アパラチアントレイル最終章 ビバルマントラックの旅 vol.012
スタートのカラマンダから、1回目の補給ポイントであるドゥエリンガップまでは、約200kmあります。ビバルマントラックの全行程の中で、最も補給期間が長いエリアがいちばん最初という悲しい運命です。
僕は念のため10日間の食料を背負っていました。しかし、それはあくまでキャンプを想定した行程。しかも、別のハイカーが作った予定表を流用したものでした。
なぜなら、ビバルマントラック協会で販売するガイドブックが、いつになっても品切れで手に入らなかったので、そうするほかなかったのです。
出発1ヶ月前になっても販売開始にならなかったので、直接連絡を取ってみると「ホームページを変更するのを忘れていた」というメールが返ってきました。それでやっと、ガイドブックや地図は出発2週間前にゲットすることができたのですが、そこから予定を組んでいては間に合いません。あらかじめ他のハイカーが組んだ予定表を元に自分なりの予定を組んでいました。実際にハイカーが使った予定表ですので、大きく間違えることはないだろうと思い、ガイドブックとの付け合わせはしていませんでした。
しかも今回は、帰国後にすぐに仕事があり、今回のトレイルはゼロデイ(歩かない日)を随分なくして飛行機のチケットは全く余裕のない予約を組むしかありませんでした。
それなのに、予定していた仕事が出発直前になくなり、僕に残されたのは予備日は僅かに3日だけという厳しいスケジュールだけでした。(予算的にも出発日をずらすこともできませんでした)帰国までの移動を考えると、歩き始めたばかりで予備日を使うわけにはいかないのですが、組んだ予定は実際のガイドブックに照らし合わせると1日足りませんでした。あらかじめいつも1日分多く食料を背負っていたので、食料問題はセーフ。やはり備えあれば憂いなしですね。
その先の行程も心配になり、ガイドブックと僕が組んだ予定との距離の付け合わせをしたのですが、大きく違っていたのはこの区間だけでした。ただ、宿泊予定のポイントはめちゃくちゃだったので、区間ごとに予定を立て直すしかなさそうです。旅にトラブルはつきものなのですが、これは完全に慣れからくる油断です。改めて気を引き締めなければならないと感じました。
シェルターを渡り歩いていると、いつも一緒になるパース在住の老夫婦がいました。彼らは、南半球の星空を眺めながら星の話や、山火事の跡がコントロールファイヤーであること、そして、SOTOのウィンドマスターは最高のストーブであることを教えてくれました。(もちろん僕も知っていますが!)
そしてビバルマントラックについて「私たちの自慢のカリーの森は美しいでしょ!」「ビバルマントラックは、きつい登りもあるけれど、シェルターが約20km毎にあるから、年老いた私たちでも楽しめるのよ」と言っていました。シェルターを渡り歩くこと、なかなか先に進めない歯がゆさがあったのですが、とても印象的な言葉でした。歩き方が違うとトレイルもまた違って見えるのかもしれないと感じました。
最初の町ドゥエリンガップに到着。この日は、インフォメーションセンターに行ってハイカーにピッタリの宿を聞いてみました。キャンプ場のコテージが安いというので、早速行ってみるとWi-Fiもなく、1泊40ドル。しかも町中まで歩いて10分かかります。この条件では、決して安くはありません。随分悩んだのですが、町からここまで歩いてきて、また戻るのも嫌だったし、早く休みたかったので、とりあえず泊まることにしました。
早速、底をついた食料を買いに、町の小さな食材店に行くと、パースのスーパーで見た値段とかなり違う! パースで1ドルのインスタントラーメンが約4ドル。チーズも500gで4~5ドルだったのだが、ここでは9ドル。物価の高さに驚くばかり。ここまで価格差があるとは思いませんでした。
あとから聞くと、このドゥエリンガップは、パースから程よい距離にあるリゾート地で、おしゃれなカフェなどもあることから観光地価格になっているんだそう。ビバルマン・トラックでも、ハイカーはメールドロップして食料を送るので一般的には問題ないようですが、僕は現地調達派。一気に懐がさみしくなりました。
基本的に僕は、食料を送るメールドロップはしません。メールドロップをすると必ずその町に行かなくてはならないし、土日は受け取れない場合が多くあります。そうなるとスケジュール管理がシビアになります。もっと自由にスケジュールを組みたいと考え、僕は現地調達派にしているのです。
この高い食料品の中からマークダウンになっている物を中心に次の町までの5日分を購入したのですが、パースで10日分の食料を買った値段よりも高かくかかるなんて思いもしませんでした。
本来10日近くも歩いたら、ゼロデイを取って休みたいところですが、宿泊費も食料も高い。Wi-Fiすらないこの町で休める気にもなれず、先を目指すことにしました。足りなかった1日もゼロデイをここで取らないことで予備日を使わずに元のスケジュールに戻ることができて、ある意味ラッキー。
しかしこの先も何か所かリゾート地を通過するので、よく考えて食料計画を立てなくては、どんどん懐がさみしくなります。リゾート地の物価の高さを改めて痛感したのでした。
つづく
【Profile】斉藤正史
山形県在住
LONG TRAIL HIKER
NPO法人山形ロングトレイル理事
トレイルカルチャー普及のため国内外のトレイルを歩き、山形にトレイルを作る活動を行う。
ブログ http://longtrailhikermasa.blog.fc2.com/
山形ロングトレイル https://www.facebook.com/yamagatalongtrail