7月25日に、はくちょう座の首にある変光星のχ(カイ)星が極大を迎えます。4等台まで明るくなっているので、空の暗いところでていねいに探せば肉眼でも見つかります。ふだん見えないχが見えると、はくちょう座の長い首の形もちょっといつもと違って見えます。
真夏の夜空を飛ぶ白鳥の十字に注目
はくちょう座は夏の星座にカウントされていますが、7月の後半でも21時ごろはまだ東よりの空にあります。
1等星のデネブを目印に、はくちょう座の形を追ってみましょう。翼を広げた十字形の形をしています。デネブは尻尾のほうです。天頂の方角に向かって、くちばしを伸ばすかっこうで飛んでいます。くちばしの星はアルビレオ、3等星です。十字形の中心にあるのがサドルという2等星です。デネブ、サドル、アルビレオを結んだラインが把握できたら、今回の主役、χ星を探してみましょう。
χ星は約400日の周期で光度が変わる変光星です。いちばん明るいときで3等台、暗いときで12等台の幅があります。7月25日前後が、いちばん明るくなるころです。「極大」と言います。極大のたびに3等まで明るくなるとは限らず、今回は4~5等台になると予測されています。
χ星は膨らんだり、縮んだりする周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す変光星です。その周期がだいたい400日ということです。ちなみに明るくなるのは、星が縮んでいるとき。膨らむと、その分、暗くなります。変光星にはいろいろなタイプがありますが、χ星はそろそろ寿命が近い老星で、色は赤っぽく見えると思います。
χ星は、ふだんは6等以下なので、肉眼で見ることはできません。今回は極大と言っても4等台なので、街中でぎりぎり見えるかどうかです。デネブ、サドル、アルビレオのラインはおなじみでも、その間にあるχ星の位置は、ちょっとわかりにくいので、双眼鏡で探すことをおすすめします。
χ星はサドルとアルビレオを結んだ首のラインの、ややアルビレオ寄りにあります。χの近くに4等星のη(イータ)という、χと間違えやすい星があります。
まぎらわしい反面、似たような明るさの星が近くにあることで、χの明るさ判断に使えます。χがηと同じくらいの明るさに見えれば、4等台まで明るくなっているということですし、ηより明るく見えたら3等台まで明るくなっていることがわかります。
変光星のおもしろさは、予測のしにくさにもあります。χ星の極大時の明るさは4~5等になることが多いとされていますが、実際にどれだけ明るくなるかは、見てみないとわかりません。それだけに観測のしがいがあり、天文ファンの中には変光星を専門に観測しているマニアも多くいます。
3等台まで明るくなれば、肉眼で見ることができます。夏空に翼を広げて飛ぶ白鳥の首が、いつもよりちょっとだけ曲がって見えるでしょう。
アラビアでは白鳥ではなく鶏だった
上の図をよくよく見ると、おもしろいことに白鳥の腹や足が描かれています。星座絵には正式に決められた絵というのはないのですが、これは飛ぶ白鳥を下から描いたパターンですね。
ところで、アラビアでは昔、はくちょう座は白鳥ではなく鶏でした。アラビア語で10世紀に書かれた『星座の書』という本があります。ここに記されている絵は鶏なのです。翼を左右に広げ、今にも飛び立ちそうな勢いです。
古代ギリシャ時代には「鳥」というのが正式な呼び名で、実際には白鳥と解釈されることが多かったのですが、それがアラビアに伝わって、なぜ鶏として描かれているのかは不明です。
長い歴史をもつ星座には、アラビアの影響もさまざまな形で残されています。アラビア語が元になっている星の名前は数多く、はくちょう座の1等星のデネブは、もともとアラビア語のダナブです。尻尾という意味です。
現在では鶏の星座は残っていません。どこかに逃げてしまったのでしょうか……。それはともかく、7月25日とその前後は、はくちょう座のχ星が極大です。25日前後も同じくらいの明るさをキープしているので、25日が曇りでもあきらめず観察を続けてください。
構成/佐藤恵菜