アパラチアントレイル最終章 ビバルマントラックの旅 vol.018
翌日以降、ペースが違うはずのグリフィンと一緒に歩くことになってしまいました。歩きながらも話は続きます。僕の日記には「8日間も本降りの雨が続いている、勘弁してくれ…」と文末に書いてありました。それほど雨がひどかったのです。
とくに、この頃の雨がひどく、ほとんど写真を撮っていませんでした。グリフィンと歩き始めて2日目、2回目の補給地点ドネリーリバービレッジのショップにお昼頃に到着したのでした。
僕は早速、SOTOのストームブレーカーが届いているか確認すると、「どれか分からないから勝手に持って行ってくれ」と言われましたが、数個しか荷物がなく、簡単に荷物を見つけ出せました。
ほっと胸をなでおろし、ガソリンを買いたいと伝えると、「これか?」とホームセンターに売っているボトルを出されました。
「違うよ、車に入れるガソリンだよ」というが通じません。それを見ていた、グリフィンが会話に加わりました。
グリフィンいわく、オーストラリアで「ガソリン」は通じなく、車に入れるガソリンは、「Petro(ペトロール)」と呼ぶのでした。
こうして、僕はオーストラリアに来て初めてガソリンを手にしました。まさか「ガソリン」の名称が違うとは考えもしていなかったのです。
そして、なぜガソリンはジュリー缶(ガソリン携行缶)でないと売れないのか?という謎も判明。
僕は、消防法のようなものがあるのかと思いましたが、ここで聞いた話では、アボリジニの人がガソリンを吸引することが多く、それを防止するために車に入れる以外のガソリン販売は規制されているそうでした。さて、私のチープな英語でどれだけ正確に聞き取れたかは不明でしたが、グリフィンが言うには「ペトロールを入れたい」とボトルを出せば、もしかしたら入れてくれるところはあるのでは?と言っていました。当たり前に買えると思ったガソリンの補給にここまで手を焼くとは考えてもいませんでした。
グリフィンは昼食を食べてから先へ進む予定です。僕はドネリーリバービレッジにある無料のシェルターを見にいきました。やはり、日陰は日中でも寒く、ダウンを着こんでいる人がほとんどでした。
僕が歩いていると、アジア人がめずらしいのか何人かの人に声を掛けられました。「パースから歩いてきたって?!」「アルバーニに行くって?!」ビバルマン・トラックのことを知らない人ばかりでした。彼らの情報によると今年は異常気象で、アルバーニはつい先日、暴風で大きな被害にあっているらしいという情報でした。
食料に困ったらおいで、分けてあげるからと言われ、シェルターもそこそこ良い感じだったこともあり、僕はここに泊まるつもりで荷物を置いたショップへ戻ったのでした。昼食を食べ終わったグリフィンは、「MASA、次のシェルターに一緒に行こう、ほら、ほら」と相変わらず強引です。自転車版のビバルマントラックをいく女性2人は、昨日、電波の入るところで天気予報を確認したらしく、明日は天候が悪くてとても長い距離は歩けないよという情報を教えてくれました。
ドネリーリバービレッジは、携帯の電波が入らない上に恐ろしい物価でした。正直泊まる理由はありませんが、行く理由もありません。お昼を過ぎた今から18kmの道のりを歩くもの気が進みませんでした。
悩んでいると、地元の子供なのでしょうか、小さな自転車にまたがった子供が僕の前で止まり、開口一番、こう言ったのでした。「明日は、ストームがやってくる。明日はストームがやってくる。天候が悪いよ、危険だよ?!」話したこともない子供がわざわざ僕の前に来てセリフともいえるような言い方と誰かに仕込まれたような言葉に笑えました。確かに先に進めば、選択肢は増えます。「よし、グリフィン行こうか?」僕達は先に進んだのでした。
つづく
【Profile】斉藤正史
山形県在住
LONG TRAIL HIKER
NPO法人山形ロングトレイル理事
トレイルカルチャー普及のため国内外のトレイルを歩き、山形にトレイルを作る活動を行う。
ブログ http://longtrailhikermasa.blog.fc2.com/
山形ロングトレイル https://www.facebook.com/yamagatalongtrail