磯遊びは五感を使って楽しむべし!
「キャ〜、黒い物体がいっぱい」
「ニセクロナマコですよ。お腹を触ってみると、ジャリジャリするでしょ? 砂についた汚れを食べてキレイな砂を糞で出してくれるんですよ」
「……なんか可愛く見えてきた」
ここは和歌山県串本町にある、串本海中公園内に位置する錆浦海岸。事前に申し込めば、施設内の水族館の飼育員と一緒にタイドプールを観察できるのだ。
「串本は温帯気候ですが、海中は暖流の影響で熱帯・亜熱帯の世界が広がっています。海中公園一帯は、世界最北のテーブルサンゴ群生地ですし、春から秋にかけて、タイドプールでスズメダイやチョウチョウウオ、ハコフグの幼魚などを見ることもできるんですよ」
と、飼育員の中村公一さん。
ここで捕まえた生き物を、水族館で飼うこともあるのだとか。
「水族館で生き物を見るだけではなく、自分たちで探して、実際に触ってもらいたくてはじめた体験イベントです。ナマコが硬いか柔らかいか、どんなにおいがするのか、専門家がついていれば安心して触れますよね」
ここで体験したことをきっかけに、自分たちの地元の海でも生き物観察をしてほしい。
「上から見てると、不思議と捕まえたくなっちゃう」
と、生徒ふたり。
「じゃあまずは、ひたすら石をひっくり返しましょう。何かしら隠れていますから」
「ヤドカリ発見!」
「爪が白いでしょ。黄色いのも探してみてね」
「水中にいる魚は無理?」
「網の底をぴったり海底につけたら、そこに手で追い込むだけ」
「あぁ、エビが捕れた!」
最初はおっかなびっくりだったのが、気付けば素手でヒトデを捕まえたり、ハゼやボラの幼魚を追い込んだりと、たった数時間でスキルアップしているのが、なんともたくましい。
「海の生き物を知ってから行くとさらに楽しいですよ。知識がある分、実際に見ると感動もひとしおです。怖がる必要はないけど、油断は禁物。危ない生き物もチェックしましょう」
五感を使った磯遊びは、単純だけど時間を忘れる面白さだ。
教えてくれた人
串本海中公園・水族館係長
中村公一さん
高校の生物部で生き物にハマる。毒のある生き物が好きで、水族館での専門はクラゲ。磯の生き物にも精通。芝犬の母娘を溺愛中。
海の入り口へGO!
生徒
島村 明さん
水族館の窓口ではチケット販売、観光船ではガイドも担当。磯で遊ぶ機会が少ないので勉強も兼ねて挑戦。ハリネズミ一家と同居中。
生徒
三浦ひまりさん
ダイビングが趣味で、潜水士の資格を持つため、観光船の潜水窓の掃除も担うパワフル女子。串本の海が気に入り、静岡から移住。
準備するもの
❶深場ではシュノーケリングマスク&眼鏡があると便利。
❷透明の観察ケース。
❸手を保護する軍手。
❹一辺が平らになった網。
❺爪先が隠れるマリンシューズやサンダル。
地元、串本の海を保護する海中公園
串本海中公園 水族館
さまざまな展示水槽を楽しめる水族館のほか、自然をそのまま楽しめる海中展望塔や、半潜水型の海中観光船などがある。
住所:和歌山県東牟婁郡串本町有田1157
電話:0735(62)1122
営業時間:9:00〜16:30(水族館・海中展望塔)
定休日:年中無休
HP:https://www.kushimoto.co.jp
磯遊びを安全に楽しむための3つの法則
大潮の前後3日に出かけるべし
一日の潮位差がもっとも大きい大潮(月2回程度)の前後3日の干潮時を狙う。潮見表カレンダーで行き先の大潮の日時をチェック。
カキやフジツボの上は歩くべからず
岩の上のカキ&フジツボ類の殻は縁が鋭くなっていることが多いので、踏まないように注意。濡れた藻も滑りやすいので避けるのが無難。
トゲのある生き物は素手で触るべからず
写真のガンガゼ(ウニの一種)をはじめ、カサゴなどのトゲのある魚は、刺さると痛いうえに毒があることも多いので直接触らない。
Step 1 岩の下を探す
まずは大きめの岩をめくり、岩の下や裏側を探す。水があまりないところでも、貝類やカニ類、ヒトデなど、取り残された生き物を見つけられる。
コイトマキヒトデ
見過ごしがちなコンペイトウのようなミニサイズのヒトデ。ヒトデ界でももっとも身近なイトマキヒトデの仲間。
ホンヤドカリ
いちばんポピュラーなヤドカリ。歩脚の先端の白い帯で見分けられる。先端が黄色いのはイソヨコバサミ。
イソカニダマシ
甲幅が1㎝ほどで、こう見えてヤドカリの仲間で、ハサミと足は合わせて8本。磯遊びの名脇役。
ヒライソガニ
全国でもっとも普通に見られるカニ。
甲は平らで色は貝殻などに擬態する。甲をつかむと挟まれない。
イソクズガニ
スピードも攻撃力もない分、海藻を纏い、カモフラージュに特化。甲が洋梨型でどことなく愛嬌がある。
Step 2 浅瀬は網を使って捕まえる
網を海底にぴったり当ててセットしたら、網に向かって手でそっとエビや小魚を追い込む。流れがある場合は下流側に網を置く。
イソスジエビ
体が透明なので、食べたものが透けて見え、観察すると面白い。成長しても3〜4㎝だが、食べることもできる。
Step 3 深場は水中眼鏡で海底観察
波の影響を受けない深場なら、シュノーケリングマスクと水中眼鏡で海底観察も面白い。透明ケースで覗くだけでクリアな海底世界を楽しめる。
アカクモヒトデ
長い腕をクネクネと使い、敏速に海底を移動。種類も多く、なかには腕の長さが60㎝になるものも!?
コシダカウニ(左)/ツマジロナガウニ(右)
どちらも短いトゲで覆われているが、先端が尖っておらず手で愛でられる。ナガウニは楕円形の形から付いた名。
トラフナマコ
マダラ模様が特徴。キュビエ器官(外敵から身を守るための器官)が発達していて、刺激を与えると逆襲を受ける。
※構成/大石裕美 撮影/利根川幸秀
(BE-PAL 2024年9月号より)