
おあとがよろしいようで。…いや、違いますね。
そんな我々アウトドア好きの「天敵」である雨の日でもへっちゃらなアクティビティーがあります。それは「洞窟探検」です!
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。今回はザルツブルクから列車またはバスで最短約40分の「ハライン岩塩抗」(Salzwelten Hallein)を紹介します。Salzweltenは「塩世界」を意味する造語というか施設名で、ハラインは街の名前です。
【オーストリア・ザルツブルクとその周辺旅vol.4】ヒャッホーなすべり台だけじゃなかった!
このハラインの岩塩抗、少なくとも2600年くらい前からは使われていた岩塩の炭鉱の坑道などをそのまま利用して、今は博物館にしているもの。地下深くに下っていく際にすべり台を利用するのが有名(階段で降りることもできます)で、パンフレットの表紙などにもその写真が使われています。
となるとそれがメインアクティビティーだと思うじゃないですか。で~も! さらなる絶叫アクティビティーが地下深くの世界に潜んでいたのです。
さてそんなこんなで到着時の天気。

レインウェアを着るだけじゃなく、思わず傘まで差しましたよ。

バス停からは同博物館の専用駐車場の脇などを通って、この入口まで約3分。
隣接した「ケルト人村」とあわせて入場料は大人32ユーロ(約5500円。2024年6月現在)。チケット販売ブースのまわりのスペースにあった「岩塩採掘の歴史」のパネルがすごく面白くて、食い入るように読みました。

石器時代に狩りをしていた人がたまたましょっぱい泉を見つけたのがそもそもの始まりだとか。

時代ごとに「こんなふうに岩塩を採掘して精製した」みたいなことを展示パネルで伝えてくれます。
ちなみにこの博物館を所有しているのはもともとここでも塩を掘っていたザルツヴェルテン(Salzwelten)という会社。このあたりにいくつもの岩塩坑を持っていて、全部合わせると113キロメートルにもおよぶのだとか。

坑道内の気温は一年中摂氏10度。
服の上から身につける専用のジャケットとズボンは貸してくれますが、少し防寒対策をしたほうがいいと思います。
なんて珍しく真面目に取材をしていたら、気づいたときには坑道探検ツアーの開始時間が過ぎていました。慌ててツアースタート地点へ。最初のプログラムであるミニ映画が上映されているシアターに入ったところ、いきなりの洗礼見舞われました。

まさかの中学生の社会科見学と同じグループ!笑
1つのツアーの定員が60人のようですが、彼ら以外は私とオーストリア人のご年配の夫婦のみ。子ども対大人は57対3! それどころかドイツ語話者対ドイツ語理解できない人間は59対1。完全にアウェイです。

おそろいの防寒着を身につけたあと、一度外に出て階段を降ります。
で、中学生たち、私にどんどんドイツ語で話しかけてくるんですわ。まあ、オーストリアはドイツ同様に東ヨーロッパとか中東からの移民が多いんだと思うんですが、アジア系の移民もいないわけじゃないからその一人だと思われても不思議はない。
けど英語で返すと黙りこくる。だいじょうぶか、オーストリアの英語教育と自分のことを棚に上げて思ったりもしました。私も中学時代、英語で話しかけられたらきっと固まっていたでしょうし、まるで岩塩のように。
うまいこと言ったような気分に最初はなったけど、そうでもないことにすぐに気づきました。反省は大切。…だったらこの一文削除しろと言われそうですが。笑
その一方でガイド役の青年はすべての説明をドイツ語のあと英語でしてくれるのですが、こちらは流ちょう。
ただ念のため訊いてみたところ、それはドイツ語を理解しない私がいたからで、いつも英語の説明をつけるわけではないとのとこ。
つまりこのグループにおいて英語のアナウンスは60人中59人には全く必要がないもの。みんなの時間をとってしまっていることに気づきものすごく申し訳ない気分になりましたよ。…要らん質問するんじゃなかった。
ちなみにですが受付横にあるQRコードで各国語の音声ガイドをスマホにダウンロードできるとのこと。てなわけでイヤホンまたはイヤポッドを忘れずに。

日本語もあります。
さてさきほどの場所から階段を降りるとこんな光景が。

「ちょっと幅広めの平均台」みたいなものに中学生たちがまたがっていました。
これ、前に座るのが好きな女子とかだったらすごくドキドキするだろうな。…と余計なことを考えながら、ちゃんと男子中学生たちの間に場所を確保する東洋人のオヤジ。
さてこれはなにかというと、下に車輪がついているトロッコだとのこと。トロッコというと上に箱みたいなのが乗っているもんだとばかり思っていたけど、こういうのもあるんだなあ。いやいや、だけど映画『小さな恋のメロディー』のラストシーンで乗るトロッコは平らな荷台だったなあ…と完全に同乗グループの年齢層に影響を受けまくりの甘酸っぱい連想を頭の中で繰り広げていたらトロッコがゆるゆると出発しました。
でもゆるゆるだったのは最初だけ。

暗い坑道内を爆走します!
カーブなどはまったくないといっていいほぼ一直線の線路。だけど足を踏ん張る床はあっても手で握っておくバーみたいなものがないのですごく迫力があるんです!

