ストーリー上の設定は架空の惑星アラキスですが、ロケーション撮影は主にヨルダンやアブダビで行われたそうです。見渡す限りの砂漠が織りなす広大な風景シーンが印象的でした。
砂の上に刻まれた風紋がゆっくりと模様を変えていく。私たちが砂漠という言葉から連想するのはそんなイメージではないでしょうか。
カリフォルニア州にも「Desert」(砂漠)と名のついた場所がいくつかありますが、その大半は砂地ではありません。岩盤がむき出しになり、背の低い灌木やサボテンが生えている、どちらかと言えば乾燥した荒野と呼ぶ方がしっくりくるかもしれません。
カリフォルニアに限らず、世界中の砂漠と呼ばれる地域の多くも実は砂地ではないそうです。砂漠の古語は沙漠。水が少ないと書いて「沙」、果てしなく広い空間を指して「漠」。昔の人はエライと思うのです。
しかし、私たちが思い浮かべる通りの「砂」漠もいくつかカリフォルニア州内に存在し、多少の時間と手間を厭わなければ、訪れることができます。今回ご紹介する、モハーベ国立自然保護区内ケルソー砂丘もそのひとつです。
モハーベ国立自然保護区内ケルソー砂丘
砂で覆われた山の頂上を目指す道なき道
モハーベ砂漠はカリフォルニア州、ユタ州、ネバダ州、アリゾナ州の4州にまたがる広大な砂漠です。面積は約81,000 km2。ほぼ北海道と同じ広さです。観光地としてはラスベガスやデス・バレー国立公園が有名です。
モハーベ国立自然保護区はラスベガスとロサンゼルスのちょうど中間くらいの位置にあります。1989年に日本公開されたドイツ映画『バグダッド・カフェ』の舞台となったカフェもすぐ近くで、現在も営業を続けています。
ケルソー砂丘はモハーベ国立自然保護区内で最も有名なスポットのひとつですが、多くの観光客を呼び寄せるような仕組みにはなっていません。高速道路の出口に見落としそうな看板があり、そこから片側1車線の道路が荒野の中を走っているだけです。その道路もしばらくすると未舗装のダートに変わります。
ケルソー砂丘のトレイルヘッドにはハイカーが車を停めるための駐車場とキャンプ場が隣接しています。しかし、トイレとゴミ箱以外の設備は何もありません。水も食料も持参しなくてはなりません。
トレイルヘッドからは砂に覆われた巨大な山がはるか彼方に見えます。実際には山頂とトレイルヘッドを往復しても距離は5㎞程度、高低差もわずか200メートルくらいらしいのですが、何しろ周りには大地と空しかありませんので、どうしてもそう見えます。喜多朗の『シルクロードのテーマ』が聴こえてきそうな風景です。
歩き始めてから100mくらいはトレイルができていますが、すぐに道を示すものはなくなり、後はただ砂地が広がっているだけになります。
ですから広い砂丘のどこをどう歩いても構わないわけですが、どうしても先人の足跡を辿ってしまいます。砂が踏み固められていると、比較的楽に歩くことができる気がするのです。
最初のうちは傾斜も緩やかで、砂のビーチを歩くような感じでもあるのですが、山頂が近づくにつれて険しくなってきます。一歩歩くたびに足が砂に埋まり、ときには四つん這いのような恰好で登らざるをえないときもあります。
ハイカーの数は多くありません。というか、ほとんどいません。もちろん、季節や曜日によっては混みあう日もあるのでしょうが、私が訪れた日にすれ違った人は1人だけ、あと遠くに数人のグループの姿が見えました。
なにしろ、公式ウェブサイトのスポット案内に「孤独なハイキングを期待できます」と書いてあるくらいです。見えるものは白い砂と青い空、聞こえるのは風の音だけです。
山頂に到着しても、普通の山のように標識があるわけではありません。周囲を見渡して、一番高い位置にあるなと思える場所を自分で山頂と決めるだけです。
これだけ山頂に何もないと、あまりお弁当を食べたりするような雰囲気ではありません。ヤッホーとひとりで叫ぶのも虚しい気がします。
それでも、せっかくここまで登ってきたのですから、とりあえずはゆっくりと景色を眺め、砂の上に寝転び、セルフィ―写真を撮りました。
滞在時間は約5分間くらいだったでしょうか。孤独な時間を楽しめるのは成熟した大人の証だと思いますが、私にはそれくらいが限界でした。
下りはずっと楽です。はるか彼方に見えたトレイルヘッドが見る見るうちに近くなってきます。登りに50分、下りに15分、休憩が10分、合計1時間15分くらいの砂漠を歩くハイキングでした。私はかなり早足の部類に属すると思いますが、公式案内でも所要時間は2~3時間だとあります。
米国国立公園システム公式ウェブサイト内モハーベ国立自然保護区公式ページ:https://www.nps.gov/moja/index.htm