New York Postに世界No.1と報じられた、中央アジアの国・タジキスタンのトイレを巡る旅
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    2024.06.07

    New York Postに世界No.1と報じられた、中央アジアの国・タジキスタンのトイレを巡る旅

    New York Postに世界No.1と報じられた、中央アジアの国・タジキスタンのトイレを巡る旅
    知られざる中央アジアの国タジキスタンにある、意外な世界一をご存じでしょうか?タジキスタンの世界一が何かを予想する以前に「そもそも、タジキスタンがどこにあるの?」という疑問を抱かれる方も多いのではないかと思います。

    つい先日、モスクワで発生したテロ事件の実行犯にタジキスタン国籍者が含まれていたことが日本でも報じられましたが、それを除き、タジキスタンが日本のメディアに取り上げられた回数はこれまで数えるほどしかありませんでした。

    かつてソ連を構成する一国であったタジキスタンは中央アジアと呼ばれる地域に属しており、東には新疆ウイグル自治区、南にはアフガニスタンと国境を隔てています。そんなタジキスタンは、国土の実に93%が山岳地帯の山大国であり、日本のバックパッカー界隈でも隠れファンの多い「世界の屋根」と称されるパミール高原を有する国です。

    さて、前置きが長くなりましたが、そんなタジキスタンが世界に誇る“トイレ”を巡る旅をお届けします。
    ※渡航情報は日々変更します。最新情報は外務省 海外安全ホームページなどでご確認ください。

    タジキスタンが誇る「世界一」とは

    きっかけはNew York Postの記事

    2022年9月、New York Postに投稿された旅ジャンルの記事が話題になりました。「Man treks globe in search of the world’s worst public toilet (世界一汚い公衆トイレを探し求め、男が地球を放浪)」と題されたその記事は、文字通り、とある英国人男性が世界一汚いトイレを見つけるために何と91か国を歩き回ったという内容でした。

    さらに、あらゆる国・地域の汚いトイレを調査した結果、彼が導き出した結論は、何と「世界で最も汚いトイレがあるのはタジキスタン」ということでした。

    タジキスタンに駐在しながら、観光資源が豊富で煌びやかな隣国ウズベキスタンに憧れを抱いていた筆者は、この「世界一」という文字を見て心が躍りました。「タジキスタンにも、ここでしか見られない世界一がある!」といった具合です。

    どうしても自分の目でその「世界一」を見たいと思った筆者は、だめ元でそのtoilet seeker (トイレを探し求める者)、グレアム・アスキー (Graham Askey) 氏にコンタクトを取りました。

    予想に反してすぐに返信がありました。彼の「トイレへの探求心」に共鳴した日本人の登場に感激したのでしょうか、筆者がどうしてもそのトイレをこの目で見たいのだと説明すると、一つの座標と共に「幸運を祈る」という趣旨のメッセージが送られてきました。

    どうやらアスキー氏が実際にタジキスタンの地を訪問したのは前述の記事が配信されるより10年も前のことだったようです。友人らと「7つの湖」に向けて山登りをしていたところ、偶然、後に彼自身が「世界一汚いトイレ」と結論付ける”そのトイレ”に遭遇したものの、あまりに興奮したために正確な場所を記録することを怠ってしまったとのことでした。

    (以下原文ママ)
    ———-
    Many thanks for your email. Nearly ten years ago when I took the photos of the toilets in Tajikistan I just thought they were amusing and didn’t have any ideas of doing anything with them, so it didn’t occur to me to record exactly where they were. I can give you a rough idea where the worst one was, a few of the others were also in the same valley that runs South from the road East of Panjakent. My best guess is somewhere near this village at this Google maps location
    I hiked with some friends up the valley with seven lakes and it’s well worth visiting even without the toilets. Obviously after all this time I can’t guarantee any of them will still be there but
    if you have any luck in your search I’d love to hear about it.
    Many thanks
    Graham Askey
    ———-

    それでも、「未だそこにある確証はないし、場所も定かではないが…」と前置きをされた上で、記憶の糸を手繰り、最も可能性の高い地点をGoogle Map上で示し、共有してくださいました。