これがすさまじく楽しい。これだけでここに来た意味があるくらいです。
てかいきなりこんなメインイベントを持ってきて尻すぼみにならんのかと、こっちが逆に心配したりして。

トロッコを降りて歩いて、先に進みます。
たどりついたのはトンネルの中の広いスペース。こういうのがいくつかあって「展示室」になっています。

最初の展示室では21世紀、つまり今の岩塩採掘の方法についての説明。

ここでもショートフィルムを見せてくれます。
私は岩塩と言うと「クリスタルみたいなきれいな塩の塊」だとばかり思っていたんですが、そういう採掘方法もあるにせよ、今はドリルで岩塩の含まれる層を掘りながら水を注入して、塩水を採取。それをバンブラインなどで工場に送り、水分を蒸発させて塩を精製するそうです。言ってみれば海水から塩をつくるのと同じですね。
こういう手法であれば、落盤事故のような危険はほとんどないとのこと。確かにそうですね。人命第一です。
次の展示室に向かいます。

構造も立派で、しかも照明も急に明るくなったと思ったら理由がありました。
なんと地下でオーストリアとドイツの国境を越えるのです。

両国の国旗も仲良く並びます。
じつは私、陸路で国境を越えたのはこの前に滞在していたドイツのシュトゥットガルトから、このオーストリアのザルツブルクに来たときが最初なのですが、列車に乗っている間に知らないうちに越境していました。
というわけで実質初の「国境越え」体験が嬉しくて、何度も越えてやろうと思ってこの両国国旗前で反復横跳びみたいに移動していたら…見事に中学生たちに笑われましたよ。
キミたちみたいな他国と地続きの国で生きてきた人間は、島国日本で生まれ育ち、自国だけで大陸になっている国オーストラリアに住んでいる者の気持ちなんてわからないだろうな。…まあ、わかったところでなんのプラスもないとは思いますが。
しかし地下で国境を越えるのは本当に貴重な体験です。ちなみにここの鉱山の7割はドイツ領の下。オーストリアはドイツで塩を取らせてもらい、ドイツはオーストリアの森林を管理して伐採するというバーター取引的なものが成立しているのだとか。
そしていよいよ噂のすべり台!

写真左の「おもちゃの兵隊」みたいな恰好をしているのがガイド氏。
よくよく考えたら「おもちゃの兵隊」は「兵隊」そのものの衣装をまとっているのだから、「兵隊みたいな恰好」でいいはず。でもやっぱり「おもちゃの兵隊」のほうがわかりやすいですよね。

すべり台を下から見たところ。
ちなみに一人で滑ってもいいし、最大3人くらいですべっていいそうです。私は…もちろん「ぼっち」でしたよ。ちなみにオーストリア人の年配のご夫婦は階段で降りてきました。
このすべり台、2ヵ所あります。

他にも塩水に浮かべた船に乗ったりとアトラクション満載。
この船は動くのもゆっくりで移動距離も50メートルあるかないかといった感じですが、ただ展示を見せるだけでなくいろいろなものに乗せようという気持ちがうれしいじゃないですか。
こうしたアトラクションのあいだにあるいくつかの「展示室」で、岩塩採掘の歴史を現代から紀元前にさかのぼる形でガイドさんが説明やショートフィルムの上映があります。
最後に再び爆走トロッコに乗ります。

よく見たらトンネル内にレールが2組敷かれていますね。さすがに探検ツアーですれ違うことはないと思いますが。
このあと長いエスカレーターで地上に戻ってツアーは終了です。
「学び」があるだけでなく、トロッコ乗車やすべり台などエキサイティングな「アトラクション」がある。しかも実際に使われていた炭坑跡。素晴らしい「生きた博物館」でした。

塩などを売るショップも。みんなに喜ばれるお土産ってむずかしいですけど、塩はだれでも使いますよね。

個人的にはこの「岩塩ランプ」にちょっと魅かれました。
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
ザルツブルク市観光局
オーストリア政府観光局
