お待たせしました!当連載「救助犬の仲間たちのものがたり~エムとクレア編【災害救助犬コアと家族の日記 Vol.7】に続き「救助犬の仲間たちのものがたり」第 2回をお届けします。
今回、ご紹介するのは、千葉県災害救助犬協会のディーパー、レグルス、キアナ、ライラ。
併せて、令和 6 年 1 月能登半島地震での活動の様子もお伝えします。
4匹の個性あふれる救助犬の仲間たち
千葉県災害救助犬協会は、1991年に日本で初めての救助犬を育成する民間の組織として富山県に発足した「全国災害救助犬協会」の関東メンバーで構成されています。 近年の救助犬派遣としては、2015 年関東・東北豪雨災害(片付け等の災害ボランティア活動も実施)、2018 年西日本豪雨災害、2021 年熱海伊豆山土石流災害、そして、2024 年能登半島地震に出動しました。
長きにわたり真摯な活動を続けている千葉県災害救助犬協会に、コアも若い頃から大きな力になっていただいています。そんな同協会で育成した、4 頭の救助犬たちをご紹介。それぞれに才気と個性、愛嬌にあふれる犬たちです。
ディーパー
捜索や服従訓練が大好きで、いつもやる気満々! 明るい性格で、あっけらかんとして細かいことは気にしません。地元の商店街の人気者でみんなが名前を知っていて、あいさつしていきます。犬好きな人を見分け、そばに行って喜ばせたりサービス精神も旺盛です。令和 6 年能登半島地震に出動しました。
ライラ
天真爛漫な楽天家ディーパーと兄妹です。飄々としているように見えて負けず嫌い。捜索活動では、どんな状況にあってもめげすに探します。令和 6 年能登半島地震に出動しました。
キアナ
パワフルな才女で肝の座った勝気な女王様気質。動じない性格で自信満々。丁寧な鼻使いで捜索します。熱海伊豆山土石流災害、令和 6 年能登半島地震に出動しました。
レグルス
ディーパーとライラの父親。ユーモアセンス抜群でマイペースな性格。普段は我が道を行き過ぎる所がありますが、捜索意欲が強く、広範囲を探すのが得意です。いつも女王キアナの尻に敷かれています。 西日本豪雨災害、熱海伊豆市土石流災害、令和 6 年能登半島地震に出動しました。
レグルス、キアナ、ライラは IGP(国際畜犬連盟の国際作業犬試験)※1や、オビディエンス競技※2にも参加しています。
※1 IGPはドイツ語の Internationale Gebrauchshunde Prüfungsordnung の略。 試験課目は「足跡追及」「服従」「防衛」から成ります。
※2 オビディエンス競技は、ドッグスポーツのひとつとしてヨーロッパでは盛んに行われています。
ディーパー、レグルス、キアナ、ライラを始め、これまでに多くの救助犬を育ててきた千葉県救助犬協会のみなさん。コアと私の恩師ともいえるハンドラーで訓練士の渡邉佳奈子さんに、コアと出会った時からの印象を訊いてみました。
「体が大きく、我と意欲が強いので、難しいところもありますが、性格は素直で訓練性能が高く、意欲的で、ボールひとつで何でもできました。度が過ぎるところがあるので、ちょっと大変だったかもしれませんが、救助犬とハンドラーとして良い関係が築けているなと思います」
渡邊先生がおっしゃる通り、一般人が家庭犬として飼うにはちょっと大変なこともあったコア。ですが、 “救助犬”という楽しく意欲的に取り組めるものを見つけてからは、生き生きと暮らしています。それも、千葉県災害救助犬協会の方々のご指導のおかげです。心から感謝しています。
能登半島地震の捜索活動について語ってくれた思い
ここからは、協会理事長でフォローアップ、サポーターを務める高崎光太郎さん、ハンドラーの高崎美代子さん、そして前出の渡邉佳奈子さんにお話を伺っていきます。
まずは、年明け早々に起こった能登半島地震での出動のこと。千葉県災害救助犬協会は、一度ならず3度、被災地に向かい捜索活動を行いました。そこで体験したこと、みなさんが共通して感じたことを、語ってくれた言葉のまま記しておきます。
「犬たちはみんな訓練したことをしっかり生かして捜索しました。捜索を見ていた消防隊員の方から、こんなに多勢の人間が見ていて犬は緊張しないのですか?と訊かれましたが、犬たちは淡々と捜索していていました。その姿を見て、あらためて、ハンドラーも頑張らねばと思いました」
「2 回目、3 回目の出動では発災から時間が経過していたため、HRD (遺体捜索犬 /Human Remains Detection search dog の略)の訓練を受けているキアナがハンドラーである私の判断で消防と同時捜索をしました。
消防隊員の間をかいくぐり、土砂の中へ突っ込み、自信を持って堂々と捜索していました。災害救助犬というと、生きている人を捜すイメージが強いですが、最後のひとりまで見つけるために、HRD の訓練にも力を入れていきたいと思っています」
このような能登での厳しい経験をもとに、これからいったい何が必要なのかも語ってくださいました。
「これまでの出動に比べ、天気の悪い日が多かったこともあり、能登での待機中の環境は非常に厳しかったです。いつ出動依頼が来るかわからないため、気持ちは張り詰めたまま。人も犬も外に出ることができず、車内にこもりっぱなしだったので、休養や栄養を十分に取ることもできない状況でした。
この経験から、テントなどを張って身体を休められるベース(基地)となるような場所を確保していかなくてはと思いました。現地入りしたら、まずは、その交渉が必要ということです。またハンドラーは捜索だけでなく、被災地までの車の運転、情報収集、公的機関や他団体とのミーティング、犬の世話など、やらなくてはいけないことは多岐にわたります。能登での厳しい環境の中で、そういった役割を分担できるサポーター的なスタッフの必要性も感じました。
近年は災害救助犬への期待とニーズが高まり、公的機関から捜索の依頼が来るようになってきました。一方で、スムーズに活動するためのことがうまくいっていない面もまだまだあります。その改善のためにも、ハンドラーは責任の重さをしっかりと受け止めなければなりません。そして、災害救助犬の理解と周知が少しでも進んでいければと願っています」
災害救助犬について、みんなが知りたいことをインタビュー!