    タジキスタンの公衆トイレ

    一般的にタジキスタンのトイレはどの程度のものなのかご紹介します。首都であるドゥシャンベ等を除き、きちんと整備された水道網は上下水道共に極めて限定的です。

    首都ドゥシャンベにある飲食店のトイレ。

    ドゥシャンベでは昨今お洒落な飲食店も増加しており、トイレも水洗式で清潔です。但し、トイレットペーパーは便器ではなく屑かごに捨てなければならない等、都市部の排水処理能力も依然として発展途上にあることが窺えます。

    ヴァルゾブ郡の別荘に設置されたトイレ。

    上の写真は、首都ドゥシャンベから約20km北上したところに位置するヴァルゾブ郡のトイレです。避暑地として人気の峡谷であり、それなりに首都からのアクセスも良いですが、トイレの様相となると雰囲気が変わります。出生率が4人前後と子ども人口の多いタジキスタンですが、小さな子どもたちはいったいどのようにトイレを済ませているのでしょうか。落下事故等も頻発しているのではないかと、つい心配になります。

    地元感溢れるトイレ色々

    ひとたび首都圏を飛び出すと、エキゾチックでユニークなトイレの宝庫です。

    アイニ郡の公衆トイレ。

    まずは極上にきれいな部類に入るアイニ郡のトイレを紹介します。便器の一式がなくなり、地面に切り込みを入れたシンプルな造りが基本です。手洗いも水道ではなく、桶等に貯められた水を使用することが多いですが、水源が豊富なタジキスタンでは、湧き水を活用した天然の手洗い場が設けられていることも多いです。

    このトイレが特別なのは、足場に装飾が施されていることのみならず、何と穴の枠部分も金属が打ち込まれている点です (しかもお花の模様入り)。旅の道中にこのようなトイレに巡り合えたら、気分は最高です。

    ルダキ郡の公衆トイレ。

    平均的なトイレですが、筆者の判断では清潔な部類に振り分けられるものになります。これらタジキスタンの公衆トイレの多くに当てはまる特徴ですが、穴の形が三角形になっています。これは単純に、限られた材料を駆使して形状の安定を優先した結果であると推測しますが、どういうわけか細長い三角形の尖端が手前に向かって伸びています。この形状が用を足す際の難易度を各段に上げていることは言うまでもありません。

    ハトロン州ドゥスティ郡の公衆トイレ。

    これは稀に見る四角形のトイレです。アフガニスタンと国境を接するドゥスティ郡北部で発見したトイレです。木材で組まれた足場にしゃがみ込み、糞尿を数メートル下の肥溜めに落下させる形状であったため、ある程度頑丈に作り込む必要があったのではないかと推測しています。

    ヌロボド郡の公衆トイレ。

    ここまでくると、見た感じの印象もだいぶん変わります。筆者がタジキスタン国内で発見した、唯一、三角形が逆さにデザインされた公衆トイレです。「三角形を逆さに配置した方が、トイレを清潔に保てるだろう」という発想の下に設計された可能性がありますが、その判断が功を奏したと言い切れないことは、その有様が物語っています。

    ついに、グレアム氏の示す座標の地に足を踏み入れる

    トイレを探す冒険に独りで休暇を費やすのも寂しいので、当地で開発協力の仕事に携わる日本人の峻典さんを誘い、タジキスタン西部に位置する古都パンジャケント南部の山間に足を踏み入れました。

    ファン山脈を構成する険しい岩肌の峡谷。

    主要道路を外れると、間もなく舗装道路が砂利道に変わり、高配が大きくなるにつれて砂利の大きさも粗くなってきました。そして、路面状況と比例するようにトイレの様子も様変わりしてゆきます。

    ソグド州パンジャケント市郊外の公衆トイレの外観。

    国道に面する道路には少なくとも、周囲からの目線を遮るための囲いがありましたが (ドアの有無や施錠の可否等は最早基準ですらありません)、きたないトイレの世界王者に近づくにつれ、遠目にも内部の様子が丸見えのトイレ、道路からの距離が1mもないすれすれトイレ、トイレとトイレ間の距離がほぼゼロの仲良しトイレ等が次々の目の前に現れ、何ともアクション映画のクライマックスを待ち焦がれる視聴者のような気分になりました。

