場し、フィールドワークの日々を彩る。「ウォッカの瓶をテーブルに出されたら飲み干すこと」。随所に描かれるロシアの習わしは知らないことばかり。北海道から300㎞しか離れていないのになんて近くて遠い国なのかと実感させられた。
BOOK 02
ストップ!土壌劣化、ミミズの糞が土を作る
『ミミズの農業改革』
金子信博著
みすず書房
¥3,300
土とは一体何か? 改めて聞かれると答えが難しい。土とは色々な大きさの鉱物と植物や微生物の遺体との混合物であるという。ミミズなどの生き物を含めて複雑な組成の土中は、ハンドシャベルで掘り起こしただけでも変化が生じる。慣行農業では土壌劣化は避けられない。土壌の生態系に委ねてみては? 土壌生態学の立場から、野外試験区で得た結果をもとに土を耕さない不耕起栽培を提案する。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2024年3月号より)