コアの訓練中にたまたま出会った人や、私が発信しているSNSで、よく訊かれることがあります。そんな一般の方が知りたいと思っていることを、千葉県災害救助犬協会のみなさんにインタビューしました。
Q.救助犬を育成しようと思ったきっかけを教えてください
「28 年前、夫婦で初めて飼ったフラットコーデッドレトリバーのチャナを連れて、救助犬体験に参加してみたら、チャナがとても楽しそうだったので、始めてみようと。社会貢献できたら良いなとも思いました」(協会理事長 高崎光太郎さん、ハンドラー 美代子さん)
「子供の頃から犬が好きでした。中学生の頃、父が仕事で NY にいた時に 911(全米同時多発テロ事件)が起こり、父は無事でしたが、父の同僚が多勢亡くなったことに衝撃を受けました。それ以前、子供のころに阪神淡路大震災を、訓練所修行時代には東日本大震災を間接的に経験し、被災された人たちを助けに行きたいという気持ちが強くなりました」 (ハンドラー、訓練士 渡邉佳奈子さん)
Q.救助犬の活動で嬉しいこと、辛いことはありますか?
「救助犬の活動でうれしいと思うのは、チームのみんなで連携し一緒に活動できることです。若い犬がさまざまな訓練を通して、救助犬として育っていくのを見るのが楽しく、訓練で積み重ねてきたことが、実働でしっかりできた時はとても嬉しいです。全国災害救助犬協会の合同訓練などでは全国のいろいろな県から集まった仲間と一緒に練習をしていく中で、新たな発見をすることも楽しみです」(高崎美代子さん)
「発災した時には仕事を休んで出動するため、帰宅したら溜まった仕事をこなさなければなりません。休みなしなので、疲れがとれないことが悩みです。でも、いちばん辛いのは、災害が起きているのに、何らかの理由で出動できない時かもしれません」(渡邉さん)
Q.「うちのこも救助犬になれるかな?」と思ってる飼い主さん、「救助犬のサポートをしたい」という方へアドバイスをお願いします
「時間とお金をかけて訓練を受ければ、犬は認定試験には合格するかもしれません。しかし、その先の実働をするとなると、飼い主さん自身に相当の本気と覚悟が必要です。
救助犬の活動には、救助犬の育成だけではなく、さまざまなサポートの形があります。寄付もそのひとつですし、犬がいなくてもサポーターとして、事務処理や訓練時のヘルパー、災害現場で連絡や記録をとったり、救助犬のケアをすることも大きなサポートになります」(高崎美代子さん)
ある捜索現場での待機中に出会った東日本大震災で被災された方が「前回、自分たちが助けてもらったから、今回は自分が助けたい」とおっしゃっていました。誰かのために「何かしたい」という気持ちを大事にしてください」(渡邉さん)
Q .救助犬のことで、これだけは誤解してほしくないということはありますか?
「災害が起こるとSNSなどで、災害救助犬に注目が集まり、応援してくださる方が多くいますが、中には救助犬(使役犬)が“〇〇させられて、かわいそう”」という声も聞きます。これは誤解で、犬は犬自身が楽しくなければ捜索はできません。
当会の救助犬たちは使役犬としてブリーディングされてきたエネルギッシュで人と共同作業することが大好きな犬たちです。彼らにとっては、家でまったりしていては物足りず、救助犬の活動はとても楽しいものであること、そしてハンドラーの愛犬であり大切にされていることを知っていただけたらと思います。」(渡邉さん)
Q 最後に、何かアピールしたいことはありますか?
「災害救助犬の活動では、犬の訓練だけではなく、ハンドラーの知識と経験を深めるとともに、人と人とのつながりが大切だと感じています。それぞれに理念や正義があり難しい部分もありますが、平時からチーム内や救助犬団体と組んで訓練して、お互いを知ることで信頼関係を築き、連携していけたらと思います。
千葉県災害救助犬協会では、犬かいなくても災害ボランティアとして、被災地でのチームのサポートや訓練でのヘルパーとして、活動に参加してくださる方を募集しています」 (高崎理事長)
インタビューを終えて
貴重なお話をたくさんお聞かせいただくことができました。この記事を読んでくださっているみなさんの心にも響く言葉があったのではないでしょうか。
2021年熱海伊豆山土石流災害の現場で、私の心に残っていることがあります。 それは、発災から日数が経ち、救助犬団体は1日中待機するも捜索がないかもしれないという状況になった時のこと。千葉県災害救助犬協会のみなさんは、いったん帰任するという選択肢もありながら、「誰かがここにいないと、次につながらない」と待機を続けました。この時、私たちの活動は犬だけではできないことだと、とても深く感銘を受けました。
また捜索の現場では、チーム内の連携だけでなく、公的機関との連携や対応もしっかりと行っている様子を見る機会があり、勉強になることが多かったです。コアと私も能登半島地震の捜索活動に出動しましたが、この時も、私の至らないところ、わからないこと等にご助言をいただき、とても感謝しています。
実働で活躍している千葉県災害救助犬協会を、そして4匹の救助犬の仲間たちの応援をよろしくお願いします。