4月上旬、日没後の西北の空にポン・ブルックス彗星が見られます。予想では5等級ほどの明るさになるので、目のいい人なら肉眼で、双眼鏡であれば確実に見られる明るさです。さあ、西の空に彗星を探しに!
4月10〜11日が見ごろか
ポン・ブルックス彗星は約70年周期でやって来る彗星です。天文学界の彗星リストでは「12P」と記されています。これは2回以上やって来たことが確認された12番目の周期彗星であることを意味します。周期彗星とは、一定の年数が経てばまた戻ってくる彗星ということです。ちなみに1Pはハレー彗星。約76年周期です。
彗星の名前は、一部の例外を除いて発見者の名前です。しかし、ポン・ブルックス彗星はポン・ブルックス氏が発見したというわけではなく、ふたりの天文学者の名前から成っています。ひとりはフランスの天文学者ジャン・ルイ・ポン。もう一人はアメリカの天文学者ウィリアム・ロバート・ブルックスです。ポンが1812年に、ブルックスが1周期後の1883年に発見しています。今回は1812年の発見から数えると4回目の到来です。
ポン・ブルックス彗星は現在、日没の1時間後くらいに西北西の空、10度くらいの高さにあります。
ポン・ブルックス彗星が太陽に最接近するのは4月21日ごろです。彗星は氷の塊です。太陽に近づけば近づくほど、氷が蒸発して周りにガスを噴出し、それが太陽の光を反射するため明るくなります。
それなら21日がいちばん明るく見えるのでは? と思われるかもしれません。しかし、地球から見ると太陽に近づきすぎて見えにくくなるのです。またこの時期は月明かりがジャマになります。4月は9日が新月。地平線からの高さも考えると、10日〜11日がベストと考えられます。
ほうき星の尾は見えるのか?
彗星は5等級といっても、5等級の星の見え方とは異なります。星は1点ですが、彗星はぼやっと広がっているからです。西の方角が開けた暗い場所であれば肉眼でも見えるかもしれませんが、その他の条件であれば双眼鏡が必要です。
観察方法の基本として、事前に、星空のシミュレーションアプリで位置を確認しておきましょう。4月の上旬なら木星がいい目印になります。10日前後なら、木星の少し右下の位置にポン・ブルックス彗星があります。
初めて彗星を生で見る人にとって、彗星はかなり見つけにくい天体です。天体写真で見るような尾を引いた姿をしているわけではありません。ボヤッ、モヤッとしか見えませんので、彗星と気づかずに見逃してしまうのです。
双眼鏡の視野に何か見慣れないものが入ったら、そこで手を止めて位置を確認、彗星かどうか、見きわめましょう。位置的にポン・ブルックス彗星だ! と確認できた時の喜び。想像がつきません。
「ほうき星」と呼ばれるように、彗星の特徴は尾を引いていることです。今回のポン・ブルックス彗星も、写真でははっきりとした尾が確認されています。しかし、氷の塊である彗星本体の周りにボヤッと広がる「コマ」の部分に比べると、尾はとても淡いものです。双眼鏡ではっきりととらえるのは難しく、せいぜい「コマがまん丸ではなく、どちらか一方向に伸びている」のがわかる程度だと考えてください。尾は太陽と逆の方向に引くので、ほぼ天頂の方に伸びています。
ポン・ブルックス彗星はどこから来てどこへ帰るのか?
ところで、今年、太陽に戻って来たポン・ブルックス彗星は、どこからやってきたのでしょうか。
多くの彗星の故郷は太陽系のいちばん外側、「オールトの雲」と呼ばれる領域です。太陽から数万天文単位(1天文単位は太陽から地球までの距離で約1億5000万km)も離れた場所で、多くの謎に包まれた氷の世界です。そこは氷でできた微惑星の集まりで、ここから長期の周期性の彗星が飛んでくると考えられています。
一方、ポン・ブルックス彗星の約70年という周期は、彗星の中では「短周期」に分類されます。短周期彗星の起源はオールトの雲よりもう少し内側の、「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる領域だと考えられています。エッジワース・カイパーベルトは海王星よりも外側で氷天体が円盤状に集まっている領域で、準惑星の冥王星やエリスなども含まれます。
約70年かけてこの春、太陽に戻って来たポン・ブルックス彗星は、その後、また海王星軌道の外側へ向かっていくと考えられます。人によっては、また70年後に観察できるかもしれませんが、一期一会と思って、4月10日前後、日没後の西の空に注目しましょう。
構成/佐藤恵菜