    世界一のトイレを目指して山道を徒歩で進む。

    座標の地点があと1km程に差し掛かったところで、筆者は峻典さんと車を降り、山の空気を堪能しながら徒歩でそのトイレを目指しました。

    集落の入り口らしき場所。

    緑が増え、集落の入り口に差し掛かりました。それがいつ登場してもおかしくない気配が漂い始め、鼓動が高まります。そして…。

    トイレらしきものが集合している場所。

    突如、小さな石が転がる開けた空間が現れました。そして何と、そこには等間隔でトイレらしきものが並んでいるではありませんか。ここか…!? 気付いたら筆者は走り出していました。

    「世界一汚い」とされたトイレの10年後の姿。

    アスキー氏が写真に収めたトイレにはトタン製の囲い等はありませんでしたが、その佇まいやシルエットは、筆者が脳裏に焼き付けていた「世界一汚いトイレ」と同一のものでした。何せ10年もの年月が経過していたため、断言はできませんが、経年劣化による補修は複数回に渡り施されたのだと思います。

    さらにその周辺もくまなく探しましたが、他に候補となるトイレやその跡地の発見には至らなかったため、このトタンで囲われたトイレをかつてアスキー氏が訪れた「世界一汚いトイレ」であると結論付けることにしました。それは偶然にも、筆者が発見したトイレ群の中で、アスキー氏が示した座標に最も近いものでした。

    「世界一汚いトイレ」を使用する峻典さん (イメージ)。

    正面から観察してみると、囲いは危険な傾き方をしているように見えましたが、後部の柱部分が大きな岩に支えられており、原理上浮き上がるリスクは少ないようでした。そして、内部に入ってみると意外にも不快感はなく、「世界一汚い」と言える水準の汚さには到底満たないものでした。その地位は10年の間に自然消滅していたのです。

    しかし、タジキスタンが、かつて世界最長を誇ったドゥシャンベ・フラッグポールのみならず、かつて世界最汚と称された公衆トイレまでも有していることには尊敬の念を抱くと同時に、実際にその跡地を訪問できたことに大きな喜びを感じました。

    タジキスタンのトイレが語ること

    今回はコミカルな論調で紹介させていただきましたが、無論、トイレは生活に欠かせない重要なインフラであり、きちんと機能している以上、当該コミュニティー外の一日本人が口を出す立場になどありません。アスキー氏の持つ独特なトイレへの探求心に触発された部分もありますが、人道支援・開発援助に従事する筆者は、生活雑排水・汚水管理の観点からも、タジキスタンの公衆トイレを興味深く観察させていただきました。

    本稿で取り上げたトイレのほとんどが、最も容易且つ設置に特段専門性を要することのないピットラトリン (落とし込み式トイレ) と呼ばれるタイプのものです。このタイプのトイレは、特徴として臭いやハエの発生による衛生被害の他、水源汚染のリスクを孕みます。しかし、筆者が観察した限り、タジキスタンにおいてはこれらの問題が深刻であるという兆候は確認できませんでした。

    無論、これらのトイレが土壌汚染を通じてタジク人の健康を害している可能性を排除するものではありませんが、大陸性気候の乾燥地帯に属しているタジキスタンの土壌は、この類のトイレの活用に比較的適したものであるのだと思います。

    開発ラッシュの真只中にある、首都のドゥシャンベ。

    世界には未だ、一つのトイレを数百世帯の家族が共有することを強いられたり、清潔なトイレの不備や水害による屎尿の流出等が原因で感染症に悩まされたりする地域が数多く存在します。タジキスタンのトイレもまた、筆者がこれまで当たり前のように享受していた水洗式トイレの有難みや、世界を取り巻く水や衛生の問題について考えるきっかけを与えてくれるものとなりました。

    私が書きました!
    ウガンダ在住ライター
    村中千廣
    2024年よりウガンダ共和国在住。人道支援・開発援助分野でキャリアを構築しながら、赴任先での発見や観光情報を発信するフリーライター。訪問国・地域多数。これまでの中・長期滞在歴はニュージーランド4年、スイス3カ月、カナダ4年、レバノン6カ月、タジキスタン1年3カ月など。北海道出身、30歳、訳書に『地下鉄で隣に黒人が座ったら』。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

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