「ないものをつくる」を信念に創業されたクラフトビールブルワリーRePuBrew合同会社(リパブリュー)は、静岡県の沼津と三島、ふたつのブルワリーでそれぞれのブランドを持つ。ビールの味やスタイルだけでなく、製造方法にも、これまでにない取り組みを続けているブルワリーだ。創業者の畑翔麻さんにインタビューした。
目指したのは駅近ブリューパブ
JR沼津駅から徒歩1分ほど。ビルの地下にあるブリューパブ、駅前ビール工場リパブリュー(以下リパブリュー)。代表の畑翔麻さんがブルワリーを立ち上げるにあたり、第一のコンセプトはズバリ、駅から近いことだった。
畑さんは専門学校で醸造学を学んだ後、静岡県のブルワリーに就職。ブルワーの経験を積んだのちに起業した。視察で訪ねたアメリカ・サンディエゴの街には駅前や商店街にブリューパブがいくつもあった。街の人がカフェに立ち寄るようにビールを飲んで行く。仕事の帰りの人が寄って一杯、二杯と飲んで行く。
日本の都市部では、町中のブリューパブは増えてきているとはいえ、まだ多くはない。それもごく小規模なブリューパブがほとんどだ。地価や賃貸料を考えればムリもない。
畑さんははじめから、仕事帰りの人がフラッと立ち寄れるような駅近の物件を探した。都市部では寸胴や冷蔵庫などミニマムな設備を駆使して醸造しているブルワリーも多い。しかし「クオリティに妥協はできない。しっかりした仕込み釜が必要」(畑さん)なため、フル設備を搬入できる広さが条件だった。当然、都市部では難しい条件になり、範囲を広げて見つけたのが静岡県の沼津エリア。首都圏からほどほどの近さも気に入った。
そうして2017年、JR東海道線・沼津駅から徒歩1分のブリューパブ「駅前ビール工場リパブリュー沼津」がオープンした。カウンターからガラス越しに見える醸造所には、350リットルの仕込み釜、350リットルの発酵タンクが8基、750リットルの発酵タンクが10基。町中とは思えない充実した醸造設備だ。
駅近であることのほかにもうひとつ、リパブリューが当初から掲げるコンセプトに「ないものをつくる」がある。
「ビールの味わいはもちろんですが、お客さんにおいしく飲んで、さらに新しい発見をしてもらいたいんです。そのために新しいビールをどんどん造っていく。これまでも、これからもです」
これまでにないものはビールの中身だけではない。2021年、リパブリューは沼津からひと駅の三島に第2工場を建てた。Natural Roots Studioという。これが太陽光発電工場なのだ。
クラフトビール業界では初の太陽光発電ブルワリー
太陽光発電の工場は近年、日本の大手ビールメーカーも次々と導入している。ビールメーカーに留まらず、各業界の工場が採用している環境対策の大きな柱だ。世界のクラフトビールに目を向ければ、100%太陽光発電を達成しているブルワリーもあれば、ネガティブカーボンを目指して森を育てているブルワリーもある。
「“ないものをつくる”ためには、麦やホップなど原料の持続可能性も考えていかなくてはなりません。生産性だけでなく、環境を考えた工場で造ったビールをお客さんに飲んでもらいたいという思いから太陽光発電の工場を建てました」
ビールの主原料のひとつである水も大量に使う。三島のNatural Roots Studioでは井戸を掘り、箱根富士山系のおいしい水を採水している。そして太陽光による電力でビールを造る。2000リットルの仕込み釜1基、4000リットルの発酵タンクが8基、そして2000リットルの蒸留器を備える。
クラウドファンディングで「太陽発電でつくるクラフトビール工場」を呼びかけ、調達できた約760万円でソーラーパネルを設置。現在、工場の4分の3の電力をまかなえている。
ソーラーパネルを設置するスペースはまだ十分残っているので、今後も太陽光発電量を増やし、将来的には100%太陽光発電でまかないたいと畑さんは話す。
Natural Roots Studioでは太陽光発電でCO 2の排出量を削減するだけでない。
「ふつうは捨ててしまう」という醸造工程で出るホップと酵母の廃棄物の有効活用にも取り組んでいる。「ビールの10%量くらいが廃棄物になります。これをどうにかしたい。使い終わったホップと酵母を蒸留するとアルコールが採れます。そのために蒸留器を入れました」
現在、抽出できたアルコールは消毒用アルコールに利用している。今後は、ジンの製造も手がける。ホップの香りがほのかに香るクラフトジンが生まれるだろう。
製造工程で出る廃棄物といえば麦芽カスだ。大量に出る。これは沼津のリパブリューのオープン当初から、熱海にある堆肥場に提供している。熱海周辺には酪農農家もあり、馬糞に混ぜ込むと良質のいい堆肥になるそうだ。
リパブリューは缶製品にするのも早かった。
駅近とはいえ、車で来る人も多く、お持ち帰り用に缶ビール化したのがきっかけだという。瓶ではなく缶にした理由は、遮光性が高いことから品質の安定性が保てることと、ほぼ100%リサイクルできることを挙げる。
「僕自身、ふだんの生活の中で、瓶より缶のほうが資源ゴミに出しやすいという実感があります」
飲み終わった容器もロスにしたくない。日本のクラフトビール界では瓶ビール時代が主流だったが、リパブリューは迷いなく缶を選んだ。それは結果的にコロナ禍で幸いした。輸送にかかるコスト面からも、今ビールは瓶から缶への流れにある。
農産物も海産物も使って「ないものをつくる」探究心
リパブリューのビールは飽くなき探究心にあふれている。
沼津、三島エリアにはさまざまな農作物、海産物がある。トマトやヤマモモ、マンゴー、お茶といった静岡らしい農作物をはじめ、沼津の海塩を使って造ったビールもある。
沼津が面する駿河湾は海岸から2キロほどで深さ500メートルに達する深海エリアだが、その駿河湾の深海魚の骨も活用したこともある。骨を乾燥させて粉末にしたものを、ビールの仕込み水の水質調整剤に使ったという。骨はカルシウムでアルカリ性。採水できる水は軟水。これをビール用に硬水にするための調整剤になるわけだ。まだまだナゾに包まれている深海魚だが使えるものはムダにしない—–そんな取り組みがおもしろい。リパブリューは今後、どんなことにチャレンジしていくのだろうか? 畑さんは次のように語る。
「三島の工場には酵母のラボを作り、酵母を保菌して培養できるようになりました。これまで酵母は酵母会社から購入していたので、コストが下げられますし、品質はより安定できると思います。また、近くの沼津工業技術支援センターに新しい菌やその変異型などを研究している研究者がいて、ビールに使えそうな菌を分けてもらってビールを造ったこともあります。ここにラボができたので僕たちも新しい酵母を研究していきたいですね」
いつかNatural Roots Studio生まれの酵母で仕込んだビールが誕生するかもしれない。今後は地域でのイベントも予定している。その第一弾として、3月23 日(土)にNatural Roots Studioで工場開放デーが予定されている。太陽光発電の工場見学やビールの試飲が楽しめる。
“ないものをつくる”ためには時間も労力もかかるだろう。長く続けることはそのための必要条件になる。クラフトビールブルワリーからサステナブルな工場や製造法のアイデアが生まれることもあるだろう。クラフトビールの、ビール以外のチャレンジにも注目していきたい。
RePuBrew(リパブリュー) 静岡県沼津市大手町2-1-1ポルト沼津B
https://www.repubrew